8冊目 知絵 エイミカ。『Flowers』

 サークル名:cherry’sRing

 著者名:知絵 エイミカ。

 書名:Flowers(漫画『あなたに…』、小説『小さなメの話』)

 書誌データ:A4版 24ページ(漫画12ページ、小説12ページ)


 感想

 何の書評で読んだのか忘れてしまったが、ちょっと前に『魚は痛みを感じるか?』という本が取り上げられており興味を持ったのを覚えている。結局、興味を持ったまま買いもせずに今日に至っているわけだが、書評を読んだ限りでは確か、魚に意識があるかどうかまで触れている本として紹介されていたように記憶している。

 面白い問いである。

 花はどうであろうか。

 花が踏み荒らされたり、無下に摘み取られたりするのを見ると、ごく自然に「可哀そう」という感情が湧く。なんとなく、そこに意識や感情みたいなものを見出し、慮ってしまうのだ。

 草ではこうはいかない。芝生はバリバリ刈られるし、雑草は無感動に抜かれ、草ぼうぼうのけもの道を踏みしめて歩くのはむしろテンションが上がる。草にはあまりできない感情移入が花にはできる。かといって、全面的にそうかと問われるとちょっと自信がなくなる。オジギソウみたいに触れて動くものには感情移入ができそうだ。外壁に根を下ろす蔓草は微妙だけど、ジャングルで虫を捕食している食虫植物にはもう、普通に意識がありそうに思える。

 しかし、それらはあくまで客観的な感情移入に過ぎず、冒頭に挙げた本のように科学的アプローチをしてみないと分からない。いや、それでも分からないのかもしれない。そもそも意識を持つということの定義が難しい。

 それならいっそ、文学的アプローチにしてしまえ。という発想の起源は割と古く、人以外の存在に人のような感情を持たせて語らせる創作物は結構昔からあったりする。付喪神とかね。

 特に日本は文化的に感情移入が盛んであるように思う。これも何かの書評で読んだ話なのだが、長年使った機械とかに思い入れを持つというのは、欧米人にはなかなか無い発想らしい。人型ロボットがギクシャク動いて、合成音声で言葉をしゃべればもう感情移入などは容易い筆者からしてみれば不思議な話である。

 サブカル方面でもいろいろなものが擬人化され話題を呼んでいる。あまりタイムリーな話ではないがゴキブリでさえ擬人化され愛でられる日本である。やはり人以外の存在の中に人を見出すことにかけては、得意なのだろう。

 本書もそういう話である。

 病院の中庭に植えられているまだ土の上に顔を出していない花の芽が、入院中の少年に惹かれ、あるきっかけから話をするようになってやがて……と、ストーリー自体は王道ながらも、心温まる話である。です、ます調の語り口も内容と相まって効果を上げているように思う。読み終わった後、少しだけ人に対して優しくなれそうな気がする、そんな話。


     ○

 小説同人の感想ということで、併録の漫画にはほとんど触れなかったが、こちらも花をテーマにした恋愛作品。詳しくないので、あまりきちっとした感想は言えないが、花と恋愛をテーマにきれいにまとまった作品で、面白く読めた。

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