7冊目 ひーらぎ『勇者がヒモになったなら』

 サークル名:よろづや本舗

 著者名:ひーらぎ

 書名:勇者がヒモになったなら

 書誌データ:文庫版 238ページ


 感想

 ここだけの話であるが、筆者は働くのが大嫌いである。できれば働かずに好きなことだけして生きていきたいという思いを常々胸に秘めている。

 なぜ秘めているのか。

 それは右のようなことを放言し堂々と主張して憚らない、などという態度を取ったら、将来性・生活力を著しく欠いた無能な阿呆と見做されるからで、そんなふうに見做されるとどうなるかというと、女性にモテなくなってしまう。恐ろしいことである。

 だから筆者は心を発狂寸前まで追い込みながらも平気な顔をして、しかしその実、歯をぎりぎり食いしばっているんだけど声は上滑りに調子がよく、口を開けば阿諛追従の嵐なのにもかかわらず脳内ではなるべく早く円満に退職する方法を考え続けているという感じに、ほとんど人格分裂者みたいになり果てながらも仕事に従事してきたのである。

 その結果どうだったか。

 まったくモテなかった。

 これはもう、ゲームで言うのならバグの類であり、まったくもって意味が分からず、理不尽としか言いようがない事態である。こんなことになるだったら、最初から我慢して仕事などしないで、親のスネをかじり倒し、好きなことだけをやり続け最後はニートとして朽ち果てる、そんな人生を送ればよかった。とは、さすがの筆者も思わない。

 我慢して仕事をしていれば勝手に女が靡くなどという考えがそもそも、モテない奴の思考であり、逆にこんな考えから離れない限りはいくら働いてもモテはしない。

 いみじきひがごとである。

 ってぇ思って、驚くのは、この世にヒモと呼ばれる人々がいることである。

 形態はそれぞれあるかもしれないが、基本的にへらへらして女に養ってもらい、自分は日がな一日好きなことをしているのだろう。

 羨ましい限りである。

 こんなことを言うとモテなくなるというのを承知で、敢えて、もう一度言おう。

 羨ましい限りである。

 ある種、モテの究極形ともいえる。ここまで行けば人間、モテるだけで食っていけるのだからただごとじゃない。生活力が無さ過ぎて逆にそれが生活力になっている、みたいなことになっている。もはや才能と言ってよく、選ばれし者という表現が妥当かもしれない。なんてことを思うのも本書を読んだからかもしれない。

 本書では表題通り、勇者がヒモになっている。筆者にとってはどちらも選ばれた存在であるから、そんなに違和感はない。わけない。

 魔王と雄々しく戦う、まさに雄を体現した勇者という存在と、軟弱者に直結するイメージを持つヒモ。その落差ゆえに本書の設定には惹きつけられずにはいられない。葛藤を抱えながらもヒモ生活を送る勇者が直面する事実、そしてそこからの成長。それは是非とも本書を読んで味わってほしい。

 ヒモになれないのなら、せめて勇者に転生した方が今よりも楽かな、いや死ぬかもしれないし嫌だな、と考えながら一気に読破。

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