第5話人とは

フクロウがツアーの終盤に相応しいうやうやしい声でアナウンスした。


「さてそろそろ終わりになりますが、この人物園では絶滅危惧人の繁殖にも取り組んでいます。人間のSEXはけっこう長く激しいのでお子様には刺激的かもしれませんが・・・。ともかくハーフやクォーターの子もたくさんいますが、みんな等しく愛すべき存在です。肌の色だって、目の色だって、平均身長だって千差万別です」


「ツアーには含まれていませんがそのような鑑賞エリアもありますので、ぜひ子供たちの愛らしい姿をご覧になってくださいませ。それが当人物園で一番に見て帰って欲しい光景であるかもしれませんから」


 私は人の子供たちの愛らしい姿を見るのに異論はなかった。愛の行為としてのSEXを見るのも異論はなかった。それらがこの人物園で一番価値のある光景であると言われても、そうなのかもしれないとさえ思った。

 

 しかしそれ以前の問題として、「人とはなんだ?」「人間とは何なのだ?」という根本的な疑問が脳裏に取りついた言霊のようにぐるぐると回転していた。

 

 私はもしユダヤ人の言う神という存在がいるのなら、何時間でも人間について説明を求めたかった。人間愛を語るフクロウにも説明を求めたかった。しかし私には有効な助言を与えてくれる存在はおらず、周囲の空気は虚空のように何も語らなかった。


 この人物園では人間は尊厳の下に丁重に扱われるが、私と、私の思想は冷たい海をさまよう孤独な海藻だった。


 フクロウが最後の挨拶をする。

「さて皆さま、これで本人物園のツアーガイドは終了させていただきます。私のガイドが少しでも皆さまの人間に対する思索の一助になっていれば、これに勝る喜びはありません」

 

 フクロウの人間への愛情に満ちた声が、冷たい海をさまよう孤独な海藻に届くことはなかった。

 

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人物園ツアー 秋茄子 @aki-nasu

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