第4話黒人と色

「最後に黒人を紹介いたしましょう。飼育員は黒豹ですね。彼らもユダヤ人に劣らない屈辱の歴史を持っています。彼らは歴史の一時期、『奴隷』として世界的に大陸さえ越えて売り買いされていた過去がありました」


「飛行機なんてない時代に、航海によってですよ。船内では飢餓や疫病が流行り、多くの黒人は無意味な死を迎えました。また色がとても濃く、異色の人間と見なされて差別をされてきました。これもまた痛ましい真実です」


「しかし彼らの肌を見てください。飼育員の黒豹もなかなか見事ですが、それに劣らぬ美しい色でしょう?少なくとも私にはそう見えます。動物にしたってどうして色の差異などで差別なんてするでしょうか?」


「私たち動物が色を評価するのは、孔雀が自分を美しく見せるために虹色の羽を広げた時や、カメレオンが体の色を保護色にして危険から身を守る時です。つまり美しいものとして見なされる時や、自分自身の命を守るために懸命になっている時の色が大事なのです」


「この黒人たちの色はかつて偏見の下、闇に葬り去られかけた貴重な色です。有形文化財としての色とでも表現するべきものでしょうか。これも私たちが全力で守らなくてはならない対象でありましょう」


 ツアー参加者の動物たちは腕を組んでううむと唸りながらフクロウの説明を聞き、黒人たちの肌の色をじっくりと鑑賞している。

 まるでそこには黒色の宝石があるのですよ、とささやかれているように。


 私は相変わらず人間という存在のものの考え方がいまいち分からなくていささかイライラし始めていた。奴隷となんだ?色の差別とはなんだ?どうして同族同士で奴隷制度なんてものが成立しうるのだろう。どうして色の違いで優劣が発生しうるだろう。

 

 その根本的な生物としての思想の違いは、私の想像をはるかに超えており、理解することは不可能だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る