仲良し姉妹がバイキング

くろい桜花

第1話

 はじめまして、皆さん……もぐもぐ。もきゅもきゅ。

 わたしは、もぐもぐ。妹です、もぐもぐ。

 どうしてこんなにもぐもぐしてるかと言うと、只今絶賛もぐもぐ

 っと元気よくスイーツや好きなものが食べ放題の楽園にーーー。


「妹ちゃん、ほっぺたに生クリームついてるわよ?」


 ふきふきふき。

「まったく」と何やら楽しそうに呟くお姉ちゃんに生クリームを拭き取られました。

 そう、お姉ちゃん。またの名をーーー夢の案内人!

 普段は家庭的諸々の事情であまり贅沢出来ないわたしの為に、こんな世界へ拉致ってくれた最高のネ申、ゴッドなわけです。もぐもぐ。


「そんなに焦って食べなくても、別にスイーツがなくなるわけじゃないのよ?」

「それは違う、お姉ちゃん!

 わたしはーーーあまりにもスイーツがおいしいからアドレナリンが加速しているのだあああっ!!」

「妹ちゃん……背伸びして難しい言葉を使うのは良いけど、まるでわけがわからないから、それ」


 そうやって苦笑気味にツッコミを入れるお姉ちゃんの食べる速度は、やっぱり遅いです。

 こんなにも美味しいのに、どうしてだろう?


「お姉ちゃんは、おいしくないの?」

「すごく美味しいけど?」


 たしかにお姉ちゃんの食べ方は、すごく美味しそうに見えます。

 なんていうか、一気に食べるわけじゃないけどゆっくりと、よく噛んで、美味しそうには見えますが……。


「じゃあなんでそんなにゆっくり食べてるの?」

「妹ちゃん、以前バイキングで食べ残していたし、今回も食べ残すと思って」

「あ、あれはお腹いっぱいになっただけだし!」

「知ってる、知ってる。妹ちゃんはお子さまだから、まだ食べる量を自分で調整出来ないのよね」


 ぐ、ぐぬぬ……。

 何も言い返せない……もぐもぐもぐもぐ。

 決して調整しようとしてないわけじゃないですけれども、だって好きなものがいっぱい置いてあるとついつい手がですね……。


「いい? この手のバイキングーーー妹ちゃんにもわかるように云うと、食べ放題では、自分が食べられる量だけ、少しずつとっていくものなのよ?」


 出来の悪い妹に注意するように、お姉ちゃんに言い聞かせられました。

 まあでも、わたしはこの量ーーーお皿いっぱいに盛り付けたカルボナーラと、これまたお皿いっぱいのスイーツを食べ切れる自信ありますけどね!?


「もしも本気で食べられると思ってそれだけ取ってきたならーーーそうねぇ」


 お姉ちゃんはうーん、と考えた後に。


「妹ちゃんの分のお会計は、妹ちゃん自身に払ってもらいましょうか」

「ぶふぉっ!?」


 しれっとそんなとんでもないことを言われて、吹き出しそうになってしまいました。

 いやまあ、ちゃんと手を抑えることで阻止したから、吹き出すことはなかったですけどね? ホントですよ?


「あら、どうしたの? 妹ちゃん。顔色悪いわよ?」

「そそそ、そんなことないし」

「そう。さっき『ぶふぉ』と聞こえたのは気のせいなのね?」


 容疑者を眺める警察や探偵みたいな目でじーっと見られました。

 視線が痛いです、視線がっ!


「さっきのぶふぉはオナラだよ。一発ギャグ」

「妹ちゃん……私は貴女を食事中にオナラをするような悪い子に育てた覚えはないわ」

「セイリゲンショー」

「一発ギャグだという言い訳を早速忘れてるわよ?」

「しまっ……」


 た。

 そう言い終えるにゴゴゴゴと擬音が出てきそうな謎オーラが!?


「悪い子にはお仕置きが必要ね」


 ひぃぃぃいいい!

 お姉ちゃんが差し出してきたフォークにはーーー弱点のピーマンが、ピーマンがー!

 サイズ自体はかなり小さいけれどもーーーだからといって彼の圧倒的存在感というか、もう見るだけで苦いよこれ!感は健在です……。マジヤバイです、勘弁してください。

 そもそもなんでピーマンなんて存在するのか不思議です、わたしは断じてピーマンなんて食事と認めないですよ!?


「というかもうこの際、ピーマンアンチの会を結成して全宇宙からピーマンという概念自体の抹消をですね……」

「妹ちゃん、何言ってるの? 心理描写が途中からだだ漏れよ」

「い、いっつあじょーく」

「ふぅん? まあ、そんなことはいいからーーー食べなさい」


 容赦無くぐい、ぐいと迫り来るピーマン!

 迫るシ○ッカー、地獄の軍団という歌がありますけど、あんな変な鳴き声の全身タイツ集団よりピーマンの方がよっぽど地獄の軍団です。


「ピーマンだけは、ピーマンだけはらめえええ!!」

「らめえええーーーじゃないわよ。他のお客さんの視線に射殺されたいの?」


 お姉ちゃんの言う通り、わたしたち以外の人々の視線が集まります。

 それはもう、もしも元○玉ならぬ周知玉があれば今すぐに強力なものが放てそうなくらいに。

 でも! しかしっ!

 それでもわたしはピーマンを食べたくないです。

 この戦法は諸刃の剣ですがーーー恥ずかしいのはお姉ちゃんも変わらないはず!

 というか無理にピーマンを食べさせようとしてるお姉ちゃんの方が恥しいはずです、襲ってるみたいで!


「まったく。お姉ちゃんの言うことが聞けないの?」

「ピーマンは……天敵だから」

「困った子ね」


 ようやく諦めたのか、やれやれーーーとピーマンを取り下げるお姉ちゃん。

 勝ちましたっ! 対ピーマン戦、完!


「……そういえば妹ちゃん、ケチャップソースのパスタは好きかしら?」

「もちろん、パスタはなんでも大好物!」

「ふむ。じゃあ取ってきてあげるわ、待ってなさい」


 そう言うとお姉ちゃんは足早に取りに行って、またすぐに戻ってきました。

「どうぞ」と手渡されたケチャップスパは、今茹でたばかりなのかすごくホカホカ。もう食べる前から超絶やばいです、美味しそうです。

 食べ物は匂いも味わうべきだと聞いたことありますけど、まさに今の状態がそんな感じなんですね……。食欲が更にそそられます。じゅるり。


「とんでもなく幸福そうな表情をして、さっきのピーマンの時とは大違いね」

「大好きなパスタと大悪党のピーマンだからアタリマエっ」

「なるほど。よくわからないけれど、妹ちゃんが楽しそうで何よりだわ」


 すごく適当に返された感が!?


「さ。それはともかく、早く食べた方がいいわよ。冷めてしまったら味が落ちてしまうでしょう?」


 たしかに、出来立てと冷めたものなら前者のほうが圧倒的に美味しいです。

 香りを楽しむことができるのも、ほかほか温かみを感じる事ができるのも、出来立て限定。

 あとパスタじゃないけど、ポテトなどは時間が建つとビンビンからシナシナになりますよ、悪魔。……まあそれはそれで別の楽しみ化だあるわけですけど。


 そんなこんなで、パスタをくるくる、まきまき。

 口に入れる前の神聖な儀式であり、こういう過程だけでも既に美味しいです。

 そしてパクりーーーフォークに巻いて口に含めたパスタの味が広がります。

 ケチャップ特有の味に混ざって少し苦味もありますけど、それがまた良いアクセントになって、素晴らしいです。

 いったいどんな具を使っているのやら。


「んー、おいしい。素晴らしきかな素晴らしきかなー」

「へえ? 妹ちゃん、今食べたものおいしかったの?」

「うん!」

「それなら良かった。ちなみに今妹ちゃんが食べたそのパスタ、実はピーマン入りなのだけれども」

「ふぁっ!?」


 ぴぴぴ、ピーマン!?

 いやでもこのパスタ普通に美味しかったし、ピーマン的な不味さなんて微塵もなかったデスヨ!?


「パスタにピーマンを入れるという調理法は意外とメジャーだということ妹ちゃんは知らなかったのかしら」

「ナニソレ、はじめてきいた」

「ピーマンとパスタって結構相性が良いのよ、お互いの味が引き立つというか」

「た、たしかにこれがピーマン入りなら、その言葉を否定できない……!」

「でしょう? さっきこのバイキングにピーマン入りパスタがあることを思い出して、ちょうど良いと思ったのよ。こういうふうに使えるのも、バイキングの利点ね」

「な、なるほど」


 その発想はなかったです、ハイ。

 楽園を苦手克服のための場所として活用するとはさすがお姉ちゃん、我が姉ながらなんたる策士ぶり……。

 でも手段はともかく、このピーマン入りパスタが美味しかったことは事実で。


「……ありがとう」

「いいのよ。ちゃんとお礼を言えるなんて、いい子ね」


 お姉ちゃんはニッコリと笑い、シュークリームをくれました。


「シュークリームは、少し苦い風味のものを食べた後に、なかなか合うからおすすめよ」


 もぐもぐ、もぐもぐ。

 苦味で満たされた口に広がる甘さの絶妙なるハーモニー……これはまさしく、美味です! 美味しいです!

 おかわり、おかわりー!


「……ふふ。どうやらその組み合わせに嵌ったようね

 、そんなにお皿いっぱい取ってくるあたりが妹ちゃんらしいわ」

「美味しいもの、いっぱい食べたいから!」

「まったく。残しても知らないわよ?」


 そんな言葉とは裏腹に、お姉ちゃんは何も怒ってないような笑顔で。


「ーーーけど、それでいいとも思うわ。

 幸せそうに好きなものをを頬張る妹ちゃんは、見ていて癒されるし、そういう子の方が店員さんにとっても嬉しいはずよ?」

「ふぉ、ふぉうかな!?」

「そうよ。でも流石にシュークリームを大量に詰め込みながら話すのはやめなさい」


 お姉ちゃんは注意しているけど、ふふっ、と笑っているのがよくわかりません。

 でも何か楽しそうだから、細いことはどうでもいいです。

 わたしは美味しいものいっぱい食べて幸福、お姉ちゃんも笑顔になる。

 これって最高のことじゃないですか!

 つまりーーー好きなもの食べ放題って、最高です!


「お姉ちゃん、おかわり取りに行きたい!」

「あら、もう今の分食べ終わったの?」

「おいしいから仕方ない!」

「ふふっ……そうね」


 わたしとお姉ちゃんはイスから立ち上がり、新たなる財宝(しょくじ)を確保すべく並びます。

 さあーーーまだまだいっぱい、好きなものを食べるよぉ!

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仲良し姉妹がバイキング くろい桜花 @kuroiouka

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