第6話 僕たち兄弟

「まさか君と住むことになるとは」


「うるせえ。俺が望んだことじゃないんだ」


「とは言いつつ、いつも僕のママをひとりじめじゃないか」


「いいだろ。お前はいつも遊んでもらってたんだろ?」


「だからって、今でも遊んでほしいんだ」


「そんなの知らねえよ」


「そういう態度だから捨てられるんだぞ」


「……」


「僕のママは優しいから、君を引き取ってくれたんだ。君のママとは友達だったけど、子どもも引き取るまではふつうしないよ。捨てられた君を育ててあげるんだから、ママに感謝するんだ」


「俺は捨てられてなんていねえよ。ママはパパのところに行っただけなんだ。少し待っていれば帰ってくるんだ」


「悪いけど、それはどうかな。キミのママが最後に言ったのは、さようなら、だったろ?」


「さようならなんて、いつも言うだろ? またね、の意味だよ」


「君の物を全部おいていったんだ。泣きながら、君が泣いているのを見ずに行ってしまっただろ」


「ドラマじゃあるまいし、実際に赤ちゃんが捨てられることなんてないさ」


「君は捨てられたんだ」


「捨てられてなんてない!」


「戸籍って知ってるか?」


「戸籍? 俺が誰の子かっていうあれだろ?」


「君は、僕のママとパパの子になったんだよ。」


「そんな、うそだろ?」


「あの引き出しの奥に入っているから見るといいよ。キミの苗字、僕の苗字といっしょなんだよ」


「本気か?」


「現実を受け止めろよ。厳しいだろうけど、君と僕は兄弟になったんだ。いつまでも愚痴ばかり言ってないで、早くこの生活に慣れるように……」


「お前のママとパパは馬鹿だろ。どうでもいいことで笑って、どうでもいいことでお祝いお祝いって。僕のママは、大きな成功をしたときにしか……」


「もう僕のママとパパは、キミのママとパパなんだ。キミのママを信じたい気持ちは分かるけど、これが現実なんだよ」


「……」


◇◆◇


「ママ、ママ!」


「どうしたんだよ!夜中に大声出すなよ。」


「ママ!」


「夢か?」


「ママ!捨てないで!」


「落ちつけよ。今ママがくるから。」


「ママ……」


「ママ、優しいだろ?」


「うん」

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会話劇~僕たち兄弟~ 柚月伶菜 @rena7

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