第5話 おかんの手紙

「失礼します。わたくしお母さまの担当医をしてました濱本です。この度は誠にお悔やみ申し上げます。お母さまの喉のがんは手術で摘出しましたが、すでに転移が進んでおり、大部分を摘出し、後は抗がん剤治療を進めていく方針で、体力が回復してから次の手術と考えておりましたが、体力が落ちて抗がん剤も使えない状況でした」


「看護師から聞きましたが、先ほど当院で亡くなられた岩井さんとはお知り合いでしたか?」


「母のフィアンセです」


「えっ?そうでしたか。誠に残念です」


「湊川さん、これはお母さまから手術前にお預かりしましたお手紙です。大変ショックでしょうけど、お二人とも少し休まれてください。では失礼します」

「いろいろお世話になりました」





「なぁ、沙紀。この手紙預かってくれないか。まだ読めそうにないんだ」

「分かったわ。大事に預かる」

「それから、おかんが右手にしている指輪。これも預かってほしいんだ。本当は逆だけど岩井さんの棺に入れてあげたいんだ」

「うん」






「ねぇ、伸也さん。岩井さんとお母さまの合同葬も終わったし、預かってるお母さまの手紙どうする?」


「そうだな。忘れてたわけじゃないけど、お通夜葬式とバタバタしてゆっくり時間取れなかったしな」

「今夜、そうだな沙紀んところのお店で読ませてもらっていいかな。お前もいてくれないか」

「わかったわ」






「こんばんわ、おじさん。お葬式に来ていただいてありがとうございます」

「なに、当たり前だ。家族なんだからな。俺も沙紀の母親を亡くした時、お葬式が終わってからのほうが辛かったもんだ。伸也君、今は辛いだろうけど、お母さんのためにも沙紀と一緒に一歩づつ前に向かっていってくれ。結婚式はウチは構わないから忌明けまで先延ばしにしたらどうだ。よく二人で話し合ってな」

「俺は先に帰るから、沙紀ここ閉めておいてくれ。あと、ここに少し酒と肴を用意してるから二人で少し食べなさい」

「有難うございます」

「ありがとうお父さん」




「お父さんに気を使わせちゃったな。でもここが一番落ちつけそうだったんだ」

「うん、今お父さんが用意してくれたの運ぶわ」




「じゃあ、読もうか」

「うん」

「伸也へ

 この手紙があなたのもとにあるっていうことは、きっとそういうことなのね。ごめんね。あんたに母親としてなんにもしてあげられなかったね。ほんとごめんね。あんたが小さい頃、離婚してからがむしゃらにやって来たけど、あんたがいなきゃきっと私はダメになってたと思う。内緒にしてたけど、あんたの会社の社長の岩井さんって人、昔からのお母さんの知り合いでね。あんたのこといろいろ教えてくれてたんだ。もうじき結婚するって聞いてさ、あんたの幸せな顔見たくなって手術することにしたよ。電話したら、近いうちに紹介したい人がいるっていうじゃない。内心きたきたーって思ったさ。でもすでに内緒で沙紀さんの写真を見せてもらってたり、私にはなかった嫁と姑のやり取りなんか想像してさ。でもね、考えたら声帯取ってしゃべれないから沙紀さんに迷惑かけてしまうね。あんたが結婚して、いつか孫の顔見れるまで頑張って生きなきゃね。

子供の頃から弱虫で、泣き虫なあんたが、立派な大人になって結婚して。想像できなかったよ。でも岩井さんのところで働くようになってから、たまに電話くれたり、顔見せにきたりするようになって、うれしかったよ。

最後に母さん、ほんと幸せだったんだから。これからは二人で幸せな家庭を築いてね。沙紀さん、伸也をよろしくお願いね

                                 母より」


「なぁ、沙紀」

「なあに?」

「俺たち、あの二人の分まで結婚して幸せになろうな」

「うん」



FIN

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MOTHER 胡蝶 @shuji1226

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