第4話 社長とおかん

「耳鼻咽喉科の受付です。湊川さん、お連れ様が受付にいらっしゃいました。ご案内してよろしいでしょうか?」

「ありがとうございます。おねがいします」

「おかん、沙紀が今着いたってよ。紹介するからな」


「・・・・・」


「失礼します。お連れ様です。何かありましたインターホンでお呼び下さい」

「伸也さん・・・・」

「沙紀・・・・」

「おかん、紹介するよ。彼女がさっき言っていた、今度俺と結婚する海野沙紀さんだ」

「はじめ・・・まして・・・・海野・・・・・沙紀・・・・で・・・す」

「今、この間の手紙読んだとこだ。少し書き直さなきゃな。社長の部分消さなきゃな」

「そこもお母さまに・・・読んで差し上げて」

「そうだな、そうしようか」

「おかん、さっき内緒って言ってたとこ、読むな」


「・・・・・」


「今仕事している建設会社の社長の岩井さん、おかんもよく知ってるよな。俺にとっては恩人で、おかんにとっても大事な人だよな。俺が飛び出したころ、いろいろ相談してたのは岩井さんだろ。俺も知らなかったけど、おかんが手術する前に岩井さんが教えてくれたんだ。バカやってた俺をいつも見守ってくれて、このままじゃだめだ、ちゃんしなきゃって思ったころ、自分の会社に拾ってここまで一人前に育ててくれた。自分たちは結婚をあきらめて、なのに俺のほうが先に結婚してしまうことになってごめんな。ささやかでいいから二人には・・・ちゃんと結婚してほしい」


「・・・・・」


「なぁ、おかん、、、、」

「ごめんな、おかん、、、」


「伸也さん、わたしもお母さまの手を握らせて・・・」


「なぁ、おかん。岩井さんな、病院からおかんの病状が悪化したって聞いて、万が一のことがあったらって俺に知らせてくれたんだ。出張先に手配してすぐ俺が戻れるようにしてくれて。なんとか新幹線に飛び乗って、タクシー乗ってあとちょっとで病院ってところでさ、渋滞で動かないんだよ」


「・・・・・」


「歩いた方が早いってタクシーの運転手が言うからさ。降りて歩いてきたら、見慣れたうちの会社のワゴンがつぶれてるんだ。運転席から岩井さんが運び出されてきてさ。顔に布掛けられてんだよ」


「なぁ、おかん。ちゃんと天国で岩井さんと結婚しなよ」


「うぅぅぅぅぅうう」

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