第3話 俺の手紙
「おかんに書いた手紙にはさ、よく今までお世話になりましたとか、育ててくれてありがとうとか書くみたいだけど、俺自分で読み返してなんか謝ってばっかりで懺悔の手紙みたいになっちゃったよ」
「・・・・・」
「聞いてみたい?」
「・・・・・」
「下書きだからちょっと変なとこあっても勘弁してよ」
「じゃぁ、読むよ」
「お母さんへ」
「・・・・・」
「お母さんってすでに恥ずかしい。おかんに変えとくわ」
「おかんへ
うちは、小さい時から片親でよくおかんを困らせてしまいました。近所の友達はみんな両親がいるのに、なぜうち父親がいないだとか、なんでうちのお母さんは昼も夜も働いてるのとか、休みの日は疲れたと言ってどこも連れて行ってくれないのとかばっかり言ってた気がします。子供心に、他のお母さんと比べておかんは体力がないんじゃないかと思ってました。でもほんとは違っていて誰よりも頑張って働いて俺を育ててくれました」
「どうだ、おかん感動してもう泣きそうだろ。続き行くぞ」
「・・・・・」
「中学になった俺は、さらにおかんを困らせるようになりました。しょっちゅうセンコー、センコーはまずいか。先生から呼び出されて学校に謝りに来てくれました。喧嘩で呼ばれている時は、俺はなんも悪くないのに何で謝んだって思っていましたが、なんとか中学はちゃんと卒業させたくって謝ってくれてたんだと後になって気づきました。自分は中学しか出ていないのに俺には高校へ行けと口うるさくいってよくケンカになったよな。実はそのころ、家で深夜におかんが誰かに電話で相談していることに気づいていました。18で俺を生んで、そのころまだ三十一、二歳だからあと数年であの頃のおかんの年に俺もなります。沙紀は、あ、沙紀って彼女の名前な。沙紀は俺の2歳年上だからあの頃のおかんと同い年くらいです。2個上だけど泣き虫です。俺のように頼りになる人がおかんを支えてくれていたと思うと、有難いはずなのにその人のことを受け入れることが出来ず、おかんにも幸せになる権利があるのに俺は何も考えず、いまさらおやじなんて呼べるか!と家を飛び出しました。おかんは結局再婚せずに、たまに荷物を取りに帰ると一人家で飲んだくれてました。」
「どうだ、勉強はできなかったけど、作文だけは小学校の頃表彰されただけあっていいこと書いてるだろ。」
「ここから・・・少し内緒の内容だから飛ばしてと。あ、当日まで内緒のサプライズってやつだ。楽しみにしとけ」
「・・・・・」
「じゃ、続きな」
「今仕事している建設会社の社長の岩井さんはとってもいい方で、俺を息子のようにかわいがってくれています。時には厳しく、ぶっ飛ばされたりもしましたが俺も親父のように思っています。今は内装工事から設計の仕事も任せてもらえるようになり、資格も取らせてもらいました。やっと自分で稼げるようになったと思ったころ、沙紀と出会いました。会社の傍の定食屋さんで働いていて、時には現場の荒くれた親父たちもやってきますが、沙紀の前ではみんなおとなしいものです。多分に漏れず俺も沙紀の前では、大人しい猫のようでした。アルバイトかと思っていたら定食屋の親父の娘でした。ここはお父さんと書かなきゃダメか。俺が設計ミスして、定食屋で食事中の現場監督に謝まりに行ったとき、みそ汁ぶっかけられても歯食いしばって謝り続けて、なんとか許してもらえた時、あんた、なかなか根性あるやんといってビールを出してくれたのが出会いです。朝夕と戦場のような店を仕切っている沙紀は、まるで昔のおかんのようでした。マザコンとかそういうことじゃなくて、なんていうか男勝りなおかんに育てられて、一番理解しやすいタイプの女性ということです。彼女と付き合うようになって3年、親父さんも俺たちのことを陰ながら応援してくれて、今日彼女と結婚式を挙げることが出来ました。俺たちは二人でこれから新しい家族を作っていきます。どうか今後も温かく見守って応援よろしくお願いします」
「どうだ、おかん。いい出来だろ。まだ、親父さんには正式に挨拶してないけどな」
「・・・・・」
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