第2話
◇
ジオ号からの通信が途絶えてから8ヶ月が経過した。宇宙開発局もジオ号の乗組員の生存の可能性が低くなりつつある状況に重い空気が漂っていたある日、5つの調査チームのうちの第3チームが情報を寄せてきた。
「第1チームのカプセル電波を傍受しました。当チームの位置からわずか90万光年ほ ど離れた位置です。当チームの飛行計画を変更してカプセルの回収にあたります か?」
「計画変更し、すぐにカプセル回収にあたってくれ」
宇宙開発局のライル局長は第3チームの報告に対し回収の指示をして思わず机に頭をつけた。
「ニスラム、エトロ、サンドラ―――」
カプセルが発射されているということは帰還が不可能になった証拠と見るべき事態だ。優秀な飛行士を失ってしまったのだろうか。第3チームのカプセル回収には3ヶ月弱を要する見込みだ。カプセルの情報に良い手がかりがあることを望むしかない。
◇
彩は端末機を使ってビルの話をサンドラに伝えていた。画面に映るサンドラは美しい笑顔でしっかり話しを聞いてくれている。彩の話しに頷いたり時々首を傾げながらして彩の話を聞き取り、時々キーボードを叩く音がしていた。
「話はわかったわ。彩、調べてみるから少し時間をちょうだい。明日には何かわか ると思うから連絡するわ」
「ありがとうサンドラ。待ってるね」
彩の話を聞きながらサンドラはすでにビルのパソコンに侵入していた。ビルがいかに優秀なハッカーでも地球人のレベルのファイアウォールではサンドラにとって侵入することは容易だった。
そこからビルのデータソースを分析した結果、発信源はすぐに特定できた。その発信源を突き止めると、アリゾナ州フェニックス近郊の高層ビル内の会社であることがわかった。そして更にその会社の他のパソコンを調べると、何とビルがハッキングした事が知られていて秘密裏にビルの命を狙っている事がわかったのだ。
「これはまずいわ。まずはビルの命を守る事、次は大統領ね。やれやれ本当にやっ
かいな惑星だわ」
その日のうちにサンドラから話を聞いたエトロはすぐさま対応のための行動計画を立てた。
「まずはビル君とやらの命を悪党から守るんだな。すでにこの近くに来ていると見
た方が良さそうだ」
翌朝、エトロが彩達のアパートにやって来た。
「メリークリスマス!彩、サンドラから話は聞いたよ。またまた僕の出番って事か
な」
「今日はクリスマスイブね、でも浮かれていられないわ。ねぇ、エトロ、大統領を
守れるの?それとも警察に連絡した方がいい?」
「警察には連絡してもその情報を知っていることを怪しまれるだけだろう。まずは
僕達で行動しよう。それで、ビルはどこ?」
「ビルなら今日オースティンに帰るから支度しているところよ」
エトロは3人を集めて声を潜めて話をした。
「ビルは、まずゲームソフトを盗んだ罪を警察に自主するんだ。警察にすべてを話
して来るんだ」
「どうして?エトロは私達の味方じゃなかったの?」
彩がエトロの腕を掴んで聞くとエトロは声を潜めて話した。
「みんな落ち着いて良く聞くんだ。ビルがハッキングした事が彼らにすでにバレて
いる。彼らは口封じのためにビルの命を狙らっているんだ。今は安全な警察のと
ころで何日か過ごしていてもらいたい。その間に何とかするから」
「ビルが狙われている?」
テヒョンと彩は身震いしてビルの顔を見たがビルは青ざめて口を開くこともできない。
「大統領の専用機は本当に狙われているの?それを防ぐ方法はあるの?」
「まだ詳しくはわからないけど怪しい動きがあることは間違いない。今からすぐに
こっちも行動しなくちゃ。今回は君達にも協力してもらわないとならないよ。」
「うん、エトロ、僕達にできることがあるなら何でもするよ。思い出に残るクリス
マスだな、今年は」
その頃サンドラは、「レッド・スクエア」と呼ばれる集団を調査していた。この集団こそ大統領の命を狙う中東に本拠地を置く恐ろしい思想集団だった。
◇
「レッド・スクエア」は、アメリカが1900年代頃から権力で世界を制圧しようとする姿勢を改めず中東社会を敵対視しているとの教えを受けておりアメリカおよび同盟国のリーダーを失墜させることで地球に平和が訪れると信じている団体である。しかし、今まで大規模なテロ行動を起こしたことはなかったのでそれほど世界からマークされてはいなかった。
翌朝、テヒョンの車で警察に出頭したビルはすぐさま取り調べ室に連行された。テヒョンも参考人として身分照会されたがすぐに帰宅が許された。
サンドラの調査によると、ビルの命を狙う実行犯の2人がサンディエゴに入りテヒョン達のアパートを突き止めていた。
アパートから約50メートルほど離れた路上にワゴン車と停めてアパート入り口を双眼鏡で見張っていた。
そのワゴン車と反対方面の路上には小型のセダンタイプのレンタカーが停車していた。
アパートの前に長時間停車しているワゴン車を見つめる女性はニューヨークタイムズ紙のジェーン=サードン記者だった。
テヒョン達のアパートはセントカリーム通りに面していて通りの向かい側には3階建てのアパートがあった。そのアパートの屋上から実行犯を監視する3人組みの男達がいた。
サンディエゴの一連の事件を捜査しているFBI調査チームだった。プロジェクトリーダーのラッセルからの指示でテヒョン達の行動を調査していたが、怪しい2人組みがアパート周辺を探っているため彼らも監視していたのだ。
数時間の膠着状態の後、アパートからエトロが出てきた。実行犯は互いに顔を見合わせた。
「違うぞ、あの男はターゲットではない」
事前に指示された殺害計画のターゲットであるビルではなかった。
サンドラからの情報ではビル殺害実行犯はアパート付近に停車し、ビルがアパートから出てきたところを射殺するという計画のようだった。
エトロは買い物にでも行くように実行犯の車の横を通り過ぎてコンビニエンスストアに向うルートでアパートから出て歩き出した。
ワゴン車から狙撃銃を構えていた実行犯は計画の変更を相談していた。
「あの男を捕らえてビルの居場所を聞き出し、2人とも殺してしまえばいい」
エトロは歩きながら携帯電話を操作するような素振りで実行犯の車の近くまで歩いてきた。その時、実行犯の車の運転席と助手席のドアが同時に開き、2人の男が勢い良く降りてきた。
「おいでになりましたねっ!」
エトロは予めプログラムをセットしておいたマルチターミネータ画面の「WORK」をタッチした。すると実行犯の2人が急に吸い寄せられ、身体が磁石のようにぴったりとくっつき、互いの狙撃銃もくっついたまま力を込めても離れない。
「どうしたんだ?おい、離れろ!」
エトロはそれぞれの男にプラスとマイナスの高指向性磁場を与えたのであった。そのために2人の持つ金属を完全に吸着させたのである。2人は薄型の金属繊維防弾シャツを着用していたために上半身が完全に密着してしまったのだった。
「お前達の計画はわかっている。そんな計画は僕が実行させない」
エトロは再びマルチターミネータの画面をタッチした。
その瞬間、エトロの持つ端末機から約40万ボルトの高電圧と特殊なパルス信号が発射され、実行犯の2人はその場で気を失って倒れた。
向かいのアパートの屋上から遠距離狙撃銃を構え、スコープから一部始終を見ていたFBIの3人は一瞬言葉を失ったが、すぐさま屋上から現場に向った。
ジェーン=サードン記者は望遠レンズ付きのデジタルカメラでエトロの魔法のような行動を数100枚の連写で撮影していた。
◇
サンディエゴ警察署で取調べを受けていたビルは数時間後には警察署を後にしてアパートに向って歩いていた。警察で調査したところ、ビルがハッキングで侵入したゲームソフト会社はすでに中国企業に買収されており、そのソフトは中国で海賊版が1ドルで販売されているものだった。警察は立件するほどの事件ではないと判断しビルに厳重注意して帰宅させたのだった。
ビルはジェフの携帯電話に連絡したが連絡が取れない。
「まさか僕を狙っていた連中が彼らを攻撃したんじゃないだろうか」
アパートまでの約10キロメートルの道を歩いていた時、前方からクーパーが猛スピードで走ってきてビルの目の前で停車した。
「ビル、早く乗るんだ!」
テヒョンが運転席から叫んでいる。
車にはジェフと彩も乗っていた。
すぐに車に乗り込むとサンウは急発進させてフリーウェイをひたすら東に走った。
「ジェフ、どうしたんだ?」
「ビルを狙っていた犯人をエトロが捕まえたんだ。そこに何故かFBIが張り込ん
でいて、犯人とエトロを連行しようとしたんだ。その瞬間、エトロは透明人間み
たいに一瞬で姿が見えなくなってどこかに消えてしまったんだよ」
続けてテヒョンが説明する。
「その直後にサンドラから連絡があって、FBIは犯人を逮捕したら必ずアパート
に向って来るはずだからすぐに逃げるようにって。だからアパートの裏の駐車場
から車を出して必死で逃げてきたんだ。ビルが警察の取調べから解放された事も
サンドラから聞いていたからまずは警察に向ったんだ」
「どうするの?これから」
不安そうに聞く彩に誰も答えることができなかった。
光星の輝き ー地球とそっくりな星から来た人類?- ジャッキーとしお @Jackey
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