第3章-第1話 大統領暗殺計画

 ◇

サンディエゴの街はクリスマスの飾りが華やかで土曜日のせいか家族連れも多く賑わっていた。テヒョン達は部屋の飾りを買いにショッピングセンターに来ていた。彩は日本の家族に送るクリスマスカードを買い、テヒョンとジェフは特大のリースと彼らの身長ほどもあるクリスマスツリーを買った。


アパートに戻ってテヒョンは特大リースをドアに取り付けた。ジェフがパソコンを開いてみるとジェフの友人である「ウィリアム・オッドソン」からメールが入っていた。彼はテキサス州オースティンに住んでいる大学生で、学生仲間からの間では有名なハッカーでもあり仲間からはビルと呼ばれていた。


『ジェフ、大事な話がある。メールや電話では話せない。僕がこれからサンディエ ゴに行くので夕方くらいに時間を取って欲しいんだ』


ジェフはテヒョンにビルからのメールの事を話し、その日の飲みの約束をキャンセルして待機することにした。


「何事なんだ?電話でもメールでも話せない事ってのは?」


その日の夕方に「サンディエゴ国際空港」に迎えに行ったジェフはオースティン発サウスウエスト航空124便が定刻着予定であることを確認し到着出口でビルを待った。

小さなショルダーバッグだけの荷物しか持たないビルはすぐに出口から出てきた。


「やぁビル、久しぶり!荷物を何も持っていないなんて相当慌てて出てきたな?」

「細かい話は後だ。すぐに話を聞いて欲しい。ジェフのアパートでもいいかい?」

「カフェでゆっくりした方がいいんじゃないか?」

「いやダメだ。話を聞かれるとまずい。ジェフのアパートは盗聴されている可能性 は無いだろな」

「いやいや、何を聞くのかと思えば。盗聴器なんてあるはずがないよ」


ジェフのアパートに向う車中でジェフはルームシェアしているテヒョンと彩の事を、外国人ではあるがとても信頼おける仲間だと話し、ビルの話を一緒に聞かせてもらうことの了解を取った。

アパートに到着するや否やビルは盗聴探知機を取り出し、各部屋を回って四方にアンテナを向けて盗聴器の存在が無いことを確認した。


「やれやれ、だから盗聴器なんてあるはずがないと言ったろう。もう心配はないよ な?」

「すまない、事情はこれから説明するよ」


ビルはペットボトルの水を一気にゴクリと飲んでから大きく息を吐いてゆっくりと小さな声で話し始めた。


 ◇

ニューヨークタイムズ紙は、この半年間で西海岸側で起きている数々の謎の事件について投稿動画サイトを中心に大きな話題になっていることを大きく報道し独自の調査結果を掲載していた。

路上でバイクにぶつけられ腕に怪我を負った学生が不思議な男女によってその場で怪我を治してしまったという目撃談。

トロリー・ブルーラインが怪しい爆発物を持った男に乗っ取られたが強力な発信電波により破壊され犯人が射殺された事件。

さらに大学校舎の4階から転落した学生が別の女子学生が持っていた小型の機械を近づけて治してしまった事件などで、いずれもサンディエゴで発生していることを詳細まで記述し、地図で各ポイントを表示していた。

この時期は、学生が車を盗まれ犯人の男女はヘリコプタを振りきって逃走したという事件もあり、この犯人との関わりの可能性もあるのではないかと記事には書かれていた。


この記事を書いた女性記者のジェーン=サードンはこの不思議な事件のその後の様子を記事にすべくサンディエゴ支社に向った。


 ◇

【FBI】

水面下で一連のサンディエゴの不可解な事件を調査していたFBIは、ニューヨークタイムズが記事にした事により、もはや水面下での調査は意味がないものとなったと判断し、調査プロジェクトを立ち上げた。FBIの内部には、「高い警戒レベルを必要とする特殊な組織」が関わっているとする意見が多く15名の敏腕調査員がプロジェクトに召集されていた。

各事件を精査していくと不思議な事件とそれに関わる男女、そして3人組みの学生が浮かんでいる。学生はこれらの事件が多発する前に車を盗まれたアジア系留学生を含む3名。事件に関わる男女は、盗難車強奪事件でパトカーから脱走した指名手配犯と同一人物との見方が強い。そしてあのエルザイカンダの核開発拠点を知らせる謎のファクシミリはサンディエゴの「キャプチュ-ンホテル」から送られたものだった。FBIメンバー200名もの調査でも情報を送付した者を特定することができずFBIの汚点を残した事件でもある。


プロジェクトリーダーのラッセルはそれぞれの事件と地名をホワイトボードに書きなぐり、改めて眺めて呟いた。


「高度な技術力を持ったテロリストの仕業か、反政府勢力の学生の仕業か、それと も宇宙人でもやってきて地球を滅亡させようとしているのか。」


ラッセルはふと思い出した。


「宇宙人?そうだ!あの謎のUFO(未確認飛行物体)撃墜事件と関係があるのではないだろうか、し かし、まさか」

  

 ◇

ビルは全身に汗をかきながらジェフ、テヒョン、彩に話をしていた。


「これは僕がある組織のパソコンに侵入して得た情報だ。その組織は中東の出身者 でアメリカ住む同じ思想の人間だけを集めて集団を形成していてアメリカの過去

 の戦争に強い恨みを持っている連中だ。彼らは大統領の乗る専用機を電波ジャッ

 クして墜落させようという計画を進めているんだ」


「そんなバカな!リチャード大統領殺害計画ということなのか?中東のテロリスト 集団の一味か?」

「細かいことまではわからない。でも実行計画日は来年の1月20日だ。大統領がフラ

 ンスのサミットに参加するために搭乗する飛行機を電波ジャックして遠隔操作し

 墜落させる計画のようだ」

「よし!それじゃすぐに警察に連絡しなきゃ」

「いや待ってくれ、僕もすぐにそうしようと思ったんだが、警察に連絡したら僕の ハッカー実績を調べられて捕まってしまうよ」

「本当か?ビル、そんなに大事な政府の機密情報を盗んでいたのか?」

「そうじゃない、僕は開発中のゲームソフトを設計者のパソコンに侵入して盗んで 友達に売ったことがあるんだ」

「おいおい、そんな程度の話じゃないだろう。大統領暗殺計画だぞ!それじゃ他に

 方法はあるのか?この情報を匿名で政府に手紙でも出すか?」

「そんな手紙を誰が信用するものか!」


「大体、大統領の飛行機を本当に電波ジャックして遠隔操作なんてできるのかな、

 ガセじゃないのか?」


テヒョンの言葉に一同は黙って考え込んだ。


「そうかもしれないから、このまま知らなかった事にしようか」

「もし大統領機が墜落したらどうする?人間として一生後悔するような気がするん

 だけど」


隣で話を聞いていた彩が急に口を開いた。


「ねぇ、エトロとサンドラに相談してみない?」

「エトロとサンドラ?」


ビルが彼らの事を知るはずもない。


「すごい人達なの。事件を解決したり怪我人を助けたり」

「ただどんな人なのかは誰も知らないんだ」


ジェフの言葉にビルはあごを引いて表情を強張らせた。


「絶対大丈夫。あの人達は秘密は守ってくれるわ。きっと大統領の飛行機も守って くれるはずよ」

「そうだな。エトロはスーパーヒーローだし、最先端エレクトロニクス技術は持っ てるし、なぁテヒョン、彩からエトロに話してもらおうよ」


ジェフの意見に、他の方法が見つからないテヒョンとビルは頷き、彼らに託す事にした。

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