第5話 今度は強盗事件


 ◇

彩はジェフとテヒョンに話した。


「エトロとサンドラに会いたいわ。トロリー事件も大学での学生転落の事件もサン ドラが解決してくれたし。それに2人の正体を知りたいわ。アメリカ人でないこと

 は確かだけど一体どこの国の人なのかしら。どうして人間の怪我を治したり起き

 ている状況がわかったりするのかしら」

「本当だね、彼らは恐らくアメリカ中のスーパーヒーローになるに違いないよ」


アメリカ人のジェフはそういってアメリカンコミックのヒーローと重ね合わせていた。

3人は彼らの住所を聞いていなかった。連絡を取る手がかりはあの端末機だけだ。


「彩、端末機からサンドラを呼び出せないの?」


ジェフに聞かれ、彩は端末機を取り出して画面にタッチし、起動した画面から彼女を呼び出すアイコンを探した。


「これじゃまずいかな?」


画面の「EMERGENY CALL」のアイコンを指差してジェフに見せた。


「そりゃまずいだろ、サンドラはまた彩が危険な状況にあると思っちゃうよ。

 何もないのにただ呼び出しただけってわかったら、本当に緊急事態の時に出てく

 れなくなるかも知れないし」


ジェフの言うとおりだ。更に画面を見ると「Seach」のアイコンがあった。そこをタッチしてみると、検索画面に変わり、画面下にはキーボードが出てきた。「サンドラ」と入力して「GO」と進んでみたが「ERROR」となった。別のアイコンにタッチして調べていると急に画面が変わりサンドラの笑顔が映し出された。


「何か御用かしら?」

「サンドラ!すごい!どうしてわかったの?」

「その端末を色々触れば何かあったのかと思うじゃない。恐らくいたずらしてるん だろうって思ったけどね」

「違うの、サンドラとエトロに会いたいと思ったんだけど連絡する方法がわからな

 くて困っていたのよ」

「いいわ。今夜で良ければ時間が取れるしエトロも帰ってくるから言っておくわ。

 それから次の連絡はメールを送ってちょうだい。アドレスは後で端末に表示する

 から」

「うんわかったわ。ありがとう!ジェフとテヒョンと3人で今夜予定しておくから ね」


彩はすでにサンドラを姉のように慕っていた。トロリー事件では命を救ってくれた恩人でもある。

端末に連絡があったメールアドレスは『1&9&5#7&6%』という暗証番号のようなものだった。


「これってドメインも@もないけどメールなのかしら?」


そのままスマホからメールを入れてみるとほどなくしてサンドラから返信が来た。

待ち合わせ時間はPM8時、場所は彩の勧めでダウンタウン郊外のレストランに決めた。


 ◇

先にレストランに入った彩達は、コーラを頼んで待っていると店のドアが開いた。


「やぁ、ひさしぶりだな!学生さん!」


笑顔のエトロがネイティブと区別がつかないくらいほど流暢な英語で挨拶しながら入ってきた。

サンドラも相変わらず美しい笑顔で挨拶してくれ、その英語もすっかり上手になっていた。

5人はハンバーガーと飲み物を頼みサンディエゴでの大学生活の事など他愛のないことを話した。しばらくして彩がどうしても聞きたい事を聞いてみた。


「ねぇ、2人はどこの国から来たの?仕事は何をしているの?」


エトロとサンドラは顔を見合わせた。想定内の質問だったので笑顔のままエトロが答えた。


「宇宙から来たのさ。僕達は宇宙人なんだ」


信用してもしなくてもいい。答えてるのは本当の事だ。


「まったく!そうやってはぐらかさないでよ」

「宇宙人は頭が大きくて足がタコみたいになってるはずだよ」


結局、笑うだけのやりとりになってしまい彩は大いに不満だった。

楽しい会話は深夜まで続き、もっと話しをしていたかったが明日の授業の事を心配したジェフが切り出した。


「そろそろ帰らないと明日ヤバイよ」

「そうだね、楽しくて時間を忘れちゃったよ」


5人が席を立とうとした瞬間、突然店の入り口で耳をつんざくような爆音が響き、

入り口のガラスドアがメチャメチャに砕け散った。

振り返ると店に車が突っ込み、粉々になった入り口から黒い帽子にサングラスの

2人組の男が拳銃を持って入ってきた。


1人はレジにいた女性店員に銃を向け大声で金を要求しているようだった。

もう1人は客席に銃を向け「フリーズ!」と叫んだ。

客席には20人ほどの客がいたが全員テーブルの下にうずくまり頭を抱えたがエトロだけはじっと犯人を睨み付けていた。

客席に銃を向けていた犯人の1人はエトロに近づき何かわめきながら銃をエトロの顔に向けた。

たじろぎもしないエトロを見て犯人は銃を天井に向けて発砲した。

机にうずくまっている客は「キャー!」と叫び、あまりの恐怖に泣き出す者もいた。


ジェフはエトロが必ず犯人をやっつけてくれると信じてドキドキしながらもテーブルの下からエトロの姿を見つめていた。


「エトロはアメリカンヒーローだ!」


レジから金を奪った犯人の1人がエトロに銃を向けている犯人に合図を送り、2人は再び天井に発砲しながら店に突っ込んだ車の方に向かおうと身体の向きを変えた瞬間、エトロは犯人に叫んだ。


「待て!」


犯人は振り返ったがエトロの姿は無い。

サンドラがテーブルの下で非可視光線バリヤを張り、エトロの姿を人間からは見えないようにしたのだ。

エトロは、驚いてあたりを見回している犯人から銃を奪い、ジェフがうずくまっているテーブルの横にあった椅子を犯人の頭に向けて思い切り振りかざした。まわりの人間からは透明人間が椅子を動かしているように見えたがそれを見ていたのはジェフだけだった。彩もテヒョンもその他の客も恐怖のあまり床に頭を押し付けて事態が収まるのを待っていた。

テヒョンは金を奪った犯人に近づき金の入ったバッグを奪い返すと腹に一撃を加えた。

犯人は目を丸くして気絶した。

サンドラが非可視光線バリアを解除するとエトロは犯人のシャツを脱がしそのシャツで両手を縛り上げた。


「みなさん、もう大丈夫です。店の人は警察に連絡を!」


机の下から顔を上げた客からは拍手があがった。


「エトロ!見たよ!エトロは透明人間だったんだ!」


ジェフは興奮して叫んだがエトロは笑顔で答えた。


「ジェフ、人間が透明になるわけがないだろう。君は相当ビビッて幻覚を見た

 な!」


ジェフは目を丸くして首をかしげた。

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