第4話 テロリストとの交渉
◇
【大統領執務室】
執務室長補佐のエレンは1枚のファクシミリを持って大統領補佐官の部屋へ走っていた。
ファクシミリには「緊急連絡」と題して次のように書かれていた。
――――
エルザイカンダ・核開発地点は2箇所ある。
①アラビア海『北緯16°23’30.2”/東経63°41’45.3”』にある油田開発基地の
海底12335フィート地点
②アフリカ西サハラ沖『北緯25°45’01”/西経23°41’06.55”』
海底16920フィート地点
いずれの地点も周辺をゴア共和国軍とエルザイカンダ武装勢力が民間海底油田開発を装って警備している。
慎重にすみやかに調査せよ。
平和の騎士
――――
ファクシミリを受け取った大統領補佐官のスティーブは訝しがったがこの地点の地図を見ると確かにこの2地点とも現在ではどこの国も統治していない空白地域だった。大統領は、この日は公務を終え公邸に戻っているはずだ。すぐにクーガー副大統領に電話を入れファクシミリの内容を話した。
「これは寝返ったテロリストが確かな情報を出してきたことも考えられる。すぐに 私から大統領に報告するので待機していて欲しい」
と副大統領から返事があり電話を切って20分後に再び電話が入った。
「大統領からはすぐにこの地点を調査するよう指示が出た。私から国防長官に指示する」との事だった。クーガー副大統領はミューラー国防長官を呼び、さらに陸・海・空軍参謀総長らとテレビ会議によってファクシミリの内容と大統領の指示を伝えた。国防長官と参謀総長らが議論した結果、調査はまずステルス戦闘機と対潜哨戒機により空から調査して情報を得ることとした。原子力空母と駆逐艦隊は2チームに別れてグアム島から出動し、それぞれターゲット地点から約1500キロ離れた地点に向かい指示を待つ。
その頃のアメリカ軍は約15,000人の兵士を中東に送り、闇国家を相手に12年も続く戦闘を繰り返していたが、そのうち約1,200人をアラビア海に、そして1,000人を西サハラ沖に向けて出発させた。
空軍調査飛行隊第1チームのステルス戦闘機主体調査体がファクシミリに指定された位置から800キロ離れた上空から調査した結果が送られてきた。
「長官、結果が送られてきました。指定された正確な地点から高濃度放射線の放出 があり集中的な高熱地点となっているとのことです。」
「やはりそうか。あの情報は正しかったのか」
「X線診断の結果は距離が離れているために鮮明でありません。しかしこのデータ からは、海底に大掛かりな施設が存在すると考えられます」
「大掛かりな施設・・・テロ国家の核施設か」
報告を受けたリチャード大統領は国際連合憲章第7章に則り召集された国連軍とともに報告の内容を精査しどのような行動にでるのか協議した。
「ここで宣戦布告の上で攻撃を開始すれば過去にない核戦争となることは間違いな く、地球は向こう数万年間は放射能汚染され続け未来の子孫に大きな負荷を負わ せることになるだろう」
「しかしテロリスト達は自分の命と引き換えにアメリカ国家を滅ぼそうとしており 平和的な解決を見出すことは不可能に近い。アメリカがテロリストの要求を呑め ば悪に屈したことになり世界からも非難を浴びる」
「しかし相手が本当に核爆弾のスイッチを押せば対象国は消滅してしまう。その対 象国は恐らくアメリカとその友好国だろう。やはりここは彼らと交渉し取引に応 じるべきだ」
夜が明ける頃に出た結論は、まずはエルザイカンダとの協議する事であった。彼らに対し、国連軍は2つの基地はすでに発見し、思うように行動させない体制があることを後ろ盾としつつ、相手の条件を聞き出して無用な戦争にならないよう交渉するという事だった。
◇
エルザイカンダとの交渉をどのように行うかについては結論が出なかった。
「彼らはどこに居てどのように連絡を取れば良いのか。我々は何もわかっていない ではないか」
ミューラー長官はいらだっていた。今この時点で核爆弾のスイッチが押さるかも知れないのだ。
「大統領、エルザイカンダに対してテレビで交渉したい事を伝えたらどうでしょう か」
「しかし、この2つの拠点を発見したことが世界中に知れ渡り地球規模のパニックに
なってしまうだろう」
「地球は60年も前からネット社会で世界は完全に繋がっています。一度電波に乗せ ればどれほど密かな情報でも明日には世界中の一般人が知ることになってしまい
ます。つまり隠す事は不可能なことではないでしょうか」
翌日、リチャード大統領は中東に向けたテレビ電波放送で呼びかけた。
「アメリカは国連軍とともに地球規模でエルザイカンダの無差別テロリズムを非難 し実行を阻止する。エルザイカンダの一味はすでに逮捕し我々は情報も得ている のだ。しかし思想も宗教も生活も異なるがお互いこの地球に住む人類である。
人類同士が殺戮を繰り返していては平和は訪れない。家族を守ることと同様に人
類を守り、地球を守っていくことを協議するためのテーブルについて欲しい」
この呼びかけに対してエルザイカンダの指導者ラマナムは声明を出した。
『我々はアメリカと協議の場に着くことはない。但し、次の条件をのめばすぐにアメリカを滅ぼすことだけはしない。
その条件とは---
①中東地域に集結している15,000人のアメリカ軍の即時撤退
②根拠なく拉致したエルザイカンダのメンバーの即時解放
というものだった。
アメリカのリチャード大統領は57年前のイラク戦争やその後のアフガン紛争で味わったアメリカの空虚感を今の中東紛争でも感じており段階的撤退を計画する時期に差し掛かっていると感じ始めていた。クーガー副大統領が撤退推進論者であったことも相まって大統領は国連軍に伝えた。
「エルザイカンダのスパイに関しては何があっても開放するわけにはいかないが、 米軍中東駐留軍については段階的撤退する」
このことは国連軍内でも承認された。
この時、エルザイカンダとの交渉は特殊ファイヤーウォールネット回線で容易に連絡が取れるようになっておりこのルートでアメリカの意志が伝えられた。
エルザイカンダにとっては、アメリカが反発を買うような行動を取らなければ逆に大掛かりなテロ活動することには意味が半減する。指導者ラマナムは現在の核ミサイル計画中に西サハラ沖拠点の海底施設でプルトニウム漏れ事故が発生してしまった事もあり、まずはアメリカの様子を見ることにし、「アメリカの段階的撤退の様子を見守る」と回答して即時のテロ行動はしないことを告げた。
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