〈十三〉犯人Aとカード


 ぱたぱたと足音が鳴る。


 一般教室棟の一階、東側の廊下は閑静と言うに相応しく、それゆえに微かな足音も大きく響く。僅かに気にはなるが、この場所にいること自体はそう見咎められることではない。「忘れ物がある」と言って鍵を借りてきたのだ。問題は手早く済ませられるかどうかだけ。だから足音を気にすることなく、速さだけを気にしていた。


 ややまごつきながら鍵を差し込み、扉を開く。片手に封筒を握り締めていたため、開けるのに手間取ってしまった。


 扉を締め、一応辺りを見回した後に、教室の後ろに立ち並ぶ棚のとある一角から、両掌サイズの小箱を取り出した。

 中を開くと、まるで重箱に詰め込まれているおはぎのように、色とりどりな布の包みが並ぶ。



 その中の一角に、ぽつんと空いた箇所があった。



「っ」



 思わず息を呑む音が響き、自分で自分に驚いてしまう。

 文字通り空白と言うに等しいような白が覗く。他の包みを避けてみると、それはどうやら下に敷かれたカードのようだった。取り出すと、片手に握り締めてきた封筒の中に入っていたカードと同じ筆跡が、目に飛び込んできた。





  ――――――――――――――


ここに隠された秘密と過去はいただきました


       怪盗はいから


  ――――――――――――――





 ふるふると、カードを持った指先から震えが広がってゆく。ひっくり返すと、また小さな文字が目に入る。




――――――――――――――


この秘密は今後決して誰にも明かされることはありません

怪盗はいからより、名も無き怪盗に敬意を表して


――――――――――――――




 そこまで読み終えると、もう限界だった。



 膝から抜けてゆく力は身体を支えることも出来ず、音を立てて床に座り込む。ただカードと箱を抱きしめて、解放された安堵に――――森野萌絵は、涙を流した。

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