ヨウカイ・インベーダー
藤田 天馬
プロローグ
2017年、夏。
蝉の声がまるで嵐のように響く山道の道路を、一人の少年が自転車を漕いでいた。
その少年はまるでこの世の終わりというか、親にベッドの下に隠していた
エロ本を見つかった時というか、そんな感じの表情を浮かべていた。
それは僕だ。
真夏の猛暑日、こんなにも苦しい思いをしながら、他人に見られると
何かしらの苦行をしていると勘違いされるような表情を浮かべ
山道を9800円で購入した中古のママチャリを漕いでいるのには意味がある。
それは趣味だ。
一人旅行という高尚な趣味なのだ。
行く当てもなく、持水とわずかな食糧と小銭のみを持って
自転車を漕ぎながら旅をする。
この行き当たりばったり感、このスリルに
僕にはたまらなく幸福感を得ることができるのだ。断じてMではないが。
とはいえ、この状況は相当に苦しい。
木に囲まれ視界は悪く、この猛暑に体力は削られていく。
水も残り少なく、食料も尽きてしまった。
自販機も無いため小銭も宝の持ち腐れ。
というか、僕は思った。
これ、死ぬぞ・・・と。
意識が朦朧とし、もはやペダルをこぐ感覚すら感じ取れていない
僕の目の前にある景色が広がった。
木と木の隙間から見えたそれは、海だった。
僕の体力を削るだけの憎き日光に照らされた真っ青な絶景が
屍のようだった僕の心を躍らせる。
そして、もう一つの発見。
それは港町だ。
多くの木造建築が建ち並び、栄えているわけではなさそうだが、
僕が命をつなぐのには十分だろう。
僕は力を込め、一気にペダルをこぎ始めた。
そしてどんどん僕の目の前に近づく街を見て思った。
きっと、『何か』出会いがある・・・と。
ヨウカイ・インベーダー 藤田 天馬 @aquabomb1995
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