70 指紋の問題
祐介は、容疑者の足のサイズを知って、なおのこと、自分の推理に自信を持ったようであった。さらに祐介は、根来に、殺害現場のアトリエの指紋についての正確な情報を求めていた。そこで、根来は、祐介から求められていた殺害現場の指紋についての情報をまとめた紙を用意していた。
祐介はそれを受け取る為に警察署に出向いた。
「こんなもんだが……」
根来はそう言って紙を祐介に渡した。
*
入口のドアノブ(外側)
……重五郎、稲山、麗華、早苗、吟二、吟二(裂傷)
入口のドアノブ(内側)
……重五郎、稲山、早苗、淳一、吟二、吟二(裂傷)
電灯のスイッチ
……重五郎、稲山、早苗、淳一、吟二(裂傷)
*
これを見たとき、すぐに祐介はあることに引っかかって、
「この吟二さんの裂傷というのは何ですか?」
と尋ねた。
「人差し指の指紋なんですがね、吟二さんが事件の起こった朝に少しギターを弾いたら弦が切れて、人差し指の腹を傷付けてしまったらしくて、その傷痕のある指紋はこのように裂傷とカッコ書きしたんですよ」
「なるほど……」
祐介は少し気になる様子であったが、ともかく、その紙をじっと見つめていた。この紙にはいくつか奇妙なことが書かれていた。
「これだけの指紋が、スイッチにはっきりと残っていたということは、このスイッチは、普通のものよりも、面積の広いものなのですか?」
「そうですね。指で押す部分が広くて、平べったい形状のものですよ」
「なるほど、どうやら少し確認したいことができましたね」
「何ですか……?」
「いえ、後で自分で確認したいと思います」
「ええ……」
自分の考えていることをなかなか明かさない祐介に、根来は少しばかり不満だった。
「それと、稲山さんから救急と警察に通報があったのは、正確には何時ですか?」
「確か、午後九時十分でしたな」
根来は答える。
「なるほど、それと、食堂の時計には狂いはありませんね?」
祐介はかねてから気になっていたことを尋ねた。
「そりゃあ無かったさ。あの時計が狂っていたら、やつらの食堂にいたというアリバイは無いものになっちまう。勿論、この目で確かめましたよ。それに、その線のトリックを疑ってるんなら、稲山や麗華さんの身につけていた時計、そして、厨房の時計、そして淳一や吟二の時計も同様の時刻に狂わせなきゃならんでしょ?」
と根来はしばしばため口を交えて祐介に言った。次第に、彼にとって祐介が親しい人物となってきていたのである。
「それは不可能ですね」
「ええ、不可能ですよ。だから困っとるんですよ」
根来はやれやれといった顔で言った。
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