31 蓮三の帰宅

 赤沼家の邸宅に、赤沼家の三男の蓮三が帰ってきたのは殺人事件の起こった翌日、すなわち一月一日のことであった。

 蓮三は重五郎の会社の横浜にある支社に勤めていてる。蓮三は、事件の連絡を受けてから、東海道新幹線ですぐに東京駅へ行って、そこでまた上越新幹線に乗り継いだ。結局、蓮三が群馬の山奥にある赤沼家の本邸に着いたのは、もう日も暮れかけた夕方のことであった。

 麗華は、昔から蓮三のことを慕っていた。冷たい性格の淳一と血の熱い吟二という二人の兄に比べて、蓮三は穏やかな性格の兄だったからである。

 帰宅すると、真っ先に麗華と稲山が玄関で出迎えた。

「大変だったな、麗華」

 蓮三は可愛い妹の心中を思って、すぐに優しく声をかけた。

「赤沼家のことを恨む人間はこの世に大勢いるさ。父さんはその内のひとりに殺されたんだろう……」

「でも、良かった。蓮兄れんにいが帰ってきてくれて……」

 麗華は、蓮三のことを小さい頃から蓮兄れんにいと呼んでいた。

「そうか。それで、赤沼家の人間にはアリバイがあるって警察は納得してくれたのか……?」

「そうみたい。でも、蓮兄には……」

「俺はその時分、横浜にいたよ。俺にもちゃんとしたアリバイがある……」

 そう言った後、蓮三はなにか自分に言い聞かせるように、

「そうだ……だから俺には犯行なんて出来っこなかったんだ……」

 と呟いたのである。

「警察の取り調べがあるらしいから、荷物置いたら警察署に行くよ。なに、すぐに終わるよ」

 そう言って、蓮三は麗華を和ませようと笑顔をつくった。

「蓮三……」

 見れば、早苗夫人がふらふらと階段を降りてきた。

「大変なことになったのよ……あの人は誰かに殺されてしまったわ……」

「そうだね。みんな大変だったことだろう。とにかく、今は落ち着くことが大事だよ……」

「淳一と吟二はまた諍いを起こしてしまいそうなの……」

「うん、そうだろうね……」

 蓮三は、母を労わるように言った。

「蓮三……。ちょっと後で私の部屋に来なさい。赤沼家の今後のことで話があります。会社の方もこれからどうすべきなのか、問題は山積みなのよ……」

「分かったよ。でも、とりあえず警察署に行かないといけないよ」

「その後でいいわ……」

 麗華は、母も蓮三を頼りにしていることを知っていた。

 蓮三は間もなく、支度を済ませて警察署へと旅立ったのである。

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