第191話 古びた真実

バキャンッ


 極めて上質な鋼が断末魔を上げて圧し折れ、着飾るように施された金銀財宝の装飾が無残に砕け散って石畳の上に散乱する。それは国宝級に匹敵する美術品宝剣が無価値な鉄屑と化した瞬間を意味し、その道を極めた収集家や愛好家が見れば悲鳴を上げること間違いなしの光景であった。


「くそ! これで何本目や!?」

「少なくとも五十回ぐらいは繰り返していますよ!」

「ええい、どれが正解なのだ!?」


 あれから何十回とガーゴイルの右目に剣を突き立てたものの尽くハズレであり、ハズレを引き当てる度に宝剣は無残な鉄屑へと姿を変える。その繰り返しによって破壊の当事者であるヤクト達――本人達も好き好んでやっている訳ではないが――は、宝剣に秘められた価値に対する後悔や罪悪感が麻痺していた。

 尤も、私達が求めているのは魔剣アクエリアスだけなので、例え豪華な装飾が施されていようが無意味な宝剣など幾ら失ったところで惜しいとも思わないが。


「気を付けろ! 仕掛けて来るぞ!」


 クロニカルドの言葉に呼応するかのように、ガーゴイルが剣を団扇に見立てるかのように大きく真横へ振り抜いた。単純ではあるがそれだけで凄まじい突風が巻き起こり、埋め込まれていた石畳や突き立てられていた剣が風圧に剥ぎ取られ、私達の方へと飛ばされていく。


『バブルバリア! ウォーターバリア! アイスバリア!』


 泡と水と氷の三重装甲から成るドームが私達を閉じ込めるように築き上げられた直後、ゴウッという大気の唸りと共に凶器と化した破片の暴雨が押し寄せてきた。しかし、分厚い氷壁は石畳を難無く撥ね退け、宝剣の刃さえも意に介さぬかの如く弾き飛ばす。

 その頑強さを目の当たりにしたヤクト達は取り合えず安堵の吐息を溢したが、表情に帯びた疲弊の色は以前にも増して濃密になりつつあった。


「やれやれ……正解を引き当てられる気配が全然あらへんな」

「何と言いますか、運頼りになりつつありますね……」

「それに相手も相手や。全然ビクともせぇへん。一体どんな構造をしているんや?」

「アレは魔獣である前に、魔剣アクエリアスを守護するガーディアンとしての役目を果たしているのだろう。恐らくダンジョンの核から魔力を逐次注がれているに違いない。即ち、ほぼ無敵に近い存在だ」

「ズルにも程があるやろ……」


 これまでは己の生存本能に懸けてぶつかり合うだけだったが、特殊な条件やルールを付与された中での戦いは今回が生まれて初めてだ。それ故に慣れない戦いとなってしまい、私達が覚える疲労も一入強かった。


「とは言え、あの石板の言葉を従うのならば正解がある筈なのだ。この剣の中に」

「この中にって……」引き攣った表情でヤクトは周囲を見渡す。「あと何本引き抜けばええんや?」


 ガーゴイルの鍵穴とマッチせずに圧し折れた物もあれば、戦いの巻き添えを食う形で破壊された物もあるが、それでも依然として五百以上もの宝剣が石畳に突き刺さったままであった。これら全てを試さなければならないと考えただけで憂鬱な気持ちになるのも無理ない話だ。


「或いは私達が見落としているのでしょうか? 例えば剣以外の何かだったり、もしくは剣に似た物だったり……」

「仮にそうやとしても、この状況では見付け出すのも骨やで?」

「ううむ……。せめて、もう少しヒントがあれば……」


 と、クロニカルドが軽く俯いて考え込んだ時、ドームの外で猛威を振るっていた風圧がピタリと止んだ。そしてドーム越しに巨大な人影が降り注ぎ、恐々と見上げればガーゴイルが剣を振り下ろさんとしていた。


「ウォ!?」


 振り下ろされた剣が氷の防壁に衝突した瞬間、誰もが思わず身を竦めるように頭を下げてしまう。幸いにも三重に張り巡らされていた防壁が絶妙なバランスで互いをカバーし合ってくれたおかげで初撃を凌ぎ切る事が出来た。

 がしかし、完全に剣の威力を殺し切るまでには至らず、氷の防壁全体に蜘蛛の巣状の亀裂が走り抜ける。もしも先程と同様の一撃が再び振り下ろされたら、今度こそアウトなのは目に見えていた。


『皆さん! 次の攻撃で防壁は砕けます! 一旦バリアを解除しますので、直ぐに此処から脱出してください!』

「ガーシェルはどないするんや!?」

『一撃ぐらいなら受け止められます!』


 と、威勢よく啖呵を切ったものの内心では不安が付き纏っていた。確かにダンジョン突入前と比べて防御力は大幅に上がったし、防御力を向上させるスキルだって多々ある。しかし、相手はダンジョンのラスボスであり、その力が未知数である事に変わりない。

 そんな不安に駆られている事など知る由もなく、ガーゴイルは防壁を破壊せんと息巻くかのように高々と剣を振り上げた。そこで私は不安と迷いを捨てて意を決した。


『行きます! バリア、解除!』


 氷壁が砕け散り、水壁が床に流れ落ち、泡壁が弾け飛ぶ。それを見計らってヤクト達は三者三様の方向へと駆け出した直後、ガーゴイルの剣が振り下ろされた。


超合金スーパーアロイ!』


 貝殻に備わった火口という火口から黒鉄のような液体金属――聖鉄と重力鉱石が融合した合金――が噴き出し、まるで意志を持っているかの如く私の貝殻を包み込んだ。やがて液体が凝固して分厚い鎧となった直後、大剣が私の身体に打ち付けられた。


『ぐぅぅぅ……!』


 金槌で杭を打ち込むかのように私の身体が地中に沈み込み、それに伴ってビックベンの鐘にも似たけたたましい轟音が鳴り響く。超合金の鎧を纏った上に有りっ丈の防御スキルを活用しても、柔らかな本体はダメージによる痛みを訴えている。

 やはり完璧に威力を相殺する事は出来なかったようだが、だからと言って身体を張った私の覚悟が無意味だった訳ではない。


接着ペガメント!!』


 超合金の上から重力魔法紫の光が被せられ、ガーゴイルの剣を私の貝殻と接着させた。剣越しに異変を察知したガーゴイルは慌てて剣を引き抜こうとするも、大きなカブのように中々引っこ抜く事が出来ない。

 当然だ、今の私は自分自身に重力魔法の一つである『加重』をかけているのだ。これによって通常の何十倍の重さに達しており、いくらガーゴイルの怪力を以てしても易々と引き抜けやしないだろう。


『皆さん! 今の内です!』


 私が泡の吹き出しを吐いて訴えれば、ヤクトと角麗は傍にあった剣を手に取った。更にクロニカルドが唱えた影魔法『闇千手』によって、ガーゴイルの影から暗闇を待った無数の手が這い出てきた。

 海洋に生息するイソギンチャクの触手を彷彿とさせる闇千手はガーゴイルの身体に巻き付くと、まるで影に引き摺り込むかのように相手を仰向けに引っ繰り返らせた。


「今だ!」


 クロニカルドの号令と共に二人が飛び出す。最初に顔面に乗り込んだ角麗がガーゴイルの右目に剣を突き立てるも、破砕音を奏でてハズレを告げる。続いてヤクトが自分の選んだ剣を右目に捻じ込むも、結果は同じであった。


「駄目です!」

「くそ! 一体どれが正解やねん!」


 本日だけで何度目となるか分からない悪態を吐きながら二人が飛び退こうとした時、小人の国に足を踏み入れたガリバーの如く地面に縫い止められていたガーゴイルは、強引に右腕を振るって闇千手の呪縛を引き千切った。


「ヤクト殿! 危ない!」

「!!」


 角麗がヤクトを庇うように彼の左手に立った直後、眼前の蠅を追い払うかのように振り抜かれたガーゴイルの右手が二人を弾き飛ばした。二人は縺れ合うかのように一塊となって宝剣の山へと突っ込んだ。


「角麗! ヤクト!」


 焦りと動揺を閃かせながらクロニカルドは二人の行方を視線で追い掛けた。

 濛々と立ち込める埃の中から最初に立ち上がったのはヤクトだ。外套の下に着込んでいた御手製の防具のおかげで軽傷だったらしい。続いて角麗も立ち上がるが、宝剣で傷付いたのか露出させた白魚のような肌には痛々しい切り傷が複数設けられていた。


「大丈夫か!?」

「ああ、何とか……! 体中痛いけど、幸い二人とも意識はあるで……!」


 脇腹を抑えながらもクロニカルドの問いに答えるヤクト。角麗もぶらんと垂れ下がる右腕を庇うようにして立ち上がる。

 そのポーズは重傷のサインを表しているも同然であり、一刻も早く二人に治療を施さなければならない。しかし、そんな私達の焦りを嘲笑うかのように、闇千手から解放されたガーゴイルが立ちはだかった。


『クロニカルドさん! ヤツは私が引き受けます! その間にヤクトさん達の回復をお願いします!』

「分かった!」


 クロニカルドが遠回りに移動してヤクト達の方へと向かったのを見て、私はガーゴイルと向かい合った。体に接着させていたガーゴイルの大剣は脇に捨て置き、鎧も解除して身軽さを取り戻している。まぁ、元々速度に難を抱える貝が身軽になったからと言って、目を見張るような速さを得られる訳ではないのだが。


『ビッグボム!』


 私の手前の地中から運動会に用いられる大玉に匹敵する爆弾岩がせり上がり、それをガーゴイルに向けて放り投げる。大岩は低い弧を描きながらガーゴイルに命中し、数本に束ねたダイナマイトに匹敵する大爆発を引き起こした。

 しかし、爆炎が巻き上がったのも束の間、煙の幕を引き裂くかのように無傷のガーゴイルが飛び出してきた。ガーゴイルは真っ先に剣へと手を伸ばした。その隙に私は相手の左側に回り込んで距離を置いた。

 そしてガーゴイルが剣の柄を手に取って持ち上げようとした時、石造りの巨体がガクンッと揺れ動いて止まった。実は剣を捨て置く際、ガーゴイルがソレを手に取った瞬間に重力魔法が発動するよう仕組んでおいたのだ。


『大崩落!』


 触腕をピシャリと鞭のように叩き付けると、ゴゴゴッと地響きがコロッセオ内に木霊した。やがて遥か頭上にある天井に亀裂が走り、そこから大量の土砂がガーゴイル目掛けて降り注いだ。あっという間にガーゴイルは土砂の山に呑まれてしまい、久方振りの静寂が訪れた。


「ガーシェル!」

 

 声の方へ振り返れば、コロッセオの中央辺りでヤクトが手を振っていた。彼の傍ではクロニカルドの治癒魔法を受けつつ、左腕を曲げたり伸ばしたりと確認している角麗の姿があった。


『皆さん、無事でしたか!』


 彼等の元へ駆け寄ると、ヤクトがよくやったと言わんばかりにポンッと貝殻に手を置いた。


「ああ、ガーシェルのおかげや。せやけど……」


 そう言い掛けながらヤクトは土砂に埋もれたガーゴイルに視線を忍ばせた。土砂の下では手や足が僅かに振動しつつあり、このまま放置すれば何れ復活するのは目に見えている。


「くそっ、全然正解も見つからへん。このままやったら俺っち……―――」

『ヤクトさん?』


 不自然なところで言葉が切り上げられたことに違和感を覚えて彼の方へパッと振り返ると、ヤクトは足元に視線を落としたまま硬直していた。どうしたのだろうかと思い、私も彼に倣って視線を下に落とした。


『これは……?』


 其処には剣があった。但し、他の剣と違って金や銀などの煌びやかな装飾は施されておらず、ましてや剣に必要な鋼すら用いられていない。

 それは原始人が使っていたかのような石器の剣であり、石畳の一部として床に埋め込まれていた。周囲に突き立てられた眩い宝剣に目が奪われていたせいで、私達はコレの存在を見落としていたのだ。


「煌びやかでもあらへん、そして石器で一番古い……! これや! これが古びた真実に違いあらへん!」そしてヤクトは弾かれるように私の方へ振り返った。「ガーシェル! こいつを床から剥ぎ取るんや!」

『分かりました!』


 触腕の吸盤を床に埋め込まれた石器の剣に吸着させると、私は思い切り両腕を持ち上げた。当初はピッタリと嵌まったかのように中々抜けなかったが、暫く格闘するとボゴッと音を立てて床から外れた。


「これは……」


 その石器の剣を目にした角麗が思わず声を漏らした。一見すると武骨なだけにしか見えないが、よくよく観察すると左右の刃の間隔が均等に整えられており、まるで最先端の技術を用いて石器としての機能を極限にまで高めているかのようだ。

 天井から降り注ぐ光水晶の輝きを浴びてギラリと輝く石器に誰もが見入っていると、土砂に埋もれていたガーゴイルが活動を活発化させ始めた。まるで布団を脱ぎ捨てるかのように、手足を盛大に動かして夥しい土砂を払い除ける。

 そして自由を取り戻したガーゴイルは、再び両手で剣を構えた。既に重力魔法の効果は切れており、向こうからすれば仕切り直しの状態に戻ったに過ぎない。しかし、私達は違う。この状況を打開するに足る古びた真実を手に入れたのだから。


「残された時間も、こちらの余力も少ない。一気にケリを付けるぞ。剣を差し込む役はヤクトに任せる。角麗はヤクトの援護に回れ。己とガーシェルでヤツの動きを封じ込む」


 クロニカルドの言葉に誰もが首を縦に振った。それから程無くしてガーゴイルが大きい一歩を踏み出した。堂々たる立ち振る舞いと相俟って威圧感があるが、ヤクトと角麗は臆することなく相手に立ち向かっていった。

 自分へ向かってくる両者を見てから、ガーゴイルは悠然と剣を腰だめに構えた。そして居合抜きのような挙動で剣を真横に振り抜こうとした瞬間―――


『ガイアウォール!』


 ―――前に踏み出していた左足の真下から岩の壁が目にも止まらぬ速さでせり上がった。壁として見れば幅こそ狭いが、相手の揚げ足を取るには十分であった。

 此方の目論見通りにバランスを崩したガーゴイルは攻撃を中断し、バランスを取る事に専念した。しかし、余りにも突然の出来事だったせいで体幹が追い付かず、最終的には自身の得物を床に突き刺して杖代わりにしたことで転倒を免れた。


「ハァァァァ!!」


 しかし、転倒を免れたのも束の間だった。ガーゴイルの視界の端に黒い物体が入り込み、ふと反射的に視線を前へ戻すと、今にも拳を振り抜かんとする角麗の姿が目と鼻の先にまで迫っていた。

 然しものガーゴイルも今度ばかりは反応出来ず、そのまま彼女の鉄拳を顔面で受け止めざるを得なかった。闘気を宿した一撃は、ガーゴイルの額を打った。刹那、クレーン車のハンマーで岩山を叩いたかのような凄まじい轟音が鳴り響き、巨人の身体が大きく後ろへ蹈鞴を踏む。


『猛毒墨!』


 ガーゴイルの足が浮き上がった瞬間を狙い、多量の猛毒墨を触腕から噴出する私。直後、それを踏ん付けたガーゴイルは墨のぬめりに足を取られ、盛大にスリップするかのように尻餅をついた。


「樹木魔法『森羅万縄しんらばんじょう』!」


 そこへ追い打ちを掛けるかのように床下から芽生えた無数の大樹が、ガーゴイルの身体に巻き付いた。罪人を縛り上げる縄のように大樹は幾重にも巻かれ、程無くして相手の身動きを完全に封じ込めた。


「今だ! ヤレ!!」


 クロニカルドの号令を機に、石器の剣を握り締めたヤクトが飛び出した。大樹で簀巻きにされたかのようなガーゴイルの上を軽業師のような身のこなしで飛び渡り、巨大な顔に辿り着くまで僅かな距離を残すだけとなった。


「これで終わりや!」


 そして右目に辿り着こうかとした、その時……ガーゴイルが口を窄めて息を吹き出した。単純ではあるが、巨人の肺活量(ゴーレム種に肺があるのかは不明だが)から繰り出された吐息はヤクトをコバエのように吹き飛ばしてみせた。


「おわぁぁぁぁ!?」

「ヤクト殿!」


 ヤクトが宙へ放り出されるかのように吹き飛ばされた際、手にしていた石器の剣を手放してしまう。角麗が前者を追い掛けてその場を離れた直後、後者が私の目の前にズドンッと音を立てて突き刺さった。


『おわ!?』


 目の前に降って来た剣にドギマギしていると、バキバキとガーゴイルを抑え込んでいる樹木が悲鳴を上げ始めた。パッと其方に振り返れば、ガーゴイルが自身を封じ込めている大樹を根っこから引き抜かんばかりの勢いで起き上がろうとしていた。

 そこで私はヤクト達の方へと目線を遣った。結果から言えば角麗の健脚が功を奏し、ヤクトが石畳に叩き付けられるという悲惨な結末は免れた。しかし、その一方で彼女の体力に限界が訪れたらしく、両肩を激しく上下させながら呼吸している。

 ヤクトは彼女を気遣いつつも、首から上だけを此方へ振り向けた。ヤクトと私達の間に広がる距離は大凡で500m余り。仮に私達のところへ戻って石の剣を手に取った頃には、既にガーゴイルは自由を取り戻して――――。


「ガーシェル! やるんや!」

『……はぇ!?』


 私は一瞬だけヤクトの言葉を理解出来なかった。しかし、少しばかり咀嚼すれば自ずと分かることであった。彼は私に対して「剣を(触)手に取って、ガーゴイルの目に突き立てろ」と遠回しに言っているのだと。


「カクレイは動けへんし、俺っちの武器も残り僅かで反撃を凌げるだけの余力はあらへん! 恐らくクロニカルドの魔力も限界に近い筈や!」


 その言葉でハッとなってクロニカルドの方へ視線を忍ばせれば、彼は残り少ない魔力を森羅万縄に込め続け、少しでも長くガーゴイルを封じ込めようと奮闘していた。その表情には魔力切れから来る疲弊の色が見え隠れしている。

 この状況ではウダウダと迷っている時間など無い。私は剣の柄に触腕を巻き付けて引き抜くと、バブルホイールのアクセルを全開にしてガーゴイルの側面に沿って走り出した。


「ガーシェル! 急げ! 此方も長くは持ち堪えられんぞ!」


 クロニカルドの言葉を皮切りに樹木の引き裂かれる音が増幅する。これは急がねばならないと自分に言い聞かせながらも、何が起きても対処出来るよう警戒心は人一倍払っていた。

 やがてガーゴイルの右側頭部に到達すると、私は岩の階段を作って一気に顔面へと駆け上がった。そして右目の穴に石の剣を突き立てようとした時、ガーゴイルが大樹の束縛を引き千切って立ち上がった。


『うわ! わわわわ!!!』


 私は咄嗟に空いている方の触腕を伸ばした。上手い具合に吸盤が石造りの頬から米神にかけて張り付き、やがてガーゴイルが完全に立ち上がっても辛うじてだがしがみ付く事が出来た。触腕が私の重さで痛覚やらで悲鳴を上げているが、この際は無視だ。

 と、背後から何かが迫って来た。其方に意識を遣れば、ガーゴイルの手が迫って来ていた。まるで顔面に付いた大きいゴミを取るかのような感覚で、必死にしがみ付いている私を剥ぎ取ろうという魂胆なのだろうが……そうはいかない。


『ヒートドリル!』


 巨大な手が私に覆い被さろうとした瞬間、何時もは前方に付けるドリルを天頂部に出現させた。熱せられたドリルは易々と分厚い巨人の手を貫通し、流石のガーゴイルも思わず手を引かせてしまう。


 それによって生まれた最大のチャンスを私は見逃さなかった。


『今だ!』


 思い切り右の触腕を振り抜き、その先端に巻き付かせていた剣を右目に突き立てた。剣が最奥にまで差し込まれると、剣はゆっくりと右へ右へと回り始め―――


ガコンッ


 ―――と、音を立てて半回転した。途端、ガーゴイルの手がだらんと垂れ下がり、やがて失意に塗れた人間のように膝から崩れ落ち……そのまま動かなくなった。


【経験値が規定数値に達しました。レベルがアップして41になりました。各種ステータスが向上しました】

【経験値が規定数値に達しました。レベルがアップして42になりました。各種ステータスが向上しました】

【経験値が規定数値に達しました。レベルがアップして43になりました。各種ステータスが向上しました】

【経験値が規定数値に達しました。レベルがアップして44になりました。各種ステータスが向上しました】

【経験値が規定数値に達しました。レベルがアップして45になりました。各種ステータスが向上しました】

【ダンジョン踏破達成ボーナス:レベルが5つアップして50になりました。各種ステータスが向上しました】

【戦闘ボーナス発動:各ステータスの数値が通常よりも多めに上昇します】


【名前】ガーシェル(貝原 守)

【種族】ヴォルケーシェル

【レベル】40→50

【体力】128000→148000(+20000)

【攻撃力】66000→76000(+10000)

【防御力】108000→123000(+15000)

【速度】10600→12600(+2000)

【魔力】71000→81000(+10000)

【スキル】鑑定・自己視・ジェット噴射・暗視・ソナー(パッシブソナー)・鉱物探知・岩潜り・溶岩潜航・堅牢・遊泳・浄化・共食い・自己修復・聖壁・鉄壁・研磨・危険察知・丸呑み・暴食・鉱物摂取・修行・黒煙・狙撃・マッピング・吸収・炎吸収・炎無効・高熱無効・沈着・雪上移動

【従魔スキル】シェルター・魔力共有

【攻撃技】麻酔針・猛毒針・腐食針・失神針・体当たり・針飛ばし・猛毒墨・触腕

【魔法】泡魔法・水魔法・幻覚魔法・土魔法・大地魔法・聖魔法・氷魔法・炎魔法・爆発魔法・溶岩魔法・重力魔法



次回は一月半ば頃の投稿となります。今年一年、有難うございました。皆さま、良いお年を!

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