第184話 第四階層のボス

「ヤクト殿!」

「おー、無事やったか」


 角麗達が私達の所へ戻って来たのは、ネクロマンサーを倒してから十分後の事であった。その頃には此方もアンデッドを倒し尽くし、沼地一帯には火葬やら浄化やらで成仏した彼等の亡骸で埋め尽くされていた。

 いや、既に死人だから亡骸と言うのも変かもしれないが……まぁ、良いか。因みに、この戦闘のおかげでレベルが二つ上昇した。塵も積もれば何とやらと言うヤツですな。


「アンデッドが来なくなったから、ひょっとしてって思っていたんや。やってくれたんやな」

「うむ、しかし……少々厄介な出来事が起こっているみたいだ」

「厄介?」


 深刻な面持ちで告げるクロニカルドに対し、ヤクトは怪訝そうに表情を顰める。そして彼の口からネクロマンサーの目的と末路を聞かされた途端、ヤクトだけでなく角麗も深刻な表情を浮かべていた。


「姫さんを狙うているって事は……十中八九、あの黒尽くめ絡みやろうな」

「うむ。出来れば相手の規模や、ソレを命じている輩が知れればと思ったのだが……口を割らす前に始末されてしまった。面目ない」

「いや、このダンジョンに姫さんを狙うヤツが居るという事実が分かっただけでも大収穫や。せやけど、流石に姫さんにソレを言う訳にはいかへんな」

「そうだな……」


 情報の共有は大事だと頭で分かっているが、その一方でアクリルの幼心に刻まれたトラウマを不用意に刺激するような真似は避けたいという気持ちもあった。なので、折衷案として今回の情報は私達だけが共有するという事となった。


「ほな、またガーシェルの中に戻ってい一息休ませてもらおうかいな」

「そうですね。何だかんだで既に夜明けですしね」


 そう言って角麗が東の彼方を見上げると、それに釣られて私達も彼女と同じ方角を見遣った。すると、朝日が差し込んだ事によって墨のような夜闇が徐々に薄まっていき、やがて沼地本来の風景が現れた。

 絶望の夜が終わりを告げ、希望に満ちた朝が訪れる。これがホラーゲームのラストシーンならば感動する場面なのだろうが、今は何も考えずに只々休みたいという一心しか胸中に存在しなかった。

 その気持ちはヤクト達も同様だったらしく、シェルターに戻るや否や崩れ落ちるように眠りの世界へと墜落ダイブした。そして私も泥濘のベッドに身を沈め、睡魔の誘いに導かれて意識を手放した。


 尚、その時点で目覚めていたアクリルは疲れ果てて熟睡するヤクト達を見て、不思議そうに小首を傾げていたそうな。



 底無し沼のような深い眠りから目覚めた後、私達は再び第四階層の最深部を目指した。其処へ至るまでの道中で遭遇したアンデッドは例に漏れずアクリルの手によって悉くが討ち取られ、此方が却って呆気に取られそうなるほどにダンジョン攻略は順調に進んだ。

 しかし、それでも私達は警戒を一瞬たりとも緩まなかった。此方を狙う第二・第三のネクロマンサーが現れないとは言い切れず、またネクロマンサーの口を封じた輩が同階層に居る事も判明している。

 これ以上影から付け狙われるよりも、一刻も早く第四階層を抜けて次の階層に移った方が良い。アクリルに悟られぬよう密かに提案したクロニカルドの意見に、誰もが首を縦に振ったのは言うまでもない。

 そして私達が目的地として定めていた沼地の最深部に到達したのは、一日の終わりを告げる夜更け頃であった。

 奥へ進めば進むほどに瘴気に含まれた毒素の濃度も増していくが、それに比例して魔力の濃度も増しているらしく、私達を取り巻くスモッグは薄紫色に発光している。おかげで暗視を使わずに済んだが、それはにも通じる理屈であろう。


「何や、アレは……?」


 沼地の最深部に到達した私達の前に現れたのは、文明が滅亡してから数千年が経過したかのような朽ち果てた神殿であった。神殿を構築していた柱や屋根の大半が瓦礫の山と化し、整然と並べられた石畳の隙間からは瘴気を吸って成長した毒々しい雑草が生い茂っている。

 しかし、ヤクトが着眼したのはダンジョンに築かれた神殿そのものではない。彼の視線は半壊した神殿の奥、野晒しにされて風化した玉座に腰掛ける一体のアンデッドに釘付けられていた。

 金糸の刺繍があしらわれた白を基調としたローブと相俟って、まるで即身仏のような不可侵と言うか触れてはならない神々しさがある。その一方で頭に被せられた立派な王冠には埃を引っ掛けた蜘蛛の巣のベールが掛けられており、嘗て存在した栄光や権威の喪失という哀愁を物語っているかのようだ。


「あれは……スケルトンキングか?」

「スケルトンキング?」


 クロニカルドの台詞に惹かれるようにヤクトを始め全員が彼の方へと振り返る。


「ああ、名前の通りスケルトンの王であり……アンデッド系の最上位に当たる魔獣だ。王というだけあって魔力も豊富だが、何よりも恐ろしいのは―――」


 と、クロニカルドがスケルトンキングの特性を説明していた最中、寂れた玉座からバキバキッと凝り固まった関節を解すような音が鳴り響いた。それに反応して振り返れば、錆びたブリキ人形のようなぎこちない動作で玉座から立ち上がろうとする骸の王が視界に飛び込んだ。


「ウウウウ……」


 何かを訴えるような低音の唸り声が食い縛った歯の隙間から零れ落ちると、呼吸をしているかのように口内に蓄積された埃の粉塵が吐き出された。

 眼孔の奥底に灯された妖しげに輝く紫の光点が私達を捕らえた瞬間、スケルトンキングは尊大な演説者のように干乾びた胸を張り、白骨化しつつある両腕と顔を天に捧げた。


「いかん! 来るぞ!」

「は? 一体何が来るんや――!?」


 クロニカルドが警告を発した直後、まるで地中に巨大なワームが這っているかのように地面がボコボコと隆起し始めた。やがて朽ち果てた石畳を引っ繰り返して地上に這い出て来たのはスケルトンの大群だった。

 最初は主力であるスケルトンソルジャーが続々と現れ、次に中位種に当たるスケルトンウォーリアやスケルトンアーチャーが後に続く。それが過ぎるとハイリッチやデスナイツが登場し、ダメ押しと言わんばかりにスケルトンジェネラルが登場した所で漸く打ち止めとなった。

 そうして辺り一帯は何千という数に上ろうかというスケルトンの軍隊で埋め尽くされた。廃墟の神殿という風景も相まって本場の心霊スポットを思い出させるが、どちらにしても厄介な状況である事に変わりはない。


「スケルトンキングはスケルトン系のアンデッドならば何でも呼び出す事が出来る上に、意のままに操ることも可能なのだ! しかし、肝心なのは其処ではない! スケルトンキングを相手にする上で最も厄介なのは―――」

「オオオオオオ!!!」


 と、クロニカルドが肝心な部分を説明しようとした矢先、スケルトンジェネラルの咆哮が被さって来た。所々が錆び付いた青銅の鎧と端々が擦り切れた襤褸同然のマント、そして鶏冠のような羽飾りが付いた兜に身を包んだ姿はローマ時代に登場する将軍そのものだ。

 将軍の号令に呼応するかのように赤外線のような赤い眼光を宿したスケルトンソルジャーの大軍が一気に雪崩れ込んできた。一匹一匹の力は脆弱だが、それが数に頼れば強者を押し潰すのも造作ないであろう。


『マグマウォール!』


 貝殻に備わった九つの火口から溶岩が噴き出し、ソレは意思を持ったスライムの如く私達をぐるりと取り囲む。全てを焼き尽くしそうな印象とは裏腹に、内部の空間は意外にも快適な温度を維持したままだった。

 その直後、スケルトンソルジャーの大軍が灼熱の防壁に殺到した。溶岩に触れたスケルトンの真っ白い骸は瞬く間に黒焦げた遺骨へと変わり果て、最終的に溶岩の壁に呑み込まれるように焼失していく。

 しかし、後続達は仲間の死――アンデッドに死という概念が果たしてあるのか疑問だが――など眼中に無いと言わんばかりに、辛うじて焼け残った骨を梯子代わりにして上から乗り込もうと試みる。このままでは灼熱の防壁を突破されてしまうと危惧した私は、すぐさま次なる一手を打った。


『マグマウェーブ!』


 貝針を地面に突き刺して魔力を注いだ途端、微かに感じ取れるか否かという微弱な振動が足元を震わせた。やがて弱々しい微震は内臓を突き上げるような激しい本震へと移り変わり、瘴気に侵された不浄の大地廃墟の神殿をスポンジのように引き裂いた。

 そして罅割れた大地の奥底から夥しい量の溶岩流が込み上がり、大地を呑み込むように氾濫した。神殿を埋め尽くしていた死者の軍勢が煮え滾る濁流の餌食となる様は、まるで神聖な神殿を穢したアンデッド達に対する神罰のようであった。

 この攻撃によってスケルトン達が有していた数の利はあっという間に失われ、形勢逆転したかに思われた。しかし、その優勢は玉座の前に立つスケルトンキングによって呆気なく引っ繰り返された。


「ウウゥゥ……」


 苦悶に満ちた唸り声を立てながら、血も通わぬ両手を組み合わせるスケルトンキング。己の罪を懺悔しつつ神に祈りを捧げているかのようだが、不気味な外観と苦し気な呻き声と相俟って呪詛を吐き出しているようにしか見えない。

 やがてスケルトンキングが組み合わせていた両手を解き、懐を開放するかのようにゆっくりと両腕を広げると、剥き出しになった地面から新たなスケルトンソルジャーが次々と這い出てきた。正確な数は不明だが、少なくとも私が倒した分は余裕で補えるだろう。


「何やと!? またスケルトンが増えおった!? それもさっきと同じか、それ以上の数を!?」

「アレがスケルトンキングの特殊能力スキルだ!」


 クロニカルドが声を荒げると、全員の視線が彼の方へと釘付けられる。


「スケルトンキングは自分の魔力を介して新たな死人アンデッドを呼び出す、これ自体は召喚と同じ仕組みであって何ら珍しい事でもない。しかし、問題なのは召喚したアンデッドが消滅すると、呼び寄せた際に要した魔力が自動的に王の元へ戻るのだ!」

「それって……つまり……」


 表情を強張らせた角麗は眼前を埋め尽くすスケルトンの軍勢を無視し、玉座に腰掛けるスケルトンキングを見遣った。他の皆も角麗同様、虚ろ気に立つスケルトンキングに目線を結び付けている。


「そうだ、このスキルによってヤツの魔力はほぼ無尽蔵に近い! そして半永久的に死兵を呼び寄せられる! このまま真正面から正々堂々とぶつかり合えば、此方がジリ貧となって追い詰められるのは明らかだ!」

「おいおい、反則どころやあらへんで! 魔力が半永久的に尽きへんって、チートにも程があるで! そんな相手をどうやって倒せっちゅーんや!?」


 ヒステリックを起こしたかのように声を荒げるヤクトに対し、先程まで興奮気に説明していたクロニカルドは一転して冷静な声色で諭した。


「自棄になるのはまだ早いぞ。確かにスケルトンキングのスキルは厄介であり脅威だが、だからと言ってヤツ自身が完全無敵という訳ではない」

「どういう意味ですか?」

「スケルトンキングの長所は多種多様なスケルトンを呼び出せる召喚術と魔力還元スキルのみであり、それ以外の直接的な戦闘能力は低いのだ。謂わば、死霊術に長けたネクロマンサーと同じだ」

「ほな、アレに直接攻撃を仕掛ければ勝機はあるっちゅー事かいな!?」

「その通りだ! よって、この戦いでは雑魚を捨て置き、王に狙いを絞る一点集中を心掛けるのだ!」


 対スケルトンキングにおける戦闘方針が決まった所で、またもやスケルトンソルジャーの大群がドッと押し寄せてきた。今度はスケルトンアーチャーやハイリッチの遠距離攻撃に加え、接近戦を得意とするスケルトンウォーリアも大群の中に混じっているのが確認出来た。


「先ずは厄介な王までの通り道を作らねばならん。アクリル、貴様の矢でスケルトン共を一掃するのだ! 遠慮はいらん、思い切りやれ!!」

「うん! 分かった!」


 貝殻の上で熟練の兵士のように矢を弓に番えるアクリル。そして引き絞った弓から矢を放った瞬間、膨大なエネルギーを打ち出すような爆音が奏でられた。

 凄まじい威力を秘めた矢はスケルトンで埋め尽くされた神殿を横断した。矢に纏わり付いた衝撃波だけで髑髏の兵士が紙屑のように千切れ飛び、木っ端微塵に打ち砕かれた骨片が宙に舞い上がる。

 最終的に矢はスケルトンキングが腰掛ける玉座から僅かに横へ逸れたものの、王の元へ至る道筋を確保する事に成功した。しかも、スケルトン達は想像を絶する破壊力を目の当たりにして骨格模型のように棒立ちのまま硬直している。これは絶好のチャンスだ。


「今だ、ガーシェル!! 突っ切れ!!」

『了解!!』


 クロニカルドの呼び掛けに応じ、私――及び貝殻に飛び移った全員――は出来上がって間もない溝に飛び込んだ。少し遅れて周囲のスケルトン達がショックから立ち直ると、私を挟撃するかのように溝の両脇から襲い掛かってくる。

 しかし、その前にヤクトのショットガンに砕かれ、クロニカルドや私の魔法に焼き払われて、結局誰一人として私の身体貝殻に触れられなかった。仮に触れられたとしても、聖鉄で出来た貝殻に触れれば浄化させられてしまうだろうが。

 やがてスケルトンキングまで後少しという距離に差し掛かろうとした時、近衛兵として王の周囲に配されていた三体のデスナイツが立ちはだかった。

 2mを超す骨太な骨格は墨のように黒ずみ、その上に着込んだ漆黒の鎧と相俟って、死の騎士と呼ぶに相応しい風格を醸し出している。そして間合いに飛び込んだ私達に向けて、手にしていた大剣――Ωを横倒しにしたかのような湾刀――を振り抜こうとした。


緑手グリーンテンタクル!」

獄炎鳥ヘルファイヤーバード!」


 だが、その矢先にクロニカルドの樹木魔法『緑手』が繰り出された。大樹の根に匹敵する太い茎が地中から現れ、デスナイツ達の身体に巻き付いて自由を奪う。その直後にアクリルの放った獄炎鳥がデスナイツ達を焼き払い、王と私達の間を遮る邪魔者は居なくなった。


「角麗!」

「はい!」


 クロニカルドが角麗にトドメを託すと、彼女は貝殻の上から勢いよく飛び出した。目指すは玉座に腰掛けるスケルトンキング只一人。一足飛びで玉座に続く階段を駆け上がり、そして間合いに飛び込むのと同時に拳を抉る様に突き出した。


「はぁぁぁ!!!」


 闘気を練り上げた一撃必殺の拳はスケルトンキングを粉砕するかに思われた。しかし、その拳は王を守るように何処からともなく現れた白い壁に阻まれてしまう。それは無数のアンデッドをバラバラに分解し、一つ一つのパーツを無作為に敷き詰めたかのような骨の壁だった。


「くっ! 何て硬さですか……!」

骸の棺桶ボーンコフィン! 角麗の拳を以てしても打ち砕けぬとなれば……質量のある聖魔法をぶつけるしかない!」

「おい! こっちもヤバいで! 敵さんが続々と復活しとる!」


 ヤクトの声に反応して振り返ると、先程の攻撃で打ち倒されたスケルトン達が再び地中から這い上がろうとしいた。少しでも数を減らそうとしてヤクトが銃火器で応戦するも、頑強な盾を構えたアンデッドウォーリアが間に入っているせいで効果は薄い。


 このままでは挟み撃ちに遭い、私達は全滅してしまう―――そんな危惧が脳裏をかすめた時、何かに思い至ったかのような閃き顔を浮かべた角麗は、バッと私の方へと振り返る。


「ガーシェル! 触腕を伸ばしてください!!」

『え? あ、はい』


 一体何をする気なのか分からないが角麗に向けて触腕を伸ばすと、彼女はソレを手に取った。いや、手に取ると言うよりも丸太のように脇に抱えたと言うべきか。この瞬間、私の第六感が嫌な予感を告げた。というか、この持ち方からして考えられる結末は一つしかない。


「皆さん、ガーシェルから降りてください!」

「分かったー!」

『あの、ちょ、まだ心の準備が……』

「行きますよ! ガーシェル!!」

『こ、心の準備がぁぁぁぁぁぁ!!?』


 貝殻から全員が下りたのを確認するや、角麗は巨大なハンマーを振り下ろすかのように私を骨壁に叩き付けた。咄嗟に防御スキルを発動させ、ついでに炎魔法による高熱を貝殻に付与して赤熱化させる。

 結果から言えば効果は絶大だった。アンデッド系が苦手とする高熱+聖属性+鈍器のような質量攻撃……これら三つを備えたガーシェルという名の一撃は、無数のアンデッドで気付いた鉄壁の守りを打ち砕いた。

 その奥で護られていたスケルトンキングも私の巨体に玉座ごと押し潰された挙句、数千度にも上る高熱に晒されて跡形も無く焼却されてしまった。スケルトン達の頂点に立つ王の最期にしては、何とも華の無い哀れな幕切れであった。


「見て!」


 アクリルがスケルトンの軍勢を指差し叫んだ。その声に釣られてスケルトン達を見遣ると、まるで本来の姿を思い出したかのように次々と何の変哲もない只の骸となって崩れ落ちていく。


「スケルトンの軍勢が……」

「アレは通常のアンデッド魔獣と異なり、元々スケルトンキングの魔力で呼び起こされたものだからな。その大元が失われた以上、アレも只の骸に戻るのが必然というものよ」


 やがて全てのアンデッドが土に還った直後、私の脳裏にレベルアップを告げるステータスのテロップが5回流れた。前回のネクロマンサー戦で上がった分も加えれば計7つ、第四階層だけでも大幅なレベルアップを果たした事になる。


「さっきのカク姉とガーシェルちゃんの合体技、すごかったねー!」

「ガーシェルそのものを振り回すなんて常識では考えられへんし、相手からしたら恐怖以外の何物でもないやろうなぁ」

「しかし、相手の虚を突くという意味では意外と効果があるやもしれんな」

「今後もチャンスが有れば活用していきたいですね」

『やめてくださいしんでしまいます』


 まぁ、実際にやろうと思えば出来るし下手な真似をしない限りは死なないだろうけど……あんな技を何度もやられたら此方の精神が保ちませんってば!!!


 因みにスケルトンキングを倒した後に出現した宝箱の中には大量の金銀財宝の他、自分の魂と引き換えに他者を蘇生する禁断の魔導書が入っていた。流石のヤクトも手に取るのを躊躇ったが、最終的に魔導書を研究したいという理由でクロニカルドが所有する事となった。


「ほな、次の階層へ行こうか」


 そして私達は玉座の背後に現れた転移魔法に乗り込み、第四階層を後にした。



「ダンジョンやから何があってもおかしくないと思うようになっていたけど、流石にコレは驚いたわぁ……」

「わぁー! きれーい!」


 第五階層に降り立った私達を待ち受けていたのは、濃密な雪化粧に覆われた銀世界だった。地平線の彼方まで続く広大な雪原は夜闇に沈んでいたが、第四階層沼地のような恐怖心を刺激する暗闇ではなく、見る者に落ち着きと安らぎを齎してくれる美しくも深い藍色だ。

 しかし、アクリルの眼差しは目前に広がる雪景色に向けられておらず、地平線を区切る夜空へと向けられていた。雲一つない冬の夜空には宝石箱を引っ繰り返したかのような星々が満たされ、またテレビでしか見た事のない優雅なオーロラのカーテンが星空をバックに揺れ動いている。

 極地でしか見られない自然界の芸術に誰もが見入っていたが、何処からともなく吹き抜けた肌を切り裂くような極低温の寒風が私達を現実へ引き戻した。


「さ、寒っ!!」

「と、取り合えずガーシェルの中に避難するのだ! 一晩遣り過ごしてからダンジョン攻略に挑むぞ!」

「そ、そうしましょう!!」


 そうしてヤクト達は寒さから逃げるように大急ぎでシェルターの中へと避難した。一人取り残された私は炎魔法で自身の身体を温めつつ、冬の夜空に見守られながら眠りの世界へと旅立っていった。



【名前】ガーシェル(貝原 守)

【種族】ヴォルケーシェル

【レベル】23→30

【体力】94000→108000(+14000)

【攻撃力】49000→56000(+7000)

【防御力】82500→93000(+10500)

【速度】7200→8600(+1400)

【魔力】54000→61000(+7000)

【スキル】鑑定・自己視・ジェット噴射・暗視・ソナー(パッシブソナー)・鉱物探知・岩潜り・溶岩潜航・堅牢・遊泳・浄化・共食い・自己修復・聖壁・鉄壁・研磨・危険察知・丸呑み・暴食・鉱物摂取・修行・黒煙・狙撃・マッピング・吸収・炎吸収・炎無効・高熱無効・沈着

【従魔スキル】シェルター・魔力共有

【攻撃技】麻酔針・猛毒針・腐食針・体当たり・針飛ばし・猛毒墨・触腕

【魔法】泡魔法・水魔法・幻覚魔法・土魔法・大地魔法・聖魔法・氷魔法・炎魔法・爆発魔法・溶岩魔法・重力魔法

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