第48話 今後についての算段

「ここがワシの家だ。子供が興味を引くようなものは置いてないが……まぁ、気を張らずに寛ぎなさい」


 ヨルドーの後ろに付いて行くこと暫し、漸く辿り着いた場所は丸太で作られたログハウスの前だった。他の家々が平屋建てであったのを考えると、此処に住む人間――ヨルドーが如何に特別な存在であるかが伺える。


「ヤクト殿、貴方もどうぞお入り下さい。御礼も兼ねて食事を御馳走したいのです」

「俺っちもかい?」ヤクトは自分自身を指差した。「俺っちは依頼されたから働いただけや。そんな凄い働きをした訳でも、感謝される程の事をした訳やあらへんで?」

「いいえ、そんなことはありません。そもそも居所も分からぬ人攫いの逮捕と子供達の救出という難易度の高い仕事内容に対し、私達が提示した懸賞金の額は決して高くありません。ハッキリ言って、であったのは明白のはず。にも拘らず、貴方はそれに不平を言わずに引き受けてくれた。それだけで十分感謝に値します」

「ふーん、そないなもんかねぇ」


 そっけないように口では言っては見る者の、頬を掻いて照れるのを誤魔化しているのは一目瞭然であった。そしてヨルドーの生真面目さと熱意に根負けしたヤクトは、頭に被っていたテンガロンハットを胸に押し当てながら恭しく一礼した。


「分かりました。ほな、その申し出を有難く頂くとしましょか」


 そう言うとヤクトは再び帽子を被り、ログハウスの中へと入って行った。アクリルも彼に続いて行くかと思われたが、彼女は私と先に家へと入ったヤクトの後ろ姿を交互に見遣っていた。


「どうしたのかね、アクリルさん?」

「ガーシェルちゃんは……いっしょに入れない?」


 コテンと首を傾げながら恐る恐る訴える姿があざと過ぎます。心臓がギュンッと締め付けられましたよ。ギュンッとね!

 けれども、どれだけ可愛くても無理なものは無理らしく、ヨルドーは微笑と苦笑いを半々に織り交ぜた笑みを浮かべ、申し訳なさそうに首を横に振った。


「申し訳ない、流石に従魔を我が家に招き入れられる程の広さは無くってのう。代わりに後で従魔に餌と獣舎の一角を提供しよう。それで良いかね?」

「うーん……」アクリルは視線を真下へと向けた。「ガーシェルちゃんはソレで良い?」

『ええ、問題ありませんよ。食事とゆっくりと休められる場所が得られるだけで十分です。それよりもアクリルさんも昨晩から何も食べていないのですから、きちんと食事を取って下さい。子供の成長に食事は大事ですよ』


 そう言ってやるとアクリルのお腹から可愛らしい腹の虫の悲鳴が聞こえて来た。空腹のサインに恥ずかしさを覚える人間も居るが、アクリルぐらいの年頃は羞恥心よりも素直さが先に出るようだ。


「うん、分かった! それじゃバルドーのおじいちゃんのおにいしゃんの家に行ってくるね! おじいちゃんのおにいしゃん、よろしくお願いします!」

「はっはっは、ヨルドーと呼んでくれても構わんよ。それにしても素直な上に、礼節も持つ良い子じゃないか。バルドーからも聞かされていたが、アイツが可愛がるのも分かる気がするよ」


 朗らかに笑いながらアクリルの為人を好意的に受け入れると、ヨルドーは彼女と並行してログハウスの中へと消えていった。

 さて、結果的に一匹だけ外に取り残されしまった形になってしまったが、このまま何もしないという選択肢は無い。ヨルドーの家でどんな会話がなされているか気になるし、今後の活動の為に一つでも多くの情報を獲得しておく必要があるだろう。

 普通のシェルには必要のないことかもしれないが、前世は人間であった私の場合は別だ。尤も、本心を言えば私自身が個人的に異世界の事を知りたいと強く願っているのだが。

 そうと決まれば私は早速ログハウスの側面に回り込み、均等に積み重ねられた丸太の一部に触手をピタリと押し当てた。するとログハウス内に居る三人の遣り取りを始め、足音や物を動かす音が脳裏に響き渡った。


『わー、すごーい! 本がいっぱーい!』

『はははは、我が家の自慢は本だけじゃな。それ以外は何もありはせん』


 トタトタと可愛らしい足音で走り回るアクリル、そして無邪気に燥ぐ彼女を見て頬を緩めるヨルドーの姿が容易に目に浮かぶ。本が一杯という事は、彼は本を集める事が趣味なのだろうか?


『この本棚に並ぶ書物……全部魔導書や魔法関連の本やな。まさかアンタ魔法使いなんか?』

『ほぉ、流石は腕利きの賞金稼ぎバウンティハンター殿であらせられる。左様、ワシの本職は魔法使いじゃ。とは言え、その実力は良く言って中の中。ここにある本は魔術を極めようとし、己の限界にぶつかり挫折した惨めな平凡魔法使いの名残みたいなものだ』


 何と、ヨルドーは魔法使いだったのか。魔法使いだと自己紹介する台詞の後半は、ほぼ自嘲の念で埋め尽くされていたが、それでもアクリルが驚くほどの膨大な本の数だ。彼の努力と勤勉さは紛れもない事実だ。

 ヤクトも私と同様の結論に辿り着いたからなのか、「そんなに卑下せんくてもええですやん」と若干苦い声色でフォローしている。


『まぁ、魔法使いであったという私の事実よりも……今は別の事実に目を向けよう。だが、その前にまずは食事だな。腹が減っては戦も出来んし、頭を働かせる事も出来んからな!』


 自分の口から出た自嘲の空気を吹き飛ばすように、殊更明るく努めながらヨルドーは二人を自宅の食堂へと案内していった。その後は彼の作った料理に舌鼓を打ち、アクリルが「美味しい」と言えば軽やかな笑い声が溢れたりと穏やかな時間が過ぎていった。

 やがて穏やかな朝食の時間も一段落したところで、肝心の話題に切り込んだのは、やはりと言うべきかヨルドーだった。


『さて、何から話そうか……。既に話した通り、私とバルドーは兄弟だ。他にも兄弟が存在するが、住んでいる場所が近い分、手紙の遣り取りや顔を会わせる機会も多くあってのう。兄弟仲は良かった方なのだが……』


 嘗て兄弟であったバルドーとの思い出を振り返っているのか、ヨルドーの語尾にはあの頃には戻れぬ物悲しい郷愁の響きが含まれていた。それを振り払うかのようにヨルドーは話題を切り替えた。


『それでだ、実はそのバルドーとの最近の手紙の遣り取りで“ある子供に魔法を教えてやってほしい”という依頼されたのだ。その子の名前はアクリル、そして幼子ながらシェルを従わせていると手紙には記されていた』

『そう言えばおとーしゃんがアクリルにまほーを教える先生が来るって言ってた!』

『うむ、私の事だな』


 あっ、そう言えばピクニックの席でガーヴィンがそんな事を言ってたな。確かバルドーの伝手でとも。

 成程、アクリルに魔法を教える教師としてバルドーが推薦したのは実のお兄さんだったのか。それなら信頼を置けるし、相手の為人も分かっているから色々とやり易いだろう。


『本来ならば向こうで会う筈なのだったのだが、結果的には違法オークションが開かれていた廃村で出会うとは思いも寄らなかった。しかし、何故キミはあんな場所に?』

『……ええっと――』


 ヨルドーからの質問にアクリルは真剣に答えようとするも、出てくるのは『あの』とか『えっと』という意味のない接続詞が繰り返されるばかり。言葉が喉に詰まってしまったかのように、その後に続くであろう説明に繋がらない。

 恐らく彼女も必死なのだろう。だが、幼い子供にアレを説明させるのは過酷というものだ。思い出すだけでもおぞかしい記憶を振り返るだけでも、精神的に酷なのは容易に想像出来る。だからと言って、それすら知らぬ二人に此方の事情を察しろと言うのも無理な話ではあるが。


『はぁ……はぁ……ハッハッハッ―――』


 やがて不自然に息を上がらせたかと思いきや、唐突に呼吸音が早まった。そしてドタンッとテーブルから何かが倒れ落ちたかのような重い音が響き渡り、次いで男二人の慌てる声が聞こえて来た。


『いかん! 過呼吸だ! ソファーに寝かせ落ち着かせるんじゃ!』

『わ、分かった……!』


 ログハウス内に響き渡る慌ただしい物音が只事ではないと訴えていたが、外で待機している私には何一つとして手出しが出来ず、黙って耳を傾けるしか術がなかった。

 その間にもヨルドーがアクリルに献身的な言葉を投げ掛けて過呼吸を落ち着かせようとしていたが、ドクドクと早鐘を打つ心臓音が周囲の音を阻害して上手く聞き取れなかった。まるで私の中に巣食う不安を原動力にして心臓が脈打っているかのようだ。


『大丈夫か? 無理しなくても良いんだぞ?』

『はぁー、はぁー……けほっ。ご、ごめんなさい……』


 ハッと我に返った時にはアクリルの過呼吸は治まり、穏やかな元の呼吸に戻っていた。時折噎せて咳き込む声も聞こえるが、アクリルの口から弱々しい謝罪の声を聞いて私はホッと無い胸を撫で下ろした。会話の遣り取りが出来る程度に意識を保てているのは良い兆候だ。


『謝る必要なんてあらへん。無理させてしもうたんはこっちや』

『ヤクト殿の言う通りだ。無理をさせてすまなかった……。この話はキミが話したい時に聞かせて貰うとして、別の話を聞く事にしよう』

『べつのおはなし?』


 呼吸を取り戻したばかりで上手く頭が回らないのか、アクリルが復唱した台詞の音程はワントーン以上も外れていた。


『アクリルさん、キミに親族……お父さんやお母さん以外で頼れる人は居られるのかな?』

『んーん、知らない……。おとーしゃんとおかーしゃんのおじいちゃんやおばあちゃんは、遠い昔に亡くなったって話は聞いたけど……』


 アクリルがそう返答すると、ヨルドーの渋い呻き声が空気を震わした。


『そうか……。だとすると弱ったのう。せめて彼女の保護を伝える事が出来れば、彼女の安全を確保する事も可能なのだが……』


 アクリルも親族の存在が知らないとなると、文字通り天涯孤独で生きていかなければならない。恩人とは言え、彼女の一生を保障してやれるほどヨルドーも余裕がある訳ではない。ログハウス越しでもヨルドーの悩みが伝わってきそうだ。


『せや、あのシェルやったら出来るかもしれん』

『シェルがどうしたんじゃ?』

『ガーシェルちゃんがどうしたの?』


 急にヤクトが私の名前が持ち出したので、思わずドキリと心臓が跳ね上がってしまった。というか、私に何をさせる気なのでしょうかね?


『いやな、アイツ……何でかは知らんけど、記憶魔法を使えるみたいなんや』

『何じゃと、そりゃ本当か?』

『ああ、ほんまや。それのおかげで俺っちはシェルと姫さんの関係を知る事が出来たんやからな。』


 成程、その手がありましたか! 確かに記憶魔法ならば私の記憶を直接見せる事が出来るのでゴチャゴチャした説明は不要だし、アクリルに見させなければ彼女に辛い思いをさせる心配も無い。


『アクリルがガーシェルちゃんにヨルドーおじいちゃんとヤクトおにいちゃんの言う事を聞くように言おっか?』

『いや、その心配はないやろ。アイツ、ああ見えて頭もええみたいやし。俺っちに記憶魔法見せて機転利かすし、俺っちの言葉に反応する節も見せてるし、もしかしたら従魔契約を結んだ姫さん以外の人間の言葉も理解してるかもしれへんなぁ』


 ええ、そうです。ちゃんと理解しています。けれど、ああ見えては余計です。は。もう少し言葉を選んでくださいよ。まぁ、それに対する非難すら表現出来ませんけどね!


『では、そうするとしよう。アクリルさんはソファーに座って待っていなさい』

『えっ、でも……』

『無理をしなさんな。只でさえ思い出そうとしただけで過呼吸を起こす程だ。そんな辛い記憶を直視する勇気と覚悟がキミにあるかね?』


 そう言うとアクリルが『あうぅ…』と図星を突かれたような声を思わず漏らした。やはり、あの時の出来事がトラウマとなってアクリルの心の傷に居座り続けているようだ。最終的に私の記憶魔法を見る覚悟と勇気が湧かなかったのか、アクリルの身体がソファーに沈み、スプリングが軋む音が室内に広がった。


『じゃあ、アクリル待ってるね』

『うむ、無理して心を傷める必要はあるまいて』


 そこで私はログハウスの側面から触手を離し、正面玄関に戻って待機した。するとタイミングを合わせたかのように扉が開き、ガーヴィンとヤクトが現れた。

 既に盗み聞きしていたので何が目的なのかは知っているし、必要無いかもしれないが念の為に事情を知らない振りをした。顔が無いだけに此方の顔色を伺えないので、バレる心配はゼロですよ!


「ガーシェルと言ったな? 色々と手数を掛けて申し訳ないが、パラッシュ村で起こった出来事の一部始終を知りたいのだ。キミの持つ記憶魔法とやらで見せてはくれんかね?」


 その言葉に呼応してポンッと貝殻の隙間から一つの泡を打ち出す。ソレはふよふよと暫し宙を漂った後、私達の見上げる先でピタリと止まった。

 そして泡の表面に流された映像には黒ローブや、彼等の使っていた魔法、そしてメリルの最期の瞬間が映し出された。ヤクトは無意識に怒りを覚えたのか眉間に深い皺を刻むに留めるのに対し、ヨルドーは信じられないと言わんばかりに声を荒げた。


「これは……暗黒魔法ではないか!」

「暗黒魔法……?」眉間の皺を解いてヨルドーの方へ振り返る。「――って俺っちも上辺の話しか知らへんけど、禁忌魔法として使用が固く禁じられとるかいな?」


 ヤクトが確認を込めて尋ねると、ヨルドーは髭で埋もれた首を縦に動かした。そしてヨルドーはそのまま魔法が生まれた歴史、そして暗黒魔法に纏わる話を語り始めた。

 太古の昔、人類は体内に秘めた魔力の有効活用を目的に魔法という方法を編み出した。魔法の誕生は世紀の大発明として歴史に名を刻み、原始人から脱却し立てたばかりのような人間の暮らしを一変させた。また魔法使いを始めとする魔法専門の職種を幾つか派生させ、彼等の登場によって人間社会そのものに劇的な変化を齎した。

 だが、この異世界においても人類という種族は革新的な技術や技法を見付けると、それを自身の欲望や利益の為に最大限利用しようと模索する生物らしい。

 とどのつまり、人類は戦争という血生臭い大舞台で魔法を用い始めたのだ。最初に魔法を戦争へ持ち込んだ人物――或いは国家――は定かではないが、気付いた時には魔法は戦場の花形となり、戦争をする上では無くてはならない兵器として確固たる地位を確立していた。

 やがて各国は他国に先んじて強大な魔法を生み出すべく、戦闘魔法の研究・開発に鎬を削り始めた。その結果、火や水を始めとする属性魔法と、それらを基軸とする無数の攻撃魔法が生み出され、後世に魔法研究の黄金期と呼ばれる一時代を築き上げた。但し、その輝かしい時代の影は赤黒い血で染まっていると非難する者も少なくはないが。

 そして黄金期の末期には人理をも覆す禁忌魔法が幾つか編み出され、その中の一つに暗黒魔法が存在した。

 暗黒魔法は効果範囲が広い上に威力も絶大と究極の魔法を目指したような力を有する反面扱いが難しく、大地を腐らせ、空気を穢し、水を死に満たすという逸話を残すほど厄介極まりないな副作用もあった。最悪、術者自身に害を及ぼすモノもあったそうだ。

 その後も暗黒魔法は人間同士の戦争で使われていたが、黄金期を経て停滞期に突入した頃には目ぼしい戦争は粗方終結に向かい、代わりに紛争や内紛と言った戦場の規模を国内に縮小させた内戦へと移り変わりつつあった。

 流石に環境面での弊害が懸念される暗黒魔法を含めた禁忌魔法を国内で使用する訳にもいかず、また制限が多くて使い勝手が悪いという欠点も禁忌魔法の生き残る道を狭めたと言えよう。

 結局、強大であっても使い所を失った禁忌魔法は存在する意義をも失ったも同然であり、下手に敵の手に渡らぬよう厳重な封印が施され、今日に至る長い年月を刻み続けている間に人々の記憶から風化されるという恐竜の絶滅を彷彿とさせる運命を辿ったのであった。

 因みに私達が居る国――ラブロス王国――では建国と同時に禁忌魔法の類は一切禁じられており、王都の何処かに封印されているらしいが、これは一般人の間で勝手に広まった都市伝説みたいなものであり信憑性は薄いとの事だ。

 兎に角、暗黒魔法を使う国なんて何処にも無いと思われていた。ところが、私の記憶に残っている黒ローブの男達はソレを使っている。しかも、遥か昔に言われていた欠点を克服する形でだ。


「まさか、暗黒魔法の研究を続けていた輩が居ようとは……。しかも、その魔法を御目に掛かる日が来ようとは思わなんだ」

「けれど、そんなヤバい魔法を扱う奴等は何者なんや? それに何で姫さんの村を襲ったんや?」


 その疑問に対し分からないとバルドーが律儀に答えようと口を開き掛けた時、黒ローブの男が『その子を渡せ』と告げた場面に映像が切り替わった。余りのタイミングの良さに私を含めた全員が一瞬面食らったような顔を浮かべるも、すぐに事の深刻さを物語る真剣味を帯びた眼差しへと変わった。


「連中の狙いは姫さん只一人か……。しかも、目撃者や関係者を一人残らず徹底的に始末しようとしたのは、この一件が外に漏れんよう秘匿を試みたんやろうな。せやけど、それが失敗したとなれば次に打つ手は当然……」

「うむ、唯一の目撃者であり本来の標的でもある彼女を追い掛けてくるに違いあるまい。連中の目的は何なのかは分からんが、心当たりが無い訳ではない」

「姫さんの魔力……やな?」


 恐らく、全員がヤクトと同じ答えに辿り着いたに違いない。寧ろ、思い当たる節と言えばソレ以外にない。

 だが、ヤクトは確信めいた台詞に敢えて間を作り、二文字の単語を付け加えて疑問形に置き換えた。確証が無いからか、それとも他人の意見も聞きたいが為なのか?

 疑問を投げ掛けられたヨルドーはアクリルの居るログハウスへ視線をチラリと注いだ後、同意する様に重々しく頷いた。


「話に聞くところによれば、彼女の魔力は極めて膨大だと聞く。可能生は十分に有り得るだろう。だとすれば益々厄介な事になるぞ。こんな厄介な連中に狙われていては、彼女を守り切るのは困難だ……」


 長い髭を撫でながら良案を捻り出そうと熟考するも、思考を巡らせば巡らすほど袋小路に入って行ってしまうのかヨルドーの表情は険しくなる一方だ。すると物は試しと言わんばかりにヤクトが提案を述べた。


「この村で隠すっちゅーのはどうなん? 要は見付からなきゃええんやろ?」

「それは無理だ。パラッシュ村とダモン村の関係は深く、真っ先に黒衣の連中が探るとしたら間違いなく此処だ。かと言って無関係な村で匿おうとすれば、事情を話さなくてはならない。しかし、アクリルさんの身に起こった出来事と事情を知って親身になってくれるとは思えんがな」

「あー、村同士の交流関係の深さがヒントに成り得るっちゅー訳かいな。そりゃ十分に有り得るわなぁ。それに安全が確保される前に襲われる可能性も大やしな……」

「ナイツに守って貰うにしても、王族や重要人物ではない彼女相手に本気で守護して貰えるかも怪しいものだ。ヤクト殿のように傭兵を雇おうものならば無償ではいかない。ましてや腕利きとなれば……」


 その後も私の頭上でアクリルの今後に付いての遣り取りが交わされたが、結局結論を出せないまま夜を迎えるのであった。

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