第7話 仁義無き共食い
シェルに進化してから二週間余りが経過し、その間にギャピターを倒しては捕食するを繰り返していたらレベルが6まで上がった。リトルシェルの頃に比べるとレベルの上がるスピードは大分落ちたが、物足りないという贅沢な考えを持てる程度にまで強くなれたのは喜ばしい事だ。無論、遥かに各上のモンスターと戦うのは勘弁ですけどね。
因みにレベル5に上がったのを機に【浄化】というスキルを手に入れて、『まさかラノベ主人公特有の聖魔法キタコレ!?』と一瞬舞い上がり――
【浄化:汚染された水や海水を体内に取り込み、真水に変える能力】
――ステータスの説明文を読んでガクリと肩を落とした。そっちの浄化かよ。糠喜びをしてしまったじゃないか。これはあれか? 汚水や下水の中でも水を確保出来る上に生息も可能ですよというフラグだろうか? 流石にそれだけは勘弁願いたい。
新たなスキルに落胆は隠せないものの、その代わり泡魔法や水魔法の研究をチマチマしていたら、幾つかの技を会得した。
新たに手に入った泡魔法は【バブルバリア】と呼ばれるもので、これは自信を泡に閉じ込めて、外敵の攻撃を弾き返すというものだ。ギャピターの体当たり(高速魔法付き)も余裕で弾き返せるだけの弾力を持っており、今後強化したら便利になりそうだ。
そして水魔法に関してだが、こちらが豊作だった。水風船のように水の塊を飛ばす【ウォーターバルーン】、マシンガンのように小さい水鉄砲を小まめに発射する【ウォーターマシンガン】、近距離戦で威力を発揮しそうな【ウォーターショットガン】、そして念願の【ウォーターカッター】だ。
カッターは現世にあった直線的なレーザー状のものではなく、丸鋸みたいな円盤状のものとなった。レーザー状にならなかったのは私の技術不足か、それとも想像力不足なのか。だが、円盤状でも岩を切り裂けるだけの十分な威力を持っているので不満はない。寧ろ満足している。
他にもウォーターキャノンやウォーターボムとか名前こそ浮かぶものの、どうやって攻撃技という形にしようかが思い浮かばず、保留にしたものもある。もし今後閃きを得たら、実践して獲得したいものである。
それと私の傍である変化が起こり始めた。仲間の稚貝達がチラホラとだが、シェルに進化し始めたのだ。私と同じ姿へと進化する仲間達を見て、私もホッと胸を撫で下ろした。この進化によって仲間達が強くなり、どんな強敵に襲われても一致団結し合って立ち向かえるかもしれない! そう私は確信していた。
バクンッ バクンッ バクンッ
――進化した同族が、進化していない同族を共食いしている場面を見るまでは。
えっ、ちょっと待って。何この状況怖過ぎなんですけど。何でシェルがリトルシェルを喰っているんですかねぇ? 少し前まで同じ境遇を生きた仲間じゃなかったんですか? こんな時は教えて下さい、鑑定スキルさぁーん!!
【シェル:海底に生息する大型の魔貝。階級は低い。堅牢な貝殻は並の魔獣でも噛み砕けぬ程に硬く、それ故に人間達の間では防具や盾として重宝されている。
≪中略≫
またシェルは進化した直後にリトルシェルを食らうという習性がある。これは今後の生存競争でライバルとなる同族を蹴落とす為だとも、新天地へ目指す為に必要となる体力を始めとする自分のステータスを底上げする為とも考えられている】
あー、成程。過酷な自然界あるあるですな。確かに私達が居た世界でも先に卵から孵化した雛鳥が、孵化していない卵を巣から蹴り落すとかあるしなぁー。こっちの場合は生存競争のライバル減らしと新天地を目指す為の腹ごしらえという意味合いが強いけど。
じゃあ、リトルシェルを喰わずにギャピターばっかり食べていた私はある意味で異端児だったのか。まぁ、シェルの習性なんて知ったこっちゃないしね。
しかし、新天地か。何れ大きくなったら深海から別の場所へ移動するんじゃないだろうかと思っていたけど、遂にその時が来てしまったという感じだなぁ。だけど、今更リトルシェルを食らうのも何かなー。食べても大した腹の足しにもならないし、シェル達が新天地目指して出発したら同行していくだけで良いかな?
……おや、常時発動させているパッシブセンサーが背後から近付いてくる物体をキャッチしたぞ。くるりと振り返ると、そこにはモリモリと稚貝を食らう
わぁ、食欲旺盛でございますね。そんな感じに生暖かい視線を向けていると、相手の視線がこっちに向けられた。いや、貝の視線なんて分からないけど、何となく正面のヤツに見られている気がする。それと同時に殺気やら敵意やら食欲やら、様々な感情が此方に注がれているような気もしないでもない。
気のせいかなー? 気のせいですよねー? そんな事を思っていたら、目の前のシェルは俺に向かって針を突き出してきた。それも黒味掛かった紫を纏った毒針をだ。針が届く寸前で後ろへ飛び下がり無傷で済ませたものの、突然の仲間からの攻撃に怒りを覚えた。
「こいつ! 急に何をしやがる!?」
私の言葉に相手が応えてくれる筈も無いが、今の攻撃と向こうの雰囲気で友好関係は築けそうにないと悟った。どうやらシェルが狙うのは、格下のリトルシェルだけでは無さそうだ。くそ、旅立ちの前に同族と戦い合うなんて厄介この上ないぜ。
自分を襲ってきたシェルとの対決姿勢を固めると、相手はジェット噴射で接近するのと同時に針を繰り出した。今度は青味掛かった緑色の麻痺針だ。それを自慢の貝殻で防ぎ、相手が針を引っ込める隙を見計らって此方も麻痺針を突き出すが、今度は逆に向こうの貝殻に阻まれてしまう。
うーん、同じ特徴を持つ者同士では決定打に欠けるな。同じ針では分が悪い。となれば、水魔法やスキルが勝負の行方を握る鍵となるに違いない。
早速遊泳スキルを使って、水中にフワリと浮き上がる。これは魚みたいに泳げるスキルで、ジェット噴射と併用すれば水中での機動力を更に高めてくれる。
上昇した私を見て、敵対していたシェルが後追うように浮上してくる。どうやら向こうも遊泳スキル持ちみたいだ。ある程度の高さまで上昇した所で硬い殻を閉ざして、面と向かって突撃した。
向こうも突撃してきた私を見て慌てて殻を閉じる。直後、殻と殻が激しくぶつかり合い、固い衝突音が深海中に響き渡る。
【攻撃技:体当たりを会得しました】
ああ、そう言えば体当たりを実践していなかったね。攻撃技が増えるのは有難いが、動きの遅いシェルで体当たりを使う場面が今後あるかどうかも疑わしいものだ。
そんな疑問はさて置いて、シェル同士が体当たりした結果、私は体当たりに競り勝って直進し、向こうは弾かれたコマのように大きく距離を置いた。やはり進化したてと進化してレベルを上げた私とでは、ステータスの差は如何せんともし難いものらしい。
その後何度か体当たりを敢行すると、相手の貝殻に蜘蛛の巣状の罅が幾つか入り始めた。よし、この調子で殻をブチ壊してやる! そう意気込んで今まで以上の力で体当たりを敢行し、見事相手に命中した―――が、既に半壊寸前の殻は割れず、逆に此方が弾かれてしまう。
一体何が起こったのか分からず、強烈な困惑と動揺が一瞬全身を駆け巡ったが、直ぐに相手のシェルの身体が黄土色のオーラに包まれているのに気付いた。まさか【硬化】を使ったのか!? しまった、あのスキルならば防御を助けてくれる上に、体当たりで大きなアドバンテージとなるのは明白だ。
此方も相手に倣って【硬化】を使おうとしたが、相手の反撃の方が一足早かった。硬化を纏ったシェルの体当たりをもろに食らい、深海の底に叩き付けられてしまう。今さっきまで無傷だった自分の貝殻に罅が入り、先程までの優勢が嘘のようだ。
そして深海の底でぐったりとする私に向かって、シェルがトドメの体当たりを仕掛けてきた。みるみると距離が縮み、相手の貝殻が目前にまで迫って来た。だが、それこそが私の狙っていた
「今だ!」
目測とセンサーで距離を測り、ギリギリの所で私は遊泳とジェット噴射のスキルを使って急上昇した。直後に私が居た場所に標的を見失ったシェルが激突し、海底の土砂が宙に舞い上がる。
砂埃がゆっくりと治まる中で視線を下に向けると、そこには貝殻の半分を深海の地面に埋めた(もしくは突き刺した)状態で身動きが取れなくなっていたシェルの無様な姿があった。貝殻に纏っていた硬化のオーラが無くなっている所からして、効果は切れたみたいだ。
それでも身動きが取れないままではヤバいと悟って、土潜りで窮地を乗り切ようとしているみたいだが……そう簡単に逃がす訳がなかろうが! 間抜けがぁ!!
「泡爆弾! 起爆!」
密かに私の居た場所に設置しておいた複数の泡爆弾を一斉に起爆させると、風船の破裂にも似た爆発音と共に、再び土砂が舞い上がる。その土砂と一緒に宙に持ち上げられたシェルの貝殻は粉々に破壊され、海底へと沈んでいく姿はまるでスノードーム内で舞い落ちていく銀箔のようだ。
地面に落下したシェルは既に瀕死の状態だった。身を守る為の貝殻は上下ともに破壊され、無防備な本体が剥き出しになっている。それでも尚生きようとする意思があるのか、毒針を出して此方の出方を警戒している。
悪いけど、既に勝負は着いたも同然だ。そして喧嘩を売ってきたのはソッチなのだから、恨むのなら相手の力量を弁えず無闇に勝負を挑んだ自分の迂闊さを恨むんだな。
だけど、相手が死に体だからと言って、態々近付いてうっかり毒針に刺されるなんてオチは嫌だ。万が一の事を考えて、此処は安全な中距離からの攻撃で仕留めるとしよう。
そこで選ばれたのは、最近会得した水魔法【ウォーターマシンガン】。貝の隙間から覗かせた触手の先端を相手に向け、そこから細かい水弾をバラ撒くように只管乱射!
……うん、ちょっとやり過ぎました。本体がプーカ並の柔らかさという事もあって、あっという間にハチの巣となって息絶えました。ミンチとまではいかなかったものの、もう少し威力を抑えても良かったかもしれない。
【経験値が規定数値に達しました。レベルがアップして7になりました。各種ステータスが向上しました】
【戦闘ボーナス発動:各ステータスの数値が通常よりも多めに上昇します】
【特殊スキル:自己修復を獲得しました】
あっ、レベルが上がったや。しかも、戦闘ボーナス付きな上に新スキルまで獲得したぞ。新天地に向けてステータスを向上させる必要があるので、これはこれで嬉しい事だ。ついでに倒したシェルの残骸も食べておこう。命を奪うだけで何もしないのは、自然界の中ではタブーだからね。では、頂きます。
ずるずるずる……ばくんっ
【同族を捕食しました。同族が持つ経験値が貴方の経験値に付与されました】
【捕食によってレベルがアップして8になりました。各種ステータスが向上しました】
【初共食いボーナス:レベルがアップして9になりました。各種ステータスが向上しました】
【特殊スキル:共食いを獲得しました】
【攻撃技:溶解針を獲得しました】
うお!? 何か一気に上がったぞ!? レベルが上がったり新しい技が手に入ったりしたのは喜ばしい事だけど、【共食い】とかいう恐ろしいスキルに目が行ってしまう。これ、同族は食わん方が良かったのだろうか……?
ま、まぁ今となっては後の祭りだ。このスキルが良い方向に働くことを祈るしかないね。あはははは……。
【名前】貝原 守
【種族】シェル
【レベル】9
【体力】1520
【攻撃力】132
【防御力】252
【速度】60
【魔力】132
【スキル】鑑定・自己視・ジェット噴射・暗視・ソニックセンサー・ソナー(パッシブソナー)・土潜り・硬化・遊泳・浄化・共食い・自己修復
【攻撃技】麻痺針・毒針・溶解針・体当たり
【魔法】泡魔法(泡爆弾・バブルチェーン・バブルバリア)・水魔法(ウォーターバルーン・ウォーターマシンガン・ウォーターショットガン・ウォーターカッター)
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