第6話 貝原、進化するってよ

【進化規定値に到達しました。シェルに進化可能です】

 

 進化、それは生物が発展する上で欠かせない重要な要素。

 進化、それは古き時代から新たな時代への発展を意味する象徴。

 進化、それは古き己から新しき己へと生まれ変わる瞬間。


 遂に! この時が! やって来た! 何と! 進化! しちゃいます!

 何時までリトルの姿で居るのかと不安で仕方が無かったけど、遂にそれからおさらばの時が来たのです!! まぁ、進化すると言っても、リトルが外れるだけだし期待値は低いかなぁ。ちょーっとばかし図体が大きくなりました程度の進化だと、逆にガッカリしそうだし。

 ステータスで色々と弄ってはみたけど、他に進化候補があるかは調べられないみたいだ。もしくは進化先がシェルだけなのか。どちらにせよ自分の置かれた苦境を乗り越えるには、早々に進化した方が良さそうだ。

「おっと、そうだ。念の為にステータスを確認してみよう」


【名前】貝原 守

【種族】リトルシェル

【レベル】13

【体力】650

【攻撃力】53

【防御力】122

【速度】21

【魔力】53

【スキル】鑑定・自己視・ジェット噴射・暗視・ソナー(パッシブソナー)・砂潜り・硬化・遊泳

【攻撃技】麻痺針・毒針

【魔法】泡魔法(泡爆弾・バブルチェーン)・水魔法


 おおおお、かなり強くなったなあ。そして防御力が3桁に突入。頑丈さでは群を抜いているのに対し、相変わらずの速度の低さには苦笑いしか浮かばない。

 そして獲得した技やスキルや魔法もかなり手に入ったなぁ。防御スキルの硬化は文字通りだろうし、海中内の移動で役立ちそうな遊泳も手に入った。派生したパッシブソナーはまだ良く分かっていないが、後々調べよう。

 そして攻撃技も毒針と水魔法が追加されて、これで私の発想力が加われば、もっと強力な技を開発出来るかもしれない。ウォーターカッターやウォーターバルーンは絶対会得したいところである。

 では、期待と妄想を程々に膨らませたところで早速進化とやらを体験してみるとしよう。


【シェルに進化しますか? →はい いいえ】


 内心で「はい」と選択すると、ステータス画面がスッと消えた。何が始まるのかと期待していると、目の前が白い光に満たされた。眩くはない、只々視界を埋め尽くすだけの圧倒的な白の暴力。

 

【現在進化中、暫くお待ちください】

【進化中……20%】


 白い世界の中でも相変わらず働くステータスの文字を見て、ちょっと笑いそうになったが一方で進化が時間の掛かるものだと知って不安を覚えた。もしも進化中に先程のギャピターみたいな天敵に襲われたりでもしたら、それこそ一巻の終わりだ。


【進化中……90%】

【進化中……100%】

【進化が完了しました。視界が元に戻ります】


 進化が終了すると目の前を埋め尽くしていた白い光のトンネルが終わりを告げ、深海の風景が視界に広がった。まるでSF映画にある、ワープ空間から実空間に戻って来るアレみたいだ。


「終わった……のか?」


 進化が完了するまで約2分掛かるか掛からないかぐらいの時間が経過していたかのような気もするが、もしかしたらアレは一瞬の出来事だったのかもしれない。どちらにせよ、それを確かめる術は無いが。


「さてと、どんな姿になったかを見てみよう。自己視、発動」


 自分の視界の映像が身体から飛び出し、頭上から見下ろす姿へと切り替わる。うーん、見た目は然程変わっていない気がするなぁ。ちょっと貝殻の厚みが増したぐらいかな? まぁ、リトルシェルから普通のシェルに進化したぐらいなんだから、そんな顕著な違いがある訳―――ん?


「あれ? え? これって……嘘でしょ!?」


 顕著な違いがある訳ないとばかり思っていたけど、近くに居たリトルシェルと自分とを対比させてみた結果、ミドリガメとゾウガメぐらいの図体差があった。但し、ゾウガメと言っても室内で飼える方ではなく、ガラパゴス諸島に生息している方だ。

 何この大きさ。もしかして一段飛びでビッグシェルに進化してたりしないよね? 取り敢えず、こういう時はステータス確認をしてみるのが一番だ。


【初進化ボーナス:レベルがアップして2になりました。各種ステータスが向上しました】

【特殊スキル:砂潜りが土潜りに発展しました】


【名前】貝原 守

【種族】シェル

【レベル】1→2

【体力】800→880

【攻撃力】80→85

【防御力】160→170

【速度】40→42

【魔力】80→85

【スキル】鑑定・自己視・ジェット噴射・暗視・ソナー(パッシブソナー)・土潜り・硬化・遊泳

【攻撃技】麻痺針・毒針

【魔法】泡魔法(泡爆弾・バブルチェーン)・水魔法


 おおー、かなり大幅強化されたな。それに普通にレベルが上がるだけでも、戦闘ボーナスが付いた時と同じ数値がプラスされている。そして体力と防御力の上がり具合が半端ない。

 これで更に戦闘ボーナスがプラスされれば、かなり強くなっちゃうんじゃね? うん、この過酷な世界で生き抜ける希望が見えて来たぞ。

 さて、話は戻るが種族名を見る限り、やはりシェルで間違いないようだ。しかし、リトルが外れただけで、この図体の大きさがデフォとなるのかぁ。もしかしたら、ここで進化が打ち止めという可能性も無きしも非ず……かも?


「ステータスで進化先を確認したいけど、それも無いんだよなぁ。こればかりは教えられませんって事か?」


 仮に進化先が見れたとしても、この調子で進化を目指すかどうかはまた別なんですけどね。貝の魔物の進化なんて多寡が知れているかもしれませんけど……。

 あっ、そうだ。このシェルがどれくらい強いのか試してみよう。相手は言わずもがな前回苦戦したギャピターだ。今の自分の数値ならば、然程苦労せずに討伐出来る筈だ。まぁ、それも相手のレベル次第だけど。

 早速手に入れたパッシブソナーとやらを発動してみるとしよう。パッシブソナー、発動!……ふむ、これは近くに居る生物の音に反応するセンサーみたいだ。どちらかと言うと探索用よりも警戒用として使った方が良いかもしれない。

 新しいセンサーの使い所も覚えたところで、ソナーで見付けたギャピターの居る方角へ向かう事にしよう。図体が大きいので少し遠近感に違和感があるが、追々慣れてくるだろう。



 さて、ソナーで発見したギャピターとどう戦おうか。かなり図体が大きくなったから、正面からぶつかっても負けない……よね? それでは早速カチ込みじゃー!

 ……あれ? 此方から近付いた途端に尻尾を巻いて逃げちゃったぞ? 前回は意気揚々とリトルシェルをバリバリ食ってたのに。いや、今じゃもうシェルだから興味を無くしたのか?

 うーん、これじゃ自分がどれくらい強くなったか腕試しが出来ないな。どうしようか……あっ、そうだ。土潜りのスキルを使ってみよう。前までは表面に覆い被さった砂を潜るので精一杯だったけど、今ならソレを使って地面の中を掘り進めるかもしれない。

 早速土潜りのスキルを発動して勢いよく地面に飛び込むと、まるでプリンを掻き分けるかのように楽々と地面を掘り進む事が出来た。時々目に当たる感覚器官を外に出し、周囲の様子を窺いながら再び潜行する。まるで潜水艦になった気分だ。既に此処が水中ですけどねというツッコミは聞かない事にしておく。

 そして悠々と泳ぐギャピターの真下に辿り着き、私は土中で攻撃準備に入った。今回は新たに手に入った毒針を試してみよう。身体を痺れさせるだけの麻痺針と違い、命を脅かす毒を含んだ危険な攻撃技だが、その威力は如何に……。


「いざ……勝負!」


 土中から飛び出すのと同時に、無防備に晒されたギャピターの腹部に毒針を突き刺した。進化に合わせて竹槍のように巨大化した針がギャピターを貫き、ギャピターは突然襲い掛かった激痛に身を捩らせる。必死に暴れて刺さった針を抜こうとするが、そうは問屋が卸さない。


「泡魔法【バブルチェーン】」


 連鎖した細かい泡がギャピターの身体に何重にも巻き付き、抵抗出来ないよう動きを束縛する。身動きが取れなくなった上に毒針から毒を注がれ続けるという生き地獄に、ギャピターも意識が朦朧とし始めたのか目の焦点が何処か覚束なくなりつつある。

 流石にこれ以上甚振るのは可哀想なので、トドメと言わんばかりに別角度から毒針を突き刺すと、その一撃が致命傷となったらしくギャピターはクタリと力尽きた。

 ……昨日の命懸けのバトルと比べると呆気ない程にあっさりと終わってしまったんですけど。いや、進化したからこそ楽に狩れたと言うべきか。どちらにせよ、進化の恩恵が此処まで大きいとは予想外だった。

 早速仕留めたギャピターを実食しよう。身体が小さかった頃が山のような御馳走に見たが、今じゃちょっぴり大きい魚程度だ。身体が大きくなったのは良い事だが、果たしてコレだけで腹が満たされるかが不安だな。

 では、実食。捕食舌を伸ばしーの、獲物に張り付けーの、引き摺り寄せーの……んでもってゴックンとな。

 ……おいおい、マジかよ。あのデカいギャピターを丸飲みしちまったぜ。最初は少しずつ身を千切りながら食っていたと言うのに、こんな呆気なく終わっちまうだなんて予想外だ。まぁ、案の定、胃袋は物足りなさを訴えていますけどね。

 でも、またギャピターを食したいと思える程の自信と食欲を身に着けた。この調子で過酷な異世界を生き延びてみせるぞー!!

 因みにギャピター一匹だけではレベルが上がらず、二匹目を倒して漸くレベルが上がった。


【名前】貝原 守

【種族】シェル

【レベル】2→3

【体力】880→980(+100)

【攻撃力】85→93(+8)

【防御力】170→183(+13)

【速度】42→45(+3)

【魔力】85→93(+8)

【スキル】鑑定・自己視・ジェット噴射・暗視・ソナー(パッシブソナー)・土潜り・硬化・遊泳

【攻撃技】麻痺針・毒針

【魔法】泡魔法(バブルボム・バブルチェーン)・水魔法

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