第11話 クラス目標


 ドッチボール大会を境に、他のクラスや先生のB組を見る目が少しずつ変わっていった。

 

 そんな中、道徳の授業で谷岡は黒板に大きな字で『クラス目標』と書く。


 「今日は皆さんに、クラス目標を決めてもらいます」


 谷岡の言葉に、クラスの全員がため息をこぼす。

 

 「去年やりましたー。クラス変わってないんですけどー」


 早水の言葉に、谷岡はニッコリと笑い返す。


 「クラスは変わってなくても、学年は変わってます。それに、去年の君たちの目標である『誠実』は、担任が決めたものだと聞いています。僕は、皆さんに決めて欲しいのです」


 「なんで今なんだよ〜! そういうのは、四月の一番最初にやるもんだろー」と森本が欠伸をしながら言った。


 「そうしようと思っていたのですが、ドッチボール大会があると聞いたので。みなさんが団結力を高めた時に決めようと思いました」


 谷岡は手を二回叩く。


 「この時間を全て使って構いません。皆さん全員が納得するクラス目標を決めてください」


 ニッコリ笑った谷岡に、クラスの全員が笑顔を見せる。クラス委員の清水川亮太しみずがわりょうた日向夏海ひゅうがなつみが前へと出た。清水川が「じゃあ、誰か案ある人ー」と声をかけるが、誰も手をあげない。


 「案っていってもなー」


 「そうそう、今まで勝手に決められてきたのに、思いつかないよー」


 森本と早水がそう文句を言うと、谷岡が「では、ヒントです」と言葉をかける。

 

 「皆さんがこの一年、どうなりたいか、どう過ごしたいかを、考えてください。それが『クラス目標』というものですよ」


 谷岡の言葉に、清水川が「んー」と腕を組む。


 「日向、なんかあるー?」


 「うーーーーん。あ、たまにさ、ドラマとかでのクラス目標は、生徒の名前入れたりとかするよね。全員のアルファベットの頭文字を使って〜とか」


 日向の言葉に、「考えるのめんど」と一人の男子が返す。すると、一人の女子が手を挙げた。


 「じゃあさ、先生の名前を入れたら?」


 全員がその言葉に耳を傾けた。


 「ドッチ大会でも、先生活躍したしさ」


 「いいかもな、それ」


 「先生の名前って、谷岡……」


 「道だよ、道。谷岡道」


 「じゃあ、『道をつくる』とか!」


 「いいね! 谷岡先生も、言ってたじゃん! 『自分は先生になりにきました』って! 私達が先生にしてあげるって意味も込めてさ!」


 「じゃあ、『道をつくる』に異議のある人ー!」


 その言葉に手は挙がらず、谷岡が小さく吹き出す音が響いた。

 

 「まさか、こんなに早く決まるとは思いませんでした。優秀です。では、今週までに大きな紙を用意しときます。今日の授業はここまで」


 谷岡の言葉に『はーい』と、全員が満足気に笑った。






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

せんせい 柿種 瑞季 @kakitaneai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ