◾︎幕間と幕間の狭間の物語に

幕間 タッタロス4.5

 王は激怒した。姫が懐妊したのだ。精霊を崇拝するその国は一切の殺生を認めず、虫一匹すら駆除しない国民性が故、堕胎や死罪の概念もなかった。姫は幽閉され生まれた赤子は奪われた。


 それはまだ千年魔王が世界を蹂躙していた頃。数多の国が魔王の軍勢に敗れ滅亡していた頃。


 程なくしてついにその国にも魔王の軍勢が攻めてきた。一切の殺生をしない、その思想は戦争の放棄を意味する。戦わずして降伏。王は魔王に姫を献上した。生贄を承諾した魔王はしかし、さらに条件を加える。


「魔王様はあの女の産んだガキを差し出すよう命じられた。これに応えられなければこの国は潰す」


 非情な魔人がせせら笑う。千年魔王の命は絶対。国の存亡がかかっていた。


 王は大魔導師とその弟子たちに命運を託した。


 国の地下深く。そこには魔属に知られてはならない聖域があった。魔属が欲しがるであろう魔力溜りだ。精霊国はこの聖域の守り人であった。魔力を遮断する黒輝石に囲まれた地盤によってその存在を隠している。魔力耐性のない人間が足を踏み入れたならばたちまち魔障により身を滅ぼすであろう場所。聖域タッタロス。国の重罪人が落とされる地獄。死罪はなくともほぼ同義。


「大魔導師様。姫様のお産みになったお子はタッタロスに送られたと聞きます」

「我ら魔導士ですら命を落としかねないほどの魔力が満ちて」

「生きて帰ったものなどおりますまい」


「罪なき子をタッタロスに放った時点で。この国は滅ぶ運命だった」


 大魔導師たちは悲痛の面持ちでタッタロスを旅した。赤子の亡骸を探す旅だった。しかし結果は彼らが思い描くものとは違っていた。そこに居たのは枯れ木のように成長した幼子だった。生きていた。いや、それを人間と呼べるのか最早異形。だがしかし存在した。


 おぞましいことに国は存続が認められた。


 ここから。長い年月をかけてこの国の懺悔が始まる。呪いを受け止める覚悟だった。


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