幕間


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[幕間②]§ 遠い昔のお話/魔王と従者 §

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 ミゼラドの誇り高き王子は勇者として魔王を屠った。残されたのはたくさんの骸。辺りに無数の白骨がそのままの姿で晒されている。魔王を退治に来て返り討ちにあった者もいれば、勇者に敗れ死した魔王もいる。



 魔王を倒した瞬間から、ミゼラドの王子は最早勇者ではなかったが。魔王の初仕事としてすべての白骨を埋葬した。ひとつひとつ穴を掘り、古い骨がそれ以上崩れてしまわぬよう丁寧に扱って。すべての魂に祷りを捧げた。



「魔王様。貴方のしもべ、ユーヴィと申します」



 いつの間にいたのか、一体の魔人がそう声を掛けてきたのだ。驚いたが、表情は変わらなかった。



「しもべ?」


「そうです。我らすべての魔属は魔王様のしもべ」



 魔属は、魔物や魔人などの総称だ。‐悪魔に属する‐魔属に、魔王は含まれない。



 思えばおかしなものだ。魔王は魔属に非ず、人間だ。人間でありながら人間ではない、何とも不思議な存在なのだ。鼓動をやめてしまった胸が、冷たく冷えても動く肉体が、何とも不気味で不可解だった。



「魔王様のお身体は今暫く生まれ変わる準備をしておられることでしょう。慣れないこともおありでしょうがご心配には及びません」



 一度この身を魔王に落としてしまったのならば、今更心配などしても手遅れというもの。褪めた視線を魔人ユーヴィに送る。それにしても慣れないものだ、自分が魔王と呼ばれるとは。



「魔王……魔王か、」



 未だに実感が涌かない手を握りしめてみる。体が生まれ変わるとは何なのかわからないが、人間ではない何かへ変化しているのはわかる。



「魔王は何をすればいい?」


「人間どもを討ち滅ぼすのです」



 最後の悪魔がかけた呪い、――魔王は悪魔の代行者か。



(名ばかりの王とは、情けない)



「すぐ自ずとわかるでしょう、完全なる魔王として覚醒なされれば」



 ユーヴィの言葉は裏を返せば、今ならばまだ完全な魔王ではないと告げていた。



(魔王を滅するなら――これが唯一最高の好機か?)



 不完全な魔王。自身がこれを討てばもしかすると悲劇の連鎖は終わるかもしれない。残された魔属はいずれ誰かが倒していってくれるだろう。



「フフ、」



 微かに漏れた笑い声にユーヴィは違和感を覚えた。勇者が魔王へ転生する際、人は誰しも嘆き哀しむものだと思っていた。


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