合同クエスト
「クラウ様、クラウ様」
キャッキャとまとわりつく少女にクラウは正直ウンザリしていた。見た目は華やかで可愛い、そんな子になつかれているのだから傍目には羨ましくも思われるかもしれない。が、クラウはこれまで一人で行動してきた為に他人に対してどう接していいかわからないフシがある。加えてどうだ、明らかに不機嫌なティアと無表情になってしまったキルが無言で何かを告げてくる。果てしなく気が重い。
ジト目。まるでクラウが悪いかのように責め立ててくる二人の視線も大概だが、キンキンとした声で質問攻めにしてくる少女は正直ウザい。
被害者はどちらかといえばクラウなのだ。助けてくれとは言わないまでも責められる謂れはない。そう自負した。
だからこそいつも以上により一層の仏頂面だというのに、この少女はお構い無しに絡んでくる。グイグイくる。
「クラウ様にお会いできてリベア感激です! エビルバスターやってて良かったぁ☆」
ほんのり頬を染めた少女リベアがクラウの二の腕を掴んで離さないままうっとりと頬擦りをしてきた。そんな荷物をぶら下げていては非常に歩き難い。リベアは身長も低く歩幅もないので歩く速度があわない。
(――疲れる!)
心底思ったが、振り払っても振り払っても振り払ってもくっついてくるリベアを振り払うことに既に疲れきっていた。
リベアはユーラドットのエビルバスター、つまりは現在唯一消息の掴めるその人だ。まだ子供、とクラウ達でさえ思うようないでたちだがこれでも魔物と戦うだけの力を持つ魔法の使い手らしい。
「リベアぁずっと一人だったんですぅ。クラウ様が来てくれて嬉しい、お兄様って呼んでもいいですかぁ?」
無視! クラウはリベアをシカトした。
「残念だったですねー、そこで鼻の下伸ばしてるクラウお兄様は私の婚約者なんですよーリベアちゃん」
ティアが笑顔で毒を吐いたのでクラウはすかさずそれにはツッコミを入れた。
「鼻の下なんか伸ばしてない」
「えー、リベアショックぅ。あ、でも勘違いしないでくださいねお姉様。リベア、お兄様と結婚する気はないですぅ」
「伸びてないなら証明してみせなさいよ」
「どうやってだよ」
「結婚しちゃうと色々めんどうなのでリベア愛人とかで満足なんですぅ」
「あなたがその子より私を大事にすればいいのよ」
「お前何いってんの? 最初から読み直せ、大事にしてやっただろ」
「それはそれはありがとうございますー。親切と愛情は別ですけどー」
無言でついていくキルはそんなカオスなやり取りから視線を逸らした。
(今日はいいお天気……)
「クラウ様、リベアのことも構ってくださいですぅ。ノーツッコミってことは愛人はありですかぁ?」
「ねえよ」
「いい加減離れなさいよ貴女」
こんな調子で四人は魔物の討伐に向かうことになっていた。
ターバに導かれ集会所に乗り込んだクラウは、その後の協議の結果エビルチェイサーたちの代わりに調査に赴くことになった。というのも、唯一のエビルバスターであるリベアが『手に負えない魔物がいる』と情報を持ち出したからだ。もし二人のエビルバスターがその魔物にやられていた場合、仮に接触しただけであっても何らかの痕跡が残っている可能性はある。リベアの実力は知れないが共同戦線で情報を持ち帰ることを優先し、可能ならば討伐までを視野にいれた作戦となる。
既にその魔物と接触しているリベアが指揮をとってもいいのだが、リベア本人の希望で彼女は補佐に回った。道案内さえしてくれればそれで問題ない。クラウは一人で戦うつもりでいるのだが。
(魔物の話はしないな――)
未だに何かをいがみ合うようなティアとリベアの一見穏やかな言い合いを聞き流し、クラウはリベアに視線だけを落とした。幼さの残る顔立ちだが、おそらく場数はそれなりに踏んだだろうことが見てとれた。自分が敵わなかった強敵の元へ向かうわりに随分落ち着いていることからさほど追い詰められもせず早めに撤退出来たか、
(あるいは)
戦いすらしなかったか。
対戦せず相手の力量を計る。それは他者との戦闘を見ていたか、よほど見るからに強い魔物だったか。
(仮にもエビルバスターが。魔物を前に戦わず傍観……考えにくいな。他に誰かいたならなおさらだ)
だがここユーラドットのエビルバスターが、クラウの思う今までのバスターと同じ感覚を持つかはわからない。
クラウは考えるのをやめた。
(敵を見ればおのずとわかる)
「クラウ様はどんなタイプがお好きですかぁ?」
戦いを前に随分と能天気だ。年相応といえばそうかもしれないが。少なくともクラウには、自然体で過ごせる時間はあまりなかったように思う。背伸びをして物分かりがよく優秀で強いように振る舞って来たはずだ。皆を安心させるために。
(やっぱりただのエビルバスターじゃ違うのは当然か。嫌になればいつでもやめられるんだからな)
冷ややかな感情が広がる。クラウには退路がない。産まれた時にはもう決まっていた。仮初めの身分は自分を慰めるための、云わば時間稼ぎだ。
無意識にクラウは自分の首元に手を伸ばしていた。
「クラウ様? どうかしましたかぁ?」
リベアに下から覗き込まれて漸く手を下ろした。
「何だか喉が渇いてきたね」
キルがにこやかに言う。喋り通しのティアとリベアはすぐに同調したが。ユーラドットの穏やかな気候は特に暑くも乾燥してもいない。クラウは喉の渇きなど感じていない。
にこりと微笑むキルにクラウは半笑いを返した。
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