幕間
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[幕間①]§ 遠い昔のお話/勇者と魔王 §
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美しく柔かな
先のミゼラド王、エデンは若く美しい女であったが歴代最強戦士とも言われていた。まだ姫であった当時、十二人の兄弟たちを打ち負かしたという話は有名である。このエデンには二人の王子がいた。エデンの兄弟の直子も王位継承権を持つが、目下最強となりうるのは二人の王子のいずれかだろうと謂われていた。継承権が与えられるのは齢十から三十までで、王の任期はおよそ二十年、最大で三十年である。
「母様はまだまだ若くお強いのですから、任期をあと十年のばされてはいかがですか」
十六歳になる王子が度々そのように進言したがエデンの答えは変わらなかった。
「隣国の姫を迎える準備が進んでいるのだ。お前か兄か、王位についたものの后として」
「王位は兄様に譲ります」
「それはならぬ。話し合いは不要だ。国民の前で決する」
隣国の姫と兄が恋仲であることを知っていた王子は兄と決闘する気にはなれず、かといってわざと負けることがエデンに悟られては恐ろしいことになりかねない。王子は本気を出して戦ったことがないことを常々エデンに指摘されていた。本気など出せばエデンをも超えると期待されていたのだ。
「戦いは嫌いではありません。でも誰かが苦しんだり悲しんだりするのは嫌いです。一体何のために戦うのですか」
王位を継ぐだけなら兄の器量でじゅうぶんだった。国民は兄の国政に満足するだろう。
「遠い異国に聞く、魔王なる存在。私はそれと戦います。――王位継承権を放棄します」
こうして王子は勇者になった。
魔王は魔物たちを従える王であり、世界を破滅へ導く存在であり、悪魔の遺志を継ぐ者だ。かつては勇者であり、魔王を倒したその人だった。
王子がたどり着いたそこにいたのは、まるで泣き虫の可哀想な魔王が一人。苦しくて悲しくてでも止まれない魔王が一人。魔王との本当の戦いは自身が魔王になってから始まるのだ。抗えず抗えず負け続けた元勇者が魔王の中で泣いていた。
悪い魔王を正義の名の下に成敗すると、悲劇の箱が開くシステム。勇者の仲間も家族も故郷も、誰も彼を救えない。
「私はミゼラドの王子、勇者です。君を助けに来ました」
魔王から彼を解放出来るのは勇者のみ。魔王を超える強さを持つ者。
「魔王は哀しい王なのですね。君たちのその苦しみを、これからは私が請け負います。私はミゼラドの誇り高き、強き王子。決して、誰にも、敗けはしません――未来永劫――」
王子はそう優しく微笑み魔王を屠った。
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