なぜウェブ小説のタイトルは長くなるのか

 一口にウェブ小説とはいっても、その内容は様々です。

 ですが、ヒットしている作品に注目すると、そのタイトルにはある特徴があることがわかります。

 それは、「タイトルで作品の面白さをわかりやすく提示していること」です。


 カクヨムから書籍化された作品を例に挙げてみましょう。


『誰にでもできる陰から助ける魔王討伐』

 これは魔王を倒す勇者のパーティーを支援する話なんだろうな、と予想できるタイトルです。

『おめでとう、俺は美少女に進化した』

 タイトルだけで女装男子の話であることがわかりますね。

『妹、分裂する』

 読んで字のごとく、妹が毎日分裂していくストーリーです。

『平安時代にタイムスリップしたら紫式部になってしまったようです』

 タイトル通り、平安時代にタイムスリップするお話。

『この勇者が俺TUEEEくせに慎重過ぎる』

 慎重過ぎる勇者があちこちで巻き起こす騒動を描いたコメディ。やはりタイトルだけで内容がわかります。


 これらの作品に比べて、一般書籍のタイトルはそれだけでは内容がわからないものが多くあります。有名どころのファンタジー作品を挙げてみると、


『グイン・サーガ』

『七王国の玉座』

『精霊の守り人』

『狼と香辛料』

『アルスラーン戦記』


 どれもそれぞれに惹きつけられるタイトルではありますが、タイトルだけからは内容はまではわかりません。


 なぜこのような差が生まれるかというと、これはウェブの作品はプロの書いたものほどに信頼がない、という弱点を抱えているからだと思います。

 プロの作品なら、読者はこれはきっと面白いのだろう、という期待を込めて読み始めるのでタイトルで内容まで説明する必要がありません。しかしウェブの作品ではまず作者はタイトルからどういう作品なのかをアピールする必要があるため、こうした長いタイトルの作品が多く出てくるのだと思います。


 つまり、ウェブの作品は内容が面白くても、内容をわかりやすく示してくれるタイトルでないために読者を逃してしまう、ということが起こり得ます。すでにタイトルから勝負が始まっているのです。


 タイトルの中に魔王、美少女、勇者といった言葉が例に挙げた作品では並んでいますが、これ以外にも「異世界」が入るタイトルも人気作には数多く見られます。テンプレ的な作品を好む読者からすれば、この時点で「これは自分に向けた作品だ」とひと目で理解することができます。

 逆にこうした言葉がタイトルに入っていないことで、埋もれてしまう作品も少なくないかもしれません。


 以前、ウェブでは文芸志向を強くするとかえって読まれなくなると考察しましたが、タイトルについても高級感を出すことである種の読者を逃してしまう可能性もあります。もっとも、カクヨムでは『蒼穹のアルトシエル』のようなタイトルの作品でも書籍化されているので、これは作風との兼ね合いも大事なのだと思います。

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