テンプレ異世界ものはなぜ流行るのか
創作界隈に身を置いていると、時折作者の方から異世界ものが強すぎる、という嘆きを聞くことがあります。この状況下では流行りに合わせないととても書籍化なんて望めない、こういうブームは早く終わってほしい、という声を聞くことも。
確かにカクヨムでも累計ランキングを見ていると、異世界ファンタジーのほとんどが異世界に転生や転移をし、何らかのスキルを授かって活躍する……といった内容のものです。
もちろん異世界ものの中でもバトルがメインのものからスローライフ系、内政、商店経営、モンスターに転生する、などなど色々なバリエーションがありますが、世界観自体は冒険者ギルドがあって戦士や魔法使いなどのジョブを持つ人達がモンスターを狩っていて……とほぼ共通しています。
異世界という大きな枠の中で、いくつかのサブジャンルがあるのです。
個人的には、ファンタジーというのは何を書いてもいいのだから、もっと独自の世界観を持つ作品があってもいいのでは?と思うこともあります。
私自身がこうしたテンプレ異世界ものからは外れる作品を好んでいるからです。
ですが、いざ書き手の側に回ってみると、オリジナルの世界を創るというのはそう簡単ではないことがわかってきます。
その世界にはどんな職業があり、どんな動物が生息しているのか?
生態系はどうなっていて、国家や行政の仕組みは?
どんな魔法体系が存在するのか?
こういうことを一から作るのはとても大変なのです。
それならば、すでに昔から存在しているテンプレ異世界の設定を借りればいいじゃないか、ということになります。
多くの人は子供の頃からファンタジーRPGの世界に慣れていて、エルフやドワーフと言われれば自然とビジュアルが頭に浮かびます。
冒険者ギルドと書いてあれば、「ああアレね」と納得できます。
つまり、テンプレ異世界の世界観は、書き手にとっても読み手にとっても優しいのです。
需要と供給がうまく噛み合い、それが今の異世界ものの隆盛を産んでいるのでしょう。
本当にオリジナリティの高い世界を創ると、まずその世界がどういう世界なのか、ということを理解させるために字数を割かなければいけなくなり、これが読者にとっては大きなストレスとなります。
これはプロの作品でも同様です。
冲方丁『ばいばい、アース』などは本当に他に類を見ないほどの独自の世界観を持った作品ですが、私はこの世界観に慣れるまでがかなり大変でした。
オリジナリティが欲しいと言いつつ、本当にオリジナルな作品が出てくると戸惑うのだから、読者とは本当に面倒な存在です。
なぜ異世界ファンタジーはどれもRPGのような世界観なのか?と訊くのは、なぜ時代劇は江戸時代を舞台としたものばかりなのか?と質問するようなものかもしれません。
多くの読者がそれを求めているし、作者も書きやすいからそうした作品が多く供給されてくるのです。
結果として、テンプレ異世界ものから外れる作品は、クオリティが高くても埋もれる可能性が高くなってしまいます。
現状、テンプレ異世界ものと非テンプレ作品とではすでに別ジャンル、と言えるくらいに両者の扱いは違うのではないかと考えます。
テンプレから外れることで、ここでもマイナスの地形効果が働いています。
テンプレ異世界ものを書いたから受けるとは限りませんが、以前書いたようにジャンルの選択は一次試験ですので、まずここを突破できない限りは評価される段階に至りません。
ここで落とされたくないので、多くの書き手がテンプレ異世界の物語を書くのだと思います。
多くの読者は作品に個性や独自性も求めていると思いますが、それは世界観レベルの根本的な部分に対してではなく、異世界という枠の中でのスパイス程度のものなのかもしれません。
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』が典型的なRPGの世界観を踏襲しつつ、「超凡人(ハイ・ノービス)」といった変わったジョブを出してくるように。
さて、テンプレ異世界ものといえば、主人公が転生したり転移してきたりするものがほとんどです。
次回では、なぜこれらのファンタジーでは主人公が現代人である必要があるのか?という点について考察してみたいと思います。
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