ジャンルという地形効果

 現在、ウェブでは異世界ファンタジーが隆盛を極めています。

 ここ、カクヨムでも累計ランキングを見てみると20位までは一作品をのぞいて全てが異世界ファンタジーで占められています。


 この傾向はオフラインでも同じようで、ある小説講座を主催している方が「なぜか皆ファンタジーを書きたがる。あそこは激戦区なのに」と首を傾げていました。

 しかし書き手の側から見れば、この理由は明らかです。

 レッドオーシャンであっても皆がファンタジーを書きたがるのは、結局そこに一番魚が多くいるからなのです。

 どんなに腕のいい釣り人でも、魚のいない釣り堀では何も釣りようがありません。


 逆に、カクヨムでジャンルの恩恵を全然受けられていないのは「歴史・時代・伝奇」です。それは、カクヨムコンテストでこのジャンルの作品が応募できないことからも明らかです。『イックーさん』のような作品は例外中の例外で、そもそもこのジャンルからは書籍化できるような作品は出てこないと判断されているのでしょう。


 実は、いろいろな作品を読んでいて、一番「埋もれている」と感じる作品が多いのもこのジャンルなのです。歴史小説は、楽しむのに一定の前提知識が必要とされます。戦国時代ならまだ好きな人も多いでしょうが、これが舞台が西洋史だったり中国史だったりするとさらにハードルが高くなります。

 私は歴史好きなのでそういう作品でも読めますが、作品のクオリティ以前に歴史物を書く時点ですでにマイナスの地形効果を受けてしまっているのではないか、と思うことが多々あります。

 戦国時代に転生したりする作品なら人気が出ることもありますが、これは読者に近くて感情移入できる人物が主人公だからでしょう。


 何にでも流行というのはあるものですし、流行りのジャンルの作品が高く評価されるのも当然のことであるとは思います。

 つまり、作品の質以前に、何を書くかですでにある程度評価が決まってしまう、ということです。

 また、一言で異世界ファンタジーと言っても幅広く、今は何らかのスキルを持って転生したり、ステータス画面のようなものが作中に出てくるゲーム的な作品が受けやすいようですが、ファンタジーでもこうした作風でない場合は良作でも苦戦しているようにも見えます。

 ファンタジーで「埋もれている」と判断する作品には、今流行りの作風でないため人目を引かないからではないか、と思えるものが多いのです。


 もちろん作品の評価は人それぞれですし、結局最後は主観でしかありません。

 ただ、私自身は流行の要素を持っているかどうかと小説自体のクオリティは分けて考えています。

 一般受けはしなさそうな作品でもクオリティが高いと判断した場合は、積極的にレビューしていきたいと考えています。


 少し話がそれましたが、「何を書くか」というジャンルの選択は、読者から見れば小説の「一次試験」なのだと思います。

 ここを突破できなければ、そもそも読まれないのでクオリティ以前の問題です。

 この一次試験に有利なジャンルと不利なジャンルがあり、有利であるはずのファンタジーの中でもサブジャンルとして有利なものと不利なものがあるのではないか、というのが現時点での仮説です。


 さて、ジャンルの選択が小説の一次試験であるなら、二次試験とは何でしょうか。

 それは「文章の読みやすさ」であると考えます。

 あたり前のことのようですが、この「読みやすさ」というのも、考えていくとそう単純なものではないということがわかってきます。

 次回はこの「読みやすさ」について考察していきたいと思います。

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