俺たちの伝説の夏

草野球児

第1話

 高校野球といえば甲子園、甲子園といえば高校野球、と形容の呼応関係は成立している。

 しかしそれは、全ての高校球児が甲子園を目指しているということを意味しているわけではない。例えば、普段の高校生活を犠牲にしてまで甲子園を目指すわけではなく「仲間たちと野球を楽しむ」ことに重きを置く球児というものもいるし、それは俺の知る範囲でさえ少なくない。

 というより、自分自身がそれに近い存在である。


 県立神山かみやま高校。

 岐阜県神山市。その北部に位置する我が校、通称「神高かみこう」は、進学校でありながら部活動が盛んなことで有名である。

 ただしそれは文化部に限った話。

 運動部は、決して広くないグラウンドを互いに分け合い、細々と活動しているのが実状だ。

 俺はそんな神山高校野球部のキャプテン・長坂尚也ながさか なおや

 「主将」といっても多数決によって押しつけられた完全なる貧乏くじであり、世間一般の「チームを背負う」というようなものではない。

 ただ神高野球部キャプテンというのは伝統的にそういうものであり、先輩たちも「今まで通り気楽にやればいいよ」と言って主将を任せてくれた。


 狭いグラウンド、不十分な設備、笑顔の絶えない部員。俺はこの野球部の風景が嫌いじゃない。だからこそ

「自分も先輩たちと同じように和気あいあいと野球をして、最後の夏に1勝くらいできたらいいな」

なんてことを思っていた。


 あの天才がやってくるまでは。

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