~Twilight Alley~ フランケン誕生秘話

うみ

フランケン誕生秘話

 レストランの片隅でジャガイモの皮を剥きながらフランケンは愚痴る。


「しかし、ここへ来たのはいいけど何でイケメンばっかりなんだよ!」


 フランケンは中肉中背の平凡な顔をした男で、癖のある短い黒髪に黒目の特徴がないのが特徴といった三十くらいの見た目をしている。

 実は彼……人造人間なのだが、普通の人間と全く変わりはない。

 そんな彼が一人ならば、わざわざ人外レストランで働く必要はなかったのだが、連れの妖精が問題だったのだ。


 連れの妖精シルフは十二歳くらいの少女の見た目ではあるが、人間ばなれした緑の髪に緑の目を持つ。そして何より背中から生えたトンボのような四枚の羽が人間でないことを主張している。

 人間ばなれした羽や髪の色を抜きにしても、身長五十センチほどしかなく、宙に浮いているので一目みれば人間じゃないと分かる……


 途方に暮れたフランケンは人外レストランの噂を聞きつけ、ここに身を隠すことにしたのだ。


 ただ、先ほど愚痴ったように人外レストランは見目麗しい男が働くお店。フランケンはとにかくイケメンが嫌いだった! だってモテるんだもの。


「まあ、あなたがモテないのは今に始まった話じゃないでしょ」


 シルフは机の上で三角座りをした姿勢のまま、あきれたようにフランケンに呟く。

 

「そんなことは……ないはずだ! しかし、博士は何故こんな見た目にしたんだよ!」


 フランケンは頭を抱えながら叫ぶ。人造人間なら見た目もイケメンに出来るだろう。わざわざこんな見た目にしなくても……

 

「あなたはそれでいいのよ。それでね」


 意味深な慰め方をするシルフに思わずフランケンは彼女へと目をやる。

 

「何か深い理由がありそうだな……俺の誕生には」


「いろいろあったのよ」



――それなりに昔

 島田博士とシルフは人工的に人間を作る研究を行っていた。島田博士は老境の域に入ってからこの研究を開始したが、十年の歳月がたつものの全く研究は進んでいない。

 

 少し休憩するかと島田は別室の休憩ルームへ足を運びコーヒーを口にする。彼が休んでいるとどこからともなく、緑の髪をした妖精が机の上に現れ三角座りをしていた。

 この妖精……ホログラムで実体はない。シルフは島田の助手だが、優れたAIを持つコンピューターだから当然実体は持たない。

 

「はあ。うまくいかねえなあ」


「島田だから仕方ないわよ」


「ひょっとして、シルフなら作れるの?」


「私? あなた誰に聞いてるのよ。私と島田は違うのよ」


「さいでっか……」


「もう。仕方ないわね……」


 数日後、島田がベッドで寝ていると誰かが彼の顔をベシベシと叩く。島田は孤立無援の独身! この研究所を訪れる人間などもう数年間いない。

 突然顔を叩かれた島田はハッと飛び起きると、目の前にいたのはシルフだった。

 

「あれ? シルフ?」


「そうよ」


 シルフならホログラムだから、顔を叩くなんてできないはずだが……いぶかしむ島田にシルフは胸を張って口を挟む。


「島田。この体はアンドロイドなのよ」


「ええええ。アンドロイドってまだそんな技術ないだろ!」


「私なら余裕よ。さすが私!」


「技術的ブレイクスルーどころじゃねえな……」


「それで島田。人工的な人間を作って何するつもりなの?」


「よくぞ聞いてくれたシルフ。って何度も聞いてるだろ」


「ついノリで聞いてしまったわ」


 シルフは肩を竦め、島田の肩へ乗っかる。羽ばたくときはしっかり背中の羽を動かしながら……島田にはわかる。こんな羽で飛べるわけないことを……

 一体どんな技術を使ってるんだよ! と島田は冷や汗を流すが、元来余り深く考えない性格だったからすぐにそんなもんかと納得するのだった。

 

 島田が人工的に人間を作りたい理由は学会で褒められたいとか、自身の研究熱を満たす為といったそんな崇高な願いではない。

 

 島田はモテない。それも壊滅的に。

 

 奥手な性格が災いしてモテないわけではない。これまで何百回と女性にアプローチを行ってきたが、ことごとく撃沈されてきたのだ!

 そんな島田が考えた最終的解決は――

 

――自身で女の子を作る!


 ということだった……

 

 本当に心からくだらない理由で十年以上も研究に励む彼に世間は呆れかえり、数年もしないうちに彼の研究は誰からも注目されなくなってしまう。

 しかし島田は致命的な事に気がついていない。女の子を作ったからといって、島田に好意を寄せるとは限らないということを。

 

 シルフは島田の研究が成功しない方がよいと思っている。もし成功し、女子を作成したとして島田が振られる姿が目に浮かぶからだ……

 

「よおしシルフ。今日も研究するぜ!」


「はあい。まあ頑張って」


「なんだそれはー! もっとやる気出そうぜ!」


「はいはい」


 島田は気合を入れる為に両手で頬を叩き、立ち上がる。今日も島田の研究が始まるのだった。

 

 それから数年後、研究の成功を見ないまま島田は永眠し、シルフと研究所だけが残される。シルフは熟考の末、亡くなった島田の研究へ一度くらい成果を出そうと決意する。

 一年も経たないうちに人造人間フランケンが誕生し、島田の記憶が注入され今に至る。島田の記憶といっても全てを投入したわけではなく、シルフは彼の若い頃の記憶だけを入れることにした。

 

――現在

「というわけなのよ」


 長い過去を語り終えたシルフはため息をつく。

 

「なるほど。話は分かった! しかしシルフ……なんで俺をイケメンにしてくれなかったんだ」


「あなたがモテたら困るじゃない。島田のアイデンティティはモテないことでしょ」


「そんなわけあるかああ!」


 フランケンは絶叫し、その声が余りにうるさかったので他の従業員からおしかりを受けてしまった。

 

「アイデンティティだけじゃないけどね……」


 ボソっとシルフは呟くが、フランケンには聞こえていなかった。

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