第7話 ドアメイド
私は基本的にお店に来てもすることがありません。
なので、一日がとても長く感じます。
私は何か仕事をしようとあれこれ探します。
先輩メイド達は私が何かしようするとすぐに仕事をとっていきます。
掃除であれ、お会計であれ、オーダーであれ。
このままでは仕方がありませんので、私はにこにこしながらお店の出入り口に立ち、お客様のお見送りとお出迎えをする事にしました。
ドアマンならぬドアメイドです。
私はガラス越しにお客様の姿を捉えるとドアを開けます。
「お帰りなさいませ、お客様」私は言います。
私は、お客様がお店のドアに手をかけられる前にドアを開けるので、大体のお客様は驚かれます。
ドアメイドたるもの、お客様にドアを開けて頂くなどあってはならぬ事なのです。
私のドアメイドとしてのプライドが決して許しません。
お会計を済まされたお客様が出入り口に向かわれます。
私は気持ち顔を横に傾けて、お客様に笑顔を向けます。
「行ってらっしゃいませ、お客様」
人と接するとき、顔に角度をつけて挨拶をするとされた相手は親しみを覚えると心理学の本に書いてあったのを思い出したので実行してみました。
何人かのお客様に、お出迎えとお見送りをさせていだいて気づいた事があります。
それは恥ずかしがられるお客様が多い事です。
これはもうお客様に慣れて頂けるまで私が頑張り続けるしかありませんね。
お店が落ち着き、お客様の出入りが少なくなってきた頃、私は厨房へ目を向けると綾子と目が合いました。
綾子は私を睨みながら、私に近づきます。
「あんたさっきから何してるの?」
「ドアメイドです」
「今、なんて言ったの?」
「ですからドアメイドです」
「ドアメイドってなに?」
「お客様のお出迎えとお見送りを専門とするメイドの事です」
「あんたそれしかしないつもり?」
「はい。他にすることもありませんので」
綾子はため息をはき、厨房へ戻りました。
私は外に目を向けお客様の来店を待ちます。
暫くすると、綾子が再び私に近づきます。
「今、お客様少ないからあんたがトイレ掃除してきて」
「私がトイレ掃除をしても宜しいんですか?」
「何度も同じこと言わせるつもり?」
「いえ、そうゆうつもりではありませんが」
「あんたがトイレ掃除を終わらせるまで私がドア係やっておいてあげる」
「分かりました」
私はトイレ掃除に向かう途中、振り返り綾子を見ます。
「綾子さん、ドア係じゃなくてドアメイドですからね」
「うるさい!だまっていけ!」
私はトイレに向かうと清掃中の立て看板を外に出し、掃除を始めました。
私は便器を磨きながら、もし急な雨が降ったときにお客様がお困りにならないように貸出できる傘を準備する必要があると思いました。
不本意ながら、お店が終わったあとにオーナーに電話してみようと思います。
今日は少し綾子と打ち解けれたと考えていいんでしょうか。
オーナーに常駐ドアメイドの案も検討してもらえる様についでに相談してみましょう。
うちのお店の売りの一つとして加えることが出来たとしたら私としてもとても嬉しいですからね。
今夜はいつもと違って少し気分よく眠れそうです。
Vainna Gareth(ベインナ・ガレス) 安田浩次 @sengaku_gusya
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