第6話 料理人
綾子と軽く衝突した日から数日が立ち、私は彼女から少しずつ店の仕事を学び始めました。
私は何か月も前からこのお店で働いているはずなのにまるで新人メイドと一緒の働きしかできないのです。
オーナーは本当で私に店を任せる気なのですが、何時迄にどのくらいの事が出来るようになれとか、売り上げ目標なども何もありません。
出納帳簿整理、現金管理、シフト管理やメニュー作成、材料仕入れ、出入り業者への連絡などほとんど綾子を中心とした先輩メイド達がすでにこなせています。
私がオーナーに直談判したあまりおいしくない軽食にしても彼女たちが作ります。私がこのお店にいなくても十分お店として機能しているのです。
綾子が私に反発するのも無理はありません。
私はオーナーに料理人を雇ってくれるのか連絡を取ったところ、すでに面接を終えて今日お店に来るらしいのです。
相も変わらずあの人はいい加減です。
私はこの件を綾子に相談した所、「好きにすれば?」と返事があるのみ。
私は少し気を悪くしましたが、簡単に彼女との溝が埋まるわけではないと割り切り料理人を待つことにしました。
ランチタイムの慌ただしさが過ぎ、店に落ちつきが出始めたころ、私は店の入り口でこちらの様子を伺っている小さな女の子の存在に気づきました。
私は店の外に出て、彼女に声を掛けました。
「お帰りなさいませ。お客さま。どうぞ中へお入りください。」
彼女は驚いて私の顔を見上げます。
「あ、あの」
「はい」
「ぼく、今日から・・、その・・・」
「もしかして、料理担当の方ですか?」
「はい・・・。えと・・・、」
「初めまして。私はこの店の・・、メイド長の小夜啼鶯(さよなきうぐいす)です。」
「は、はじめまして。僕は天城莉里(あまぎりり)と言います」
天城さんは料理学校を卒業し、都心の有名ホテルのフランス料理店で働いていました。
そこにうちのオーナーが、そのお店の月一回のビュッフェの日に、料理の補充のためにフロアに出ていた彼女に声をかけました。
「天城さん、よくうちのお店に来てくださいましたね?」
「はい・・・。その・・・、オーナーさんが・・・・、僕の事、すごく気に入ってくれて・・・、ぜひ、僕に・・・、お店の料理長を・・・、してほしいって・・・」
「天城さんの作られた料理をあの人が食べたんですか?」
「いえ・・・、料理はまだ・・・、食べてもらった事はないんですけど・・・」
「けど?」
「君みたいな可愛い子の料理がおいしくないわけないから、試食は必要ないって」
私は頭が痛くなりました。
「いい加減なオーナーで本当に申し訳ありません」
「い・・いえ。その・・、そうゆうことじゃなくて・・・、僕・・、どうしても・・・、自分の考えた料理を・・・、誰かに食べてもらいたかったから・・・、それで・・・」
天城さんは俯きながら言いました。
私は、オーナーは確かに見た目重視の方針を取ってはいますが、抜け目のないところも有るのだなと感心しました。少しだけですけど。
私は早速、先輩メイド達に天城さんを紹介しました。
彼女たちは天城さんを一目見ただけで気に入ったようで優しく歓迎してました。
私の時とは大違いです。別に気にしてませんが。
天城さんは一見すると幼さも手伝ってとても料理人は見えませんが、職人気質な彼女の指がそれを否定しています。
私はまだ彼女の料理を食べいてませんが、先輩メイド達が彼女を受け入れてくれているのが何よりうれしいことです。
誰だって、新しくやってきた場所で歓迎されないのは悲しいものですからね。
私はオーナに天城さんを雇ってくれた事へのお礼の電話を入れました。
「オーナー、私の希望を受けて頂いてありがとうございました」
「あー、わざわざ電話なんてしなくてよかったのに。真面目だね君は。それよか、彼女、かわいいでしょ?ほら、うちの店ってさ、キレイ系ばっかりでかわいい系いないじゃん?それってやっぱヤバクない?」
私は即座に電話を切りました。
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