第8話【ミッション 失敗。か?】

それにしても、黒服の男たちのマークから逃れたい。


アキラを夜景の見える窓際に連れて行った。

いいムードをかもし出してるだろ。あっち行けよ。野暮な奴らだな。

柱の陰に隠れるように移動してみた。それでも、あからさまではないが、男たちの視線は追ってくる。


マジかよ……


仕方ない。最終手段だ。ひと芝居打つか。


「アキラ、ゆるせよ。」


眼鏡を外し、アキラの唇にゆっくり俺の唇を重ねた。

「んっ!」目を見開いているだろうアキラの顔はあいつらからは見えないだろう。


さすがにここまでお楽しみの所を邪魔する気はないのだろう。

数人の「いいな~」という感情を残して、消えていった。


イヤフォンから通信が入った。「どうもこっちが怪しまれ始めたようだ。地下駐車場から出るぞ。マイクが生きてるからもう少し様子を探りたい。電波がキャッチできるぎりぎりの所まで移動する。ホテルの外に出たら電話して。」


ソジュンが気が付いた。

さすが、セキュリティー万全だ。どうも温度センサーで車内に人がいることを感知して、ある程度時間が経つと警備員が来るようになっているらしい。

そこまでは知らなかった。


了解したことは伝わってはいると思うが、マイクがないのでポケットからカメラが仕込んである眼鏡を取り出し、OKのジェスチャーで答えた。


眼鏡をかけ直そうとしたとき、その手をアキラが止めた。


「どうした?」


「ヒョン、よかった One more もう一回……」


「え?ちょ、おい、アキラ? うっ……」

・・・・・・

(なんだ、この感覚。頭の中が…体が…女性とキスした時、こんな風にはならなかった。)


コホン。

あまりの熱々シーンに通りかかった年配の紳士が顔を赤らめて通り過ぎて行った。


俺の首にしがみついているアキラを引きはがした。

さっきのホテルの警備員とは違う玄人の視線を感じる。

おいおい、どこまでもいい仕事っぷり見せてくれるよ。


何か目的があるのか、最後まで行動を見極めたいようだ。

疑り深い雇用主でご苦労さんなことだ。


探っていることを知られて警戒されては、あちらのボロが出にくくなる。

仕方ない。撤退だ。


ホテルから出たもののまだ必要に付いてくる。

兄さんにピックアップしてもらおうと電話をかけてみた。


「すまん、今、ソウに集中させてやりたい。切るぞ。」


何か掴みかけている。

空気を読む前に電話しちゃったよ。ソウ、ごめん。


困ったな。アキラは足がもう限界のようだ。

近くのカフェにでも……と思った時、手首を縛られるような感覚が沸き上がってきた。

予知感覚だ。


は?あいつら俺たちを拉致しようとしてるのか?どこまで疑り深いんだ。

アキラを連れて逃げ切れるだろうか……


「アキラ、いいか。よく聞くんだぞ。お前を安全な所に置いて、兄さんは付いてきている変な奴らを撒いてくる。迎えにくるまでじっとしているんだぞ。分かったな?」


アキラをカフェに置き、俺は外へ出た。さすがに人目のあるカフェで、堂々と人を強引に連れ去っていくような危険な真似はしないだろう。

ユンソン兄さんに連絡した。誰かに付けられていること。俺が引き付けている間にアキラを迎えに行ってほしいこと。


ソジュン兄さんの車の気配が確認できる。ソウがなにか掴んだという事も伝わってくる。

多少あちら側が警戒したとしても、もはや構わないようだ。

しばらく何気に歩き、一気に走り出した。


「撒いてこい」

イヤフォンからソジュン兄さんの声が聞こえた。車が動いているのが分かる。

さすが兄さんだ。先回りして待っていてくれるようだ。


俺は気が向くまま、あちこち曲がりながら走った。

一角を曲がった時、兄さんの車が止まり、滑り込むように俺は乗った。


アイツらの「見失った……」という悔しさが伝わってくる。


「助かった。まさか拉致まで考えてるとは思わなかったよ。アキラは?」

「ユンソン兄さんに頼んだみたいだったから、俺たちはお前をまず拾おうと思ってた。

電話してみて。」



「ユンソン兄さん、 こっちは大丈夫。アキラは?

え?そう、そのカフェだよ。アキラだけど、アキラじゃなくって…えっと、女の子の格好してるから…あーと、ユンソン兄さん?聞いてる。(絶句してる場合じゃないから~)アキラが見ればわかるはずだから、それっぽい女の子に近づいてみて。……え?いない!?・・・」


店員に聞いたところ、男性と一緒に入店してきた女性はしばらく一人で座っていたが、その後、別の男性が連れて行った、との事。一緒に来た男性はかなりカッコよかったので覚えている。次にきた男性とは、かなり差があったので、面白くて見てしまった。嬉しそうに腕を組ませてあげていたので知り合いなのかと思った。女性の方も抵抗する感じもなく、……と。


俺が呼んでいる、とでも言ったのか?うまく誘った事には違いない。


アキラ、『知らない人についていってはいけません』って教えられなかったのか?


アキラの携帯は「電源が切れている」というアナウンスが無情にも流れてくるだけだ。

追跡アプリも機能しない。

通話内容が説明しなくても理解できている兄弟達。走っている車を路肩に止め、集中するソジュン。

手がかりがないものは見えない。

アキラは俺たち兄弟と違って長年一緒に暮らしてきた訳ではない。

かなり、難しいようだ。

「車か? トランクに詰め込まれてる……」

なんとか見えたビジョンだ。


俺は居ても立っても居られなくなって車から飛び出た。

「待つんだ、ジウン!やみくもに探しても仕方ないだろう?逆にさっきのヤツらに見つかる可能性だってある。居場所の確信が持てるまで、どんな手段を使ってでも探すんだ。」


そうは言っても、俺は焦るばかりだ。

あの時、一人にしなければよかった。

どんなに心細かっただろう。

今、どれほど怖がっているんだろう。


俺は手に残るアキラの感覚を後悔の念と共に思い出した。

「アキラ……」


シュン……

妙な空気音と共に、ズシリとした重さに耐えられず、俺は片膝を地面についた。


「?!アキラっ!!」

腕の中に突然現れた気を失ったアキラを思い切り抱きしめた。

((う……兄さん?))

「あぁ、大丈夫。もう大丈夫だ。兄さんが悪かった。」


力でサーチする。手足は縛られ口にはテープが貼られているが、怪我はない。とにかく疲労している。


「家に帰ろう。ゆっくり休むといい……」


安心した表情でゆるく微笑んだアキラは深い眠りに入っていった。

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Brothers Kim 小野部 結糸 @kim-onob-ito

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