第7話【ミッション】

ミッション当日。

可愛らしく変身したアキラを連れて、会場についた。


家を出る時は訳もわからず、ウキウキした感じだったアキラだが、

ソジュン兄さんの運転する車の中で、眼鏡に仕込んだカメラの調整だの小型マイクだのをソウと確認しているのを見て、だんだんと表情が強張ってきた。


「いいか、アキラ。会場の椅子に座っていればいいからな。迎えにいくまでビュッフェの料理を好きなだけ食べてていいから。」

独りになることが分かってか、心細そうになったが、コクンコクンと、ただ頷いて了解した事を俺に伝えてきた。


義足で、履きなれないヒールで……そう思ってロウヒールを選んだんだが……とにかく歩きにくそうだ。

はたから見れば、仲良く腕を組んで歩いているカップルなんだろうが、

がっつり、しがみついているだけなんだよ。


「いらっしゃいませ…たのしいひと時を。」


コイツ、アキラをみて、息をのんだぞ。

微笑みかけるな。俺の お・と・う・と だぞ!



「兄さん、ボクなんかおかしい?なんか、あの人 笑う」

「…笑われてるんじゃない。大丈夫だ。」


女装して人前に出るのは初めてだ。ただでさえ緊張しているアキラをチラチラと男性陣が見る。

自分の彼女を見ろよ。アキラの緊張が伝わってくる。こっちまで緊張してくる。

この後に大事な任務(ミッション)があるんだ。やめてくれよ……

⦅ククク…… ⦆イヤフォンからソウの笑い声が漏れてくる。

状況をビジョンしてどうせソジュン兄さんも笑っているんだろ。


なるべく隅の席に座り、アキラの好きそうなものを選んでテーブルに置いた。

「食べながら待ってろ。」

不安げな面持ちから一変して目を輝かして料理を見ている。

そりょそうだろ。これがお前のベストチョイスのはずだ。


「ちょっと化粧室に……」の雰囲気を出して部屋を出た。


「聞こえるか?」

「ああ、マイクもカメラも大丈夫だ。」

カップルパーティーが行われる最上階の展望レストランにエレベーターで上がってくるとき、会食がある個室は察知できた。

すでに皆集まっているようだ。


ドアの前まで怪しまれずに来れた。

辺りに人影はない。今だ!


ジウンがドアに触れながら感じ取る。

マイクから普通の人には聞き取れない音をソウが聞いている。

ジウンの超感覚、ソウの超聴覚の力を借りながらソジュンがビジョンする。


この中にいる顔ぶれ、話の内容、雰囲気、事件についての何か…

もう少し、もう少し詳しく……


「お客様、どうかされましたか。」


!!…しまった、ドアの内側に集中しすぎて、あたりの気配に気がまわらなかった。


「い、いや、ちょっと。。。連れが迷ったのか、化粧室に行ったまま戻ってこなくて…探しているんだが……」


セキュリティ上の工夫もあるのだろう。この階の作りは入り組んでいる。

ドアマンに案内してもらわないと部屋の配置が分りずらい事は確かだ。


「お連れ様が?さようでございますか。こちらは別のお客様がいらっしゃるお部屋でございますので、お近づきになられませんようにお願いできますでしょうか。。」

「あ、ああ。そうか……そうだな。」

「パーティのお客様でございますね。

今、女性用の化粧室をご利用の方はいらっしゃらなかったようです。

お連れ様もお部屋の方にお戻りではないでしょうか。

お部屋までご案内いたしましょうか?」

「あ、いや、大丈夫だ……」


「にぃ…お兄ちゃん!」

なんとか壁伝いに歩いてきたであろうアキラが心配そうな面持ちで見ていた。


アキラ!ナイスタイミング

「お、おお、ア…アルム!」

(「?」な顔して後ろを振り向くな!お前の事だ。)


「アルム~、よかったぁ、お兄ちゃん心配で探してたんだぞぉ。」

怪訝そうな顔をしているドアマンの横をすり抜け、アキラを抱きしめる。


「兄さん、アルム だれ?」

「しっ、… アキラじゃ男名だろ。」

「あ、ああ、そうか」

(ん?、なんだ、アキラから伝わってくる、このちょっとした嫉妬感のようなものは?)


アルムというアキラの肩を抱きながらパーティ会場へ戻ろうとした。

さっきのドアマンの通報だろう。いかにも、な黒服の男たちが俺たちをマークし始めた。


あいつ……いい仕事ぶりだ。


くそっ、最接近は無理そうだ。


アキラの声でドアマンが振り向いたとき、マイクを仕込んだタイピンをあの部屋のドア前に落としておいた。

ソウ、なんとか音を拾ってくれ……

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