第6話【ミッション計画】

ホテルで夫人を中心に意を同じくする重役達の会食があるらしい。

ここまで上手く事が進んでいるだけに、話が弾むことだろう。


証拠になりそうなものの手がかりが欲しい。


あのホテルはセキュリティが硬い。VIP専用の個室のあるレストランがある。

その階へは特定のベルマン同伴でエレベーターを利用しなければ誰でも上がれないようになっている。

同じ日、レストラン内でカップルパーティーがある。得意先など身元のはっきりした者のみに招待状が送られる。客層はそうそうたるもので、年配の夫婦で参加しても場違いにならないほど格調のあるものだが、ネーミング通り各界の軽いちょっとした社交の場でもある。


パーティー客で人の賑わいのある中、堂々と集まる方が逆に怪しまれず、腹黒い相談をするにはもってこいなのだろう。


ならば、こちらもこれを利用してその会話に近づきたい。

しかし、三人そろって行くのは怪しいことこの上ない。


さて、誰が行こうか?


ソジュンはその種のパーティーに気楽に参加するのはどうも不自然。女性同伴で行こうものなら、財閥界の御曹司として婚約発表並みになるだろう。

ソウでは顔を国民的に知られている。パーティーとはいえホテルなんかに女性と行けば、スキャンダルだ。

その点、ジウンなら、家族付き合いのある知り合いの重役たちもいるが、日頃から女性の影が絶えない行いを知っているだけに(オイオイ……)見かけられたとしても不審ではないだろう。


出来るだけ部屋に近づいてジウンが力を使って偵察したい。

ジウンが付けたマイクを通してソウが音から何か聞き取れれば…

ソジュンがジウンとソウを通してどんな事でもいいから見て取れないか。


「どうする?

パートナー同伴じゃなきゃ不自然だろ」


「あ~、でどうかな?

な、ジウン、振られた彼女から返されたドレスあっただろ?

ちょっと、あれに着せてみたら?」

「(振られたわけじゃない。勝手に付き合ってると思ってたのはあっちだ。パーティに行きたいっていうからあつらえてやったまでだ……)」と、思ったが言ったところでどうなるものでもないことは分かりきっているので、流すことにした。

(ジウンがそう思っていることはソジュンとソウにはダダ漏れではあるが、こちらも流した。)


少し苦笑いを浮かべつつ、ソジュンが‵あれ′と言って指さした方に目を向ける。

風呂上りなのだろう、濡れた髪をタオルで拭きながらバスローブ姿のアキラがリビングに入ってきた。

義足にもずいぶん慣れ、トコトコと冷蔵庫に近づいていた。


「はぁ?マジで言ってる?

……んー、なくもないかな。

変に気を回さなくてもよさそうだし。」

「んー、そうだな。ちょっと、あててみるか。

ソウ、ちょっと、手伝え。」


「アキラ、どうした?」

「いや、ちょっと喉 渇いた。ビール  ないか?……」

たどたどしいが、ずいぶん韓国語で話せるようになった。

こちらの話していることはかなり理解できているようだ。

「お前、まだ未成年だよな。」ソウがアキラが開けた冷蔵庫のドアを強制的に閉めた。

「あ、ごめん…なさい」

「まぁ、そんなことより兄さん達とちょっと遊ぼうか?」

「え?」

「お兄ちゃんはお前と酒を酌み交わす日が楽しみだよ。」


ソウはニコニコとアキラの肩を抱いてリビングを後にした。



「ちょ、兄さん。な、なにする?ぎゃーーー!!」

「早く脱げ!じゃなきゃ、じっとしてろ!」

「なんで!!?」

「静かにしろって。気絶させるぞ。」

「えーーー??what?なに?why? わー!」


騒がしいというか、楽しそうというか?……

俺の見込みだとかなりいい線行くと思うんだがな。

(さすがビジュアル系クリエイター)


まだアキラは親族として公の場に顔を出したことがない。

父の入院中、何度か見舞いに来て会社関係の人とすれ違ってはいるが、顔の傷をなるべく奇麗にしてあげたいという父の願いがあって、まだ顔に大きなガーゼをつけていた。ましてや女性の姿なら、なおさらアキラとは思われないだろう。

この事件に関してはあまり巻き込みたくはないが、もし、アキラを見かけた人物がいたとしても、気付かれずに済むはずだ。

実際、だれかの彼女を使うより、身内の方が気が楽だ。



静かになったな。終わったようだが……

「出来栄えは?」リビングに戻ってきた2人に、自分の見込みを確信するかのように聞いてみた。


「ああ、さすがソジュン兄さん、かなりいい線いってるんじゃね?な?ジウン兄さん。」

「パウダールームにいるよ。確認してみたら。」

(うーん、まあまあだな。連れて歩いても恥じゃないようだし。

なんとかなるレベルだな。)


ジウンが了解した段階であることをソジュンもソウも感じ取っている。


ソジュンがパウダールームのドアをノックするも返事がない。

「?アキラ、入るぞ」


片足を洗面台に預けて、鏡に写っている自分を眺めているアキラがいた。

どことなくうっとりとしているかのようにも見える。


「アキラ?」

「あ、ソジュン兄さん……」


「うーん、十分かわいい。。。


アキラ、ちょっとお願いしたいことがあってね。

この格好で、こんどジウンとちょっとしたパーティに行ってもらいたいんだ。

女装なんて辛いとは思うんだけど頼めるかな?

訳アリの事でね。くわしく説明できないんだけど、理解してくれるかな。」


(いちいち説明しなくても理解してくれる弟達と違って、ちょっとした面倒くささを感じている。)


「……アキラ?、聞いてる?」

「あ、はい、まあ。僕 いいです よ。

……ところで shaverシェイバー あります?」

「は?シェイバーって、剃るやつ?」

「はい、えっと…身だしなみ 必要 かな…///」

「・・・・・」


妙な雰囲気を感じ取っているリビングの2人。

ドアを勢い良く開けてソジュンが入ってくる。

どことなく足早に自室に戻りながら


「OKだ。うまく歩けないだろうから、工夫してあげて。じゃ、当日!」


雰囲気の理解に苦労している残された2人。



ほどなくして、アキラがウキウキ感を漂わせながら出てきた。


「ママ、メイクして~」

「あら、まあまあ……♪ 可愛いわ~。お兄さん達と遊んでいたの?

仲良くって、うれしいわ~」


母さん……三人目も男の子で諦めたけど、女の子が欲しかった人だからな。

はしゃいじゃってるな。


アキラ……君からすると俺の母はママじゃないだろ。ってか、そっちに目覚めたのか……


アキラの女装がえらく気に入ったらしく、母が義足が目立たないデザインのこれまたセクシーキュートなドレスをあつらえてくれた。


「リップはこの色が似あうわ」

「あら、このネックレス、イメージピッタリ!」

「ウィッグなんかも見てみようかしら……」


楽しそうにショッピングをしている姿を見ると、父の大けがの後、ふさぎ込んでいて心配だったが、これはこれで良かった……のか?

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