第5話【真相を探る】

仕事を持ち込んでなるべく父に付き添う。

クライアントとの打ち合わせも別室で済ませる。

母もジウンもソウも時間を作って交代してくれている。その間、俺は爆睡だ。


そんな中、ユンソン兄さんに付き添われて、アキラが見舞いついでに俺の着替えや差し入れを持ってきてくれた。

今話題の店のワッフルがあった。こいつ、俺の好みがだんだんわかってきたじゃないか。

ん?あぁ、お前もちゃっかり食べていく魂胆なんだな……


同じ病院に通院しているので診察も受けてきたのだろう。

リハビリも頑張っているようだ。ずいぶん義足にも慣れてきた。

未だに顔に大きなガーゼをしているのは、なるべく傷痕が残らないようにと父が主治医に念を押して診てもらっているからだ。

うっとうしいだろうが、男も顔が命だぞ。耐えろ、アキラ。


こちらの生活にもずいぶん慣れ、語学学校に通っている。

宿題の絵本を読む練習に付き合って目を細めて微笑んでいる父の姿は、まるで小さい孫の相手をしているようだった。

そんなやさしい父の今の姿を見て、アキラも泣き出しそうな顔をしている。

自分の周りで不幸が続き、お前のせいではないのに、自分を責めてしまっているのが伝わる。


なぜこんなことが起きたのか?なにが目的なのか?

危険が迫ればある程度は予知できるはずなのに、事件が起きるまで、なにも感じなかった。

ゆるせない。自分も犯人も。

怒りが沸き上がってきた。

怒りの波動で近くの花瓶が震えた。


カタカタと音を立て始めた花瓶をユンソン兄さんがそっと手で押さえ、俺の目を見た。

「事件の事なんだが、今聞けるか?」


警察の調査では今の段階では全く手がかりが見つかっていない。

恨みを抱くような人物もなく(当たりまえだ!)目撃情報もなく、CCTVの映像のみが、この怪奇的刺傷事件の犯人が人間と証明しているだけ。


(犯人は能力者なのか……)

ふと頭を横切ったが、それにしてもなにか目的があるはずだ。

「兄さん、グループ(企業)内でなにかおかしな事、ないかな?」

「え?内部で?…う~ん、思い当たらないな。」

(まだ、表面だって動いてないのか?)

「ちょっとした些細なことでもいいから、なにか気になった点が見つかったら教えて。」

「了解」


入れ替わるようにして、グループ企業の社長夫婦が見舞いに来てくれた。

未だ家族以外は面会謝絶の為、別室で俺が対応した。


社長はおっとりした気の優しい方だ。性格の良さがそのまま顔に出ている。

いかにも我がグループ企業の社長、といった所だ。父に性格が似ている。

夫人は外見は控えめの大人しい感じだが、内面の派手さが俺には隠し切れない。

苦手な人だ。


「大変だったね……」

社長の気の毒そうな言葉には裏がないことがわかる。

「会社の方、父が不在で大変だとは思いますが、よろしくお願いします。」

「ああ、今まで会長の力量にずいぶん甘えていたのを思い知ったよ。

各グループの社長達と力を合わせてなんとか乗り切らなければな。

それでなんだか、さっき、下でユンソン室長に会ったんだが、今、彼がいろいろ力を尽くしてくれていてね。どうだろう、君、これを機にグループに入って手伝ってもらえないだろうか?」


父も歳。そんな中で時期会長もみえないまま、この大事を乗り切るためには、すこしでも未来を明るくしておきたいのだろう。


「…はい、考えてみます。」


社長の後ろに寄り添うようにいた夫人は、顔では心配そうに父のいる別室のドアを見つめていた。

耳を疑った。聞こえたわけではないが、感じ取ってしまった。夫人の心の声を。


《死に損ない……》


「なっ……!」

(どういう意味だ!!)

今にも夫人の胸倉を掴んで聞きただしたい衝動にかられたが、必死にこらえた。


2人は俺に労いの言葉をかけて帰っていった。

夫人は心にもないことを口先だけで言っているのが分かる。


ソウが病室に入ってきた。

「今そこで社長にあったんだが、夫人の心の声きいちゃって。

『あなたは経営に関心ないわよね』って。

どういう意味なんだ?」



社長の奥さんが怪しいのだが、なにせ証拠がない。

能力によって感じただけでは、なんの証拠にもならない。


ユンソン兄さんに社長夫人が怪しいことを伝え、会社の内部事情を調べてもらった。


夫人の関わりのある、ペーパーカンパニーらしいものや、企業で援助させている架空のボランティア団体などがあるそうだ。

どれも巧妙に仕組まれていて、調べるのも大変だったそうだ。

そして、社内にあった支援事業をそのあやしい会社に外部委託する流れが出ているらしい。

どうも夫人は利益を私腹化したい思惑があるようだ。


「すでにかなりの額の着服があるようだ。よく今まで気が付かれなかったものだ。」

開いた口が塞がらないといったようだ。

「兄さん、経理関係で助けてくれるような人、いないかな?」

「そうだな。経理に詳しい同じ寮出身の後輩がいる。キム課長※  に話してみよう。一時は「義人」とか呼ばれて、いいヤツだ。

TQグループの粉飾決算を暴いた事もある。企業不正に関しては皆一目おく存在だ。」

「その彼にお願いできるかな。資金の流れの方、頼むよ。俺たちは刺傷事件の方から探ってみるよ。」

「気をつけろよ。」




※「キム課長」 韓国KBS2  2017-01-25~ 韓国放送終了


(この小説は架空の物語であり、テレビドラマとは一応関係ありません)

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