第4話【会長傷害事件】【犯人生い立ち】
【会長傷害事件】
「今年度入寮の皆さま、おめでとうございます。
ご家族、ご兄弟のみなさまにおかれましても……」
グループ企業で全面的にバックアップしている私設学生寮「成均寮」の入寮式典に来賓として出席し、祝辞のスピーチをする会長。
金銭的に余裕がなく進学を諦めることのないよう、成績優秀の者には社会人になるまで生活全面を段階に応じて支援する。
勉学に没頭できるよう、時には親や兄弟へも金銭的援助をすることがある。
かなりの競争率で狭き門だ。どんなに成績が良くても最終審査でもある会長直々の面接で合格しなければ入れない。
この時、技術職に就いた方が将来伸びるとみれば、個人の能力に応じて進学を薦めず職を紹介することもある。
適材適所に人材を配する事が出来るのが会長(父)の能力だ。
秘書室長 イ・ユンソンもここの出身者だ。
「では、この後、親睦パーティに移ります。中庭の方にお進みください。ご家族、ご兄弟の皆さまも楽しいひと時をお過ごしください。」
希望に満ちた学生達のなか、一人冷ややかな目線を会長に送る者がいた。
「きゃーーーー!!」
「会長!!」
わき腹から真っ赤な血を噴き出して会長が倒れた。
イ・ユンソンが駆け寄る。
傷口を押さえながら叫んだ。「救急車を!早く!!」
刺し傷だ。辺りを見回しても怪しい者はいない。
SP達も警戒態勢に入る。
その後、警察も到着し、現場検証が行われた。
誰も怪しい者を見てはいなかった。
後日、CCTV(防犯カメラ)の録画を入手した警察が、代表が刺される場面が写った映像を確認した。
すぐ横を通り過ぎた男。しかし、誰も記憶になかった。
【犯人生い立ち】
母と思われる女性は海外でアジア系旅行者などを相手にする娼婦だった。
母親からの愛情なんて感じたこともない。
ただ、一緒にいる大人、という存在だった。
朝、目が覚めるとその人は冷たくなっていた。
お店に顔を出さないと見に来たガラの悪い男たちが冷たく動かなくなったその人を袋に詰めて運んで行った。
ボクは「元締め」とか言う男の元に連れていかれた。
町で物乞いをさせられた。
もらいが少ないと殴られた。痛かった。
少ない日は自分の存在を消したかった。
「見つかりませんように……」部屋の隅で小さくなっていた。
そんな日々が続いて、ある時、体が辛くて街に行けず、部屋でぐったりしていた。
夜、みんなの上りを元締めが取り上げに来た時、誰もボクに気が付かなかったんだ。
ボクは死んだんだと思った。
食事が運ばれてきて、それでも腹の減ったボクは仲間と一緒に座って食べ始めた。
死んでも腹は減るもんなんだな……
「あれ?お前、どこにいた?」
すぐそこにずっといたのに、仲間は誰も気が付いていなかった。
だんだんとこの力を自由に使えるようになっていった。
気配を消して、ただそこに居るだけではなく、そこにいる人達の意識をかいくぐって気付かれずに進むことも出来るようになった。
元締めがボクの力に気が付いた。
盗みを教えられた。
いい稼ぎができるようになったんだろう。
待遇がよくなっていった。
その国から組織が引き上げることになった時、元締めと一緒にこの国に連れてこられた。
母の祖国でもある韓国に。
オレは殺人をもいとわない危ない仕事の請負人になった。
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