第24話:新ランカー誕生、そして、コンテンツ市場の未来への問題提起

 8月5日午後1時45分、大和杏が現地に到着、ガジェット返却後に停電の原因となっている場所へと向かおうと考える。

その場所とは、太陽光パネルの損傷したというドローン墜落現場だ。

大和が到着した頃には、既に警察が現場検証を行っているのだが――その途中に割り込んだのは明石春だった。

彼女の姿を見た警察は、何も反論することなく作業を始める。

「ARガジェットで事故が絶対に起きないのはネット上の作り話なのは明らかだ」

 明石がARバイザーで見ている場所、それは損傷した太陽光パネルである。明石は煙も出ていない状況に驚きを隠せなかった。

ドローンが墜落し、パネルは大破、ドローンも爆発四散していれば……アイドル投資家やネット炎上勢が自分達のアフィリエイトサイトで写真を公開していただろう。

パネルの方も損傷は小さい物で、簡易補修のみで何とかなるレベルである事がデータ確認で判明、大至急で補修作業を始める。

「あの事故で、損傷が少ないこと自体がチートじゃないのか」

 明石はふと現状を見て、何かがおかしいと感じていた。

ドローンの墜落事故で大損害と言う事例は非常に少ないが、明石は航空機事故のような惨状を想定していたのかもしれない。



 同日午後1時50分、ミュージックオブスパーダ仕様のガジェットを装備した山口飛龍が、若手社長と思わしき人物と戦っていた。

ビットの墜落で太陽光パネルにダメージ、更には周辺のギャラリーに怪我人が出たとしてもお構いなし――そのような若手社長の態度は、山口を徴発させる要素としては効果抜群である。

それ以外にも、彼は山口を煽るようなスタイルでコンサートチケットの転売、超有名アイドルの偽記事、更には一部コンテンツを超有名アイドルが吸収して2次元アイドルから3次元アイドル作品として売り出す――問題発言を続けた。

こうした発言はアカシックレコードでもテンプレで記載されている物もあるのだが、全てか架空の事件と言う訳ではない。

「我々にとっては2次元コンテンツは不要。3次元コンテンツを永久不変の存在とし、そ全世界に発信させる――その為に、このドールシステムを生み出した」

 若手社長が呼びだしたドール、それは3次元アイドルをCG映像の様に投影可能なアバターシステムでもあった。

「これこそ最強のコンテンツ! 3次元アイドルを事務所公認でコピーし、疑似アイドルが永遠に3次元コンテンツを――」

 若手社長は他にも言おうとしていた事があったのだが、それを言わせないかのように山口がスナイパーライフルでアバターの動きを止め、更には保存されていたデータも一緒に消滅させた。

「この技術はフィクションでもあっても、扱うべきではない禁忌の技術――疑似的不老不死アイドルを再現しようと考え、それで無限の利益を得ようと言うのか」

 山口の表情は激怒の表情ではない。もはや、彼の考えに対して呆れかえっている――という。

この考え自体が古い物と言いたそうな――。

「アニメでも日常物のループ等が人気になっている。それを3次元アイドルで再現しようと言うだけの事。それの、何がいけないのだ」

 若手社長の方は開き直り気味で、周囲のギャラリーにも訴える。

しかし、周囲が受け入れるような気配はない。おそらく、相手が悪かったとしか言えないだろう。

その社長の発言を聞き、ダッシュで該当エリアにやってきたのは白衣の下にインナースーツ、右腕には大型のARガジェット《アガートラーム》を装備した大和だった。

「我々は永遠に続く存在に対して抵抗をしている。お前の言っているのはコンテンツ流通ではない。ただの永久機関だ!」

 ダッシュの勢いで放ったアガートラームの一撃は、若手社長を守ったARアバターを瞬時で消滅させるほどだった。

つまり、それが意味する物は――。

「特定の1企業が絶対支配をするような物は、コンテンツ産業でディストピアを実行するのと同じ」

 大和の一言は山口の代弁にも思えるような物だった。

長い言葉よりも、短くまとめた方が伝わると――そう大和は判断していたのである。

「コンテンツ産業を軍事や大量破壊兵器等に転用する事――それは悲しみと憎しみを生み出すだけだ! ネットの炎上騒動は……」

 大和に続くかのように、山口も若手社長の発言に対して反撃し、スナイパーライフルで復活したARアバターを減らしていく。



 同日午後1時55分、若手社長は無尽蔵にARアバターを呼び出すのだが、それにも限界が来ていた。どうやら、予備のデータも尽きたらしい。

大和と山口だけでARアバターに抵抗していたのだが、大淀はるか、長門未来も応援に駆け付け、形勢は逆転したと言っても過言ではなかった。

「ネットの炎上祭り、それは過去に起こったデモ活動を連想させ、最終的には炎上祭りは大規模な破壊を生み出す力となる。それを超有名アイドルが操ることで、全ての世界を征服する。それが私が思い描くコンテンツ産業の理想形だ」

 若手社長は、まだ敗北を認めない。自分の3次元アイドルこそが最強のコンテンツと思いこんでいるのだ。

「この世の中には――100%という言葉ほど信用できない存在はない!」

 長門は鉄血のビスマルクを連想するような重装甲ガジェットでアバターを撃破していく。表情はアーマーの都合もあって、確認は出来ない。

それでも、長門がキャノン砲で次々とアバターを消滅させていく流れを踏まえると、若手社長の意見を完全否定しようという意図は読み取れる。

「超有名アイドルの様なコンテンツ流通が通じるのは、せいぜいが小規模コミュニティの中でだけ。それが分からないようでは、井の中の蛙と同じ――」

 大淀の方は新型の軽装ガジェットを装備している一方で、メイン武装のパイルバンカーも新調している。

そのパイルバンカーで超有名アイドルの疑似アバターを容赦なく消滅させる様は、ストレス発散とも見て取れるだろうか。

 しかし、大淀の場合はそれだけでは済まない。

自分の発言が歪められた事で今までの事件が起き、それこそネットが炎上するのも日常茶飯事。

そうした元凶を生み出したのが、レジェンドアイドルのプロデューサーである目の前の人物――それを倒さない事には全てが終わらないと考えている。



 同日午後2時、停電の方は10分前には回復し、谷塚の会場ではDJイナズマが改めて十段に挑戦しようと言う場面になっていた。

しかし、そこへイナズマのガジェットに山口と若手社長の一件がニュース速報として流れる。それを見たイナズマは十段の待機画面になっているままで、スタートしようとしていた手を止める。

「これは――!」

 イナズマの方も思わず驚きの声を出す程に、事件の方は大きく動いていたと言っても過言ではない。

先ほどのアイドル投資家と思われた人物、それがレジェンドアイドルに関係した人物だったのである。これには、自分も計算外だったと。

彼を倒すべき人物が自分ではないのは事実だが、それを自分には関係ないという事で呼びとめもせずにスルーした事実は変えられない。

そこで、イナズマはある決断をする。

「申し訳ありませんが、今回の段位認定への挑戦は――」

 中止にすると言いだそうとしていた、その時だった。会場に唐突とも言える形で姿を見せたのは、南雲蒼龍だったのである。 

「中止にする必要性はない。それに、賽は投げられた」

 南雲が指を鳴らすと、近くの大型モニターに今の現状が映し出される。そこには、山口と大和以外にも、長門、大淀、更には鉄血のビスマルクも姿を見せていた。

「彼らが戦う理由、それはコンテンツ流通の正常化だ」

 南雲の一言を聞き、イナズマにも覚えがあるような表情を見せる。それは、過去に自分が書いてきた小説とテーマが同じではないのか、と。

「小説サイトに夢小説やBL勢の二次創作SSがランキング独占、CD年間チャートにおける超有名アイドルのFX投資とも言えるような独占状態――他にも色々とありますが、こうしたコンテンツ流通の結果が正しい物と言えるのでしょうか?」

 南雲が懸念しているのは、指標としてのランキングが一部の特定投資家ファンによる私物化……これが彼にとって、最大の障壁と考えていたのだ。

「私がミュージックオブスパーダと言う作品で、それぞれのプレイヤーに考えて欲しかったのです。今の超有名アイドルや特定ジャンルだけがコンテンツと認められるような日本を――」

 最後に、南雲はあるデータをイナズマに転送しはじめる。そのデータが転送完了し、表示された画面を見て思わず2度見した。

《段位認定:十段》

 そのデータの正体は、何と自分が挑戦しようとしていた十段のデータだったのである。それも、ミュージックオブスパーダでプレイ可能なコースとしてカスタマイズされた物だ。

「超有名アイドルが人気である事は、八歩譲って認めるとしても――たった一人の独裁によってコンテンツ産業が繁栄しても同じ結果になります!」

 そして、南雲は姿を消した。アバターとかいう訳ではなく、確かに本物がいたという感覚はあった。彼が忍者と言う訳でもないのだが、イナズマは別の意味でも驚きを隠せない。

「今こそ、本当にあるべきクールジャパンを取り戻す!」

 イナズマは瞬時にARガジェットを装着し、別のルートから山口達のいる現場へと向かう。そのガジェットは、あの時のオレンジ色である。



 8月5日午後2時10分、混戦の戦場となっているエリアに唐突な警告表示が現れた。この表示は山口飛龍をはじめとしたランカーのARバイザーにも表示されている。

《このエリアは、まもなく別ゲームのフィールドに変更されます。プレイをされない方は、早急にエリアから退場願います》

 この警告メッセージを見たとき、山口は何のARゲームが組み込まれていたのか、分からなかった。

そして、ARガジェットの画面を確認すると、そこにはARアクションと表示されている。アクションと言うよりもシューティングに近い感じだったが。

警告表示に従い、山口は表示されたエリアより外へと退去する。他のメンバーも同じ対応をしたが、若手社長だけは退去をせずに抵抗を続ける。

「逃げるのか? それでは3次元アイドルコンテンツの完全勝利――最強コンテンツであると認める事になるが?」

 若手社長の方は、相変わらずの煽りスタイルで山口達を挑発するが、それに従うことなくエリアの退去を行う。



 同日午後2時13分、警告表示の後に表示されたのは使用されるゲームの変更についてだった。これに関しては、警告通りにフィールド退去をしなかった若手社長には表示されていない。

何故表示をされないかと言うと、彼のARガジェットが外部ツールを使用しているタイプと言うのもあるかもしれないが、それ以上に――。

「まずは、1曲目」

 オレンジ色のパワードアーマーが突如として姿を見せたと思ったら、突如として両肩のレールガンを展開して構える。

彼がDJイナズマなのは若手社長が知らないだけではなく、山口をはじめとしたランカー勢も認識出来なかった。

「何だ、あのバケモノは――」

 若手社長は周囲に突如として現れたアンノウンに対して攻撃を仕掛けるのだが、若手社長の攻撃が命中する事はない。一方で、イナズマのレールガンは的確にアンノウンを撃破していき、大差を付けていた。

十段の1曲目は南雲蒼龍の楽曲であり、トラウマを与えたと言っても過言ではないブリザードフォースと言うタイトルの楽曲。

南雲の曲パターンとも言えるトランス曲調、サンプリングボイス、独特の音使い、それと『3倍アイスクリーム』の空耳も実装している。

イナズマがテンポ良くターゲットに向けて攻撃を命中させているのに対し、若手社長の方はチートの力で物を言わせている印象だ。

「そう言う事か――」

 南雲が中止にする必要がないと発言した裏には、こういう意味合いがあったのかもしれない。実機では演奏出来ないが、ミュージックオブスパーダという別ステージでプレイする事が出来たからだ。

しかも、ご丁寧にもコースに収録されている曲は全てゲームに入っているうえに、曲サイズまで一緒だ。ここまで用意周到である事には逆に恐怖を感じている。

「南雲が何をさせようとしているのかは分からないが、その挑戦を受けようじゃないか」

 最後のターゲットを撃破したイナズマの曲ゲージは60%残っている。その一方で、若手社長の方は90%。どのようなトリックを使用したかどうかの察しは既に付いているが。



 同日午後2時20分、2曲目はクラシックアレンジ、3曲目はBPM300に近い高速曲と言う構成も全く一緒で、プレイしていてイナズマは更なる違和感を感じた。

「ここまで同じと言う事は、最後の曲サイズも同じになる。つまり――」

 イナズマが周囲を見回すが、何かが現れるような気配はない。そして、タイミングを見計らったように若手社長がイナズマに襲い掛かってくる。

「ミュージックオブスパーダ、それさえなければコンペでは我々の超有名アイドルタイアップ音楽ゲームが――!」

 全てを言い終わる前に、若手社長のARガジェットにはエラーメッセージが表示され、武器系ガジェットも全て機能を停止する。

「馬鹿な! システムロックだと!?」

 若手社長は何が起こったのか把握できていない。その中で、彼に止めを刺した人物は予想外の人物だったのだ。

その人物は若手社長の持っていたARガジェットを弾き飛ばし、それを自分の手元に上手く落とす。そして、目の前の人物が放った一言、それは――。

「チートを利用し、無限の利益を得ようと考えるのか。迷惑メールのメッセージに踊らされ、更にはネット炎上勢の口車に踊らされ――アイドルファンとしても許される行為ではない」

 若手社長の目の前に姿を見せた人物、それは何とエクスシアだったのである。何故、彼が唐突に姿を見せたのか。

「エクスシア! アカシックレコードにしか存在しない、架空のヒーローが――現実化したというのか?」

 若手社長はエクスシアが姿を見せた事に驚きを隠せない。

しかし、目の前にいるエクスシアには胸部分のアーマーや細部でオリジナルと異なるデザインが確認される。つまり、これが意味するのは本物ではないのだが……。

「貴様の正体は分かっている。まさか、あの提督を上手く操っていると思いこむとは……」

 エクスシアの発言を聞いた山口達は何の事を言っているのか分からなかった。提督と言う単語をエクスシアが知っているとは思えないからだ。



 同日午後2時23分、若手社長は目の前にいるエクスシアが自分の知っているエクスシアと錯覚していた。動揺している為か、偽者とも認識できていない。

「あの提督? 奴の事か。まさか――?」

 若手社長が気づいたときには、既に遅かった。その提督とはメビウス提督である。彼は、今まで超有名アイドル側のスパイを演じていたのである。それに加えて――。

『気づくのが遅すぎましたね。奏歌市だけでなく別プランの町おこしを計画していた春日部市等も取り込もうと考え、自分が推しているアイドルグループをファンでもない人間に押し付けようとした―』

「メビウス! 貴様、図ったな!?」

『芸能事務所に対して税制優遇するという話でもあったのでしょう。それこそ、ご都合主義その物。超有名アイドルを世界に広め、それだけを――』

「我々はコンテンツ産業を戦争の道具にしようなどと考えていない! 超有名アイドルを唯一神にしようと――」

『今の言葉、言質としていただきました。既に該当する施設には警察だけでなく国際警察なども駆けつけているでしょう』

「国際警察だと? そんな事、一言も言っていなかったぞ!」

 国際警察の単語を聞いて驚く若手社長だったが、メビウスの方は既に連絡を切っていた。

その後、駆けつけたアキバガーディアンに若手社長は拘束された。

その理由は『チートガジェットの使用』だが、実際は別の理由だろう。



 同日午後2時25分、4曲目の画面表示で止まっていた事にイナズマが気づいた。段位認定であれば、ゲームの進行が止まると言うのはリズムゲームであり得ない。

「ARゲームだから、進行が止まったのか?」

 イナズマの一言に対し、エクスシアの回答は――。

「止まったというよりは、今のプレイが無効になったというのが正しい認識かもしれない」

 目の前にいたエクスシアの正体、それは木曾あやねだった。彼女がメットを脱ぎ、ARギアを取り外すと――その姿にはイナズマも驚くしかなかった。

「本物のエクスシアは?」

「エクスシアは架空のヒーロー。それ以上でもなければ、それ以下でもない。目撃例があるとしても、それはコスプレイヤーに過ぎない」

「ARゲーマーではなく? イースポーツプレイヤーでもなく?」

「その通り。エクスシアがエクシアとなっていたり、バルバトスも別の名前になっている、あるいは別の単語をプラスする事もあり得るわ」

「そうなると、エクスシアは――」

「直球で言えば、ミュージックオブスパーダにはエクスシアという人物はいない。中の人などいない――と言う事ね」

 木曾の妙な説得力のある発言、それはアカシックレコードがどのような解釈とも受け取れる、扱い方に関しては個別案件であり、それ以上を運営が細かく関与しないという証明でもあった。

「それならば、木曾あやねとしての回答を聞きたい。ARゲームのイースポーツ化、あれを推進した張本人は誰だ?」

 木曾の目の前に姿を見せたのはARギアを解除し、改造軍服に着替えたビスマルクだった。そして、彼女は木曾の口から予想外の人物の名前を聞いた。

「音楽ゲームのイースポーツ化は大和杏であっているかもしれないけど、ARゲームのイースポーツに関しては――」

 木曾が振り返り、その目の前にいる人物は――。

「山口飛龍、あなたの名前が書き込みにあったわね」

 周囲のランカーや他のメンバーも驚くしかなかった。まさか、トップランカーの山口飛龍が全ての元凶だったのか?



 8月5日午後2時35分、木曾あやねの衝撃とも言える発言から数分後、周囲に姿を見せたのは先ほど撃破したはずのアイドルアバターのコピーだった。

「一体、何が起きたと言うのか――」

 このような状況になったのには理由があるのだが、その原因が未だに山口飛龍にあるとは南雲蒼龍も信じ難かったのである。



 同日午後2時30分、周囲のランカーも驚くしかなかった木曾の発言。その真意は、ネット上に拡散している閲覧数やフォロワー数稼ぎのつぶやきから引用した訳ではない。

「山口飛龍、彼が二人いたという解釈でいいか?」

 DJイナズマもARガジェットを解除し、学生服とも取れるような服装で姿を見せる。どうやら、オレンジ色のガジェットはロボット系ガジェットとは異なり、立体映像系のようだ。

「二人いるのはあり得ない。ARゲームで複数アカウント取得が禁止されているのは、誰もが知っている」

 木曾の方はイナズマの言う複数人説をあっさり否定。その理由に複数アカウント取得禁止を挙げる。

「それはエントリーネームでの話。HNやPN等は被る可能性も否定できない」

「確かに――エントリーネームであれば、複数は存在しないわ。しかし、ARゲームのフィールド展開をする為にもカードを読み込ませエントリーするのは必須よ」

「エントリー時に住所や氏名の記載も必須なARガジェットのワンオフ等はともかく、レンタルタイプやARガジェットを備え付けの物でプレイするゲームは、エントリーの必要性がない」

「ワンオフはアンテナショップを経由する以上、そこで二重登録がないか確認するけど。確かに備え付けタイプのゲームにはそうした機能は存在しない」

「それに、山口飛龍が単独の人間だと言った覚えはない。二人とは言及したが――」

 イナズマと木曾の会話の中で、さりげなく重要な事を言った気配がした。山口飛龍が複数いるという説。

二人が会話を続ける中、そこへ姿を見せたのは何と南雲である。一体、何をする為に来たのか。

「山口飛龍が二人いる説は、ないだろう。それこそ、ネット炎上勢のブービートラップだ」

 予想外の否定宣言にはイナズマも驚くしかない。しかし、南雲は山口と遭遇した事もある為に有力発言になるだろう。

「南雲蒼龍。確か、お前は山口の楽曲を自分の音楽ゲームに入れていたが――」

「その当時に本人と会った事はない。会ったのは、超有名アイドルファンの襲撃事件が騒がれた――あの時だ」

「会っていないだと? では、あの楽曲はどうやって受け取った?」

「受け取り手段が手渡しと言う手段だけと考えているのか? 確かに、光回線等の転送データを読み取るような超有名アイドル勢が問題視された――というWeb小説には見覚えがある」

「アカシックレコードがフィクションだけではないのは、ARガジェットやARウェポンの現実化を踏まえれば――」

 話の途中で、周囲に異変が起こる。先ほどのゲームの強制停止が引き金となり、回収していなかったデータが突如として復元されたのだ。

「ウイルスの類だったと言うのか?」

 驚異の再生率に驚くのは大淀はるかだけではない。周囲にいた一部メンバーも同じようなリアクションを取る。

しかし、驚き以外の反応をした人物がいた。それは――。

「想定外すぎるわね。まさか、ここまでの行動を起こす勢力だったなんて」

 今までの騒動がつぶやきサイト等に拡散された結果、それを見て駆けつける野次馬も増えてくる。その中には、夕張あすかの姿もあった。

「やっぱり、若手社長も利用されていたのか――別の勢力に」

 イナズマも南雲の言及したブービートラップの意味に気付き始めた。超有名アイドルが消える事で都合のよくなる勢力があるのだろうか?

その時である。突如としてアイドルアバターが復活、フィールドの破壊行為を始めたのだ。



 同日午後2時35分、アイドルアバターの破壊行為はビルや周囲の建造物に及ぶ……と思われていたが、アバターが攻撃をしてもすり抜けるだけで、実害は一切ない。

「一体、何が起きたと言うのか――」

 南雲は目の前の状況を信じられないような表情で、周囲を見回す。しかし、イナズマや鉄血のビスマルク、大和杏等の他のARゲーム経験者は適応能力が早かった。

「やはり、外部ツールがシステムに障害を与え、広範囲に被害を及ぼしている――」

 木曾の方も他のランカー勢がアバターを撃破していく様子を見て、これを何とかするしかないと判断し、ARブレードを構えてアバターを次々と真っ二つにし、データをデリートしていく。

「南雲蒼龍! お前もアガートラームのデータを見たというのならば、現実を受け入れろ!」

 大和は今にも南雲を殴り飛ばそうとも考え、近寄ろうとしたが周囲の妨害が影響して行けそうにない。

「これが、アカシックレコードで見た縮図――自分が求めていた物と言うのか?」

 南雲は混乱をしている状態ではないのだが、目の前の光景を否定したいような様子を見せている。その為か、南雲はARガジェットを展開していても攻撃する気配はない。

ミュージックオブスパーダのARガジェットは音楽を演奏する物として運用する予定だった。

それが、様々なWeb小説やアニメ、アカシックレコードに影響されていく内に、自然と今回の仕様になったのだと言う。

仕様に関しては、今までも何度か真相を聞かれても回避を続けてきた南雲も、今回に限ってはショックを隠しきれない様子だ。

「コンテンツ業界の抱える闇――超有名アイドルファンが自分達以外のライバルを駆逐すると言う現実を見せ付ける。これを訴える為に、無意識でアカシックレコードを――」

 南雲の伏線を語るような話が続く中、他のランカー勢は無限に増え続けるアイドルアバターをデリートし続ける。しかし、それでも無尽蔵に現れるアバターに対処するのにも限界はあるだろう。

「これが、ミュージックオブスパーダの真実! 自分が超有名アイドル投資家や夢小説勢、悪目立ちするユーザーに訴えようとした――コンテンツ業界の抱える闇を公表する為に、このような手段に出た!」

 いつまでも現実に目をそむけるわけにはいかないと判断した南雲は、遂に覚悟を決めて真相を話した。

今までのインタビューでは語らなかった事――下手に話せば炎上商法とネット上で叩かれるのは目に見えている。それを先延ばしにした結果、被害は拡大し続け、現在に至っていた。



 同日午後2時40分、南雲の話した真相はネット上で拡散すると思われたが、ここで予想外の事が起こった。

「――そう言う事か」

 ビスマルクが何かを懸念し、周囲のギャラリーを見ると、そこにはギャラリーに混ざるアキバガーディアンの私服部隊がいた。

ギャラリーの中に悪目立ちして超有名アイドルが今の日本に必要なコンテンツだと掲げ、大規模なデモに発展する事をアキバガーディアン側が恐れているのだろう。

それ以外にも超有名アイドル勢の悪行を公表しようとする探偵の姿もあった。何故、探偵がこの場に複数いるのだろうか?

「倒すべき敵は、コンテンツ産業を阻害するフジョシ勢や夢小説勢、それを陰で操る転売勢に――」

 大和の方は本気で今回の元凶を憎んでいるようにも見えた。アガートラームの一撃も、次第に威力が増強されているように感じられる。

「この状況を見て嘲笑う――」

 大和はこの先を言おうと思ったのだが、そこで拳は止まった。改めて大和は考える。本当に、チート勢を根絶すればコンテンツ産業は正常化するのか?

「南雲蒼龍! あなたは分かっていたはずです! 一方のコンテンツ勢を根絶したとしても、それは超有名アイドルファンや炎上商法をしかける勢力と同じだと」

 大和を初めとしたメンバーが声のする方角を振り向くと、そこにいたのは大淀はるかだった。

「ミュージックオブスパーダが音楽業界の縮図であるという事、それを訴える為にさまざまな仕掛けをしていた事も――。しかし、それはコンテンツ戦争を起こさせないようにする為の物だと言う事も知っています」

「大淀、分かっているはずだ! 発言が炎上勢力によって歪められ、次第にコンテンツの潰しあいを演出され、それをまとめたサイトの運営が莫大な利益を得るという構図を!」

「ネットのまとめサイトが、全て炎上勢力や芸能事務所と組んでいる訳ではない! そうしたセミナーの存在、超有名アイドルが年間CD売り上げで国家予算を越える売り上げを記録した事、犯罪資金が超有名アイドルに流れている事――」

 大淀が他にも訴えようとした時、アイドルアバターとは違う存在が大淀に襲い掛かる。しかし、それを一刀両断にした物、それはゴッドランカーシステムを使用した山口のシールドビットだった。

何故、このタイミングで山口は大淀を救ったのか。それは大淀本人には何となくだが分かっていた。

「一つの事件が起きれば、そこからドミノ倒しの様に偽の情報が伝達していく。それこそがコンテンツ業界危機。それを演出しているのは、間違いなく自分達の理想を他人に押し付けるフジョシ勢や夢小説勢だ」

 一つの決着をつけなければ、そこから先には進めない。そう判断した山口はアイドルアバターを生み出している元凶をたどる為、ゴッドランカーシステムで次々とアイドルアバターをデリートしていく。

「この動きは――トップランカーの時と変わらない!」

 ギャラリーで見ていた夕張は、トップランカー時の山口と変わりない動きに驚いていた。動画サイトでは過去の人と言うコメントもあったが、それが嘘みたいな動きである。

「やはり、自分で見た物でない限りは――」

 DJイナズマもアサルトライフルでアイドルアバターを撃破し、山口を援護する。

「全てはソースの信ぴょう性が物語る!」

 長門未来もゴッドランカーを解放、山口の援護をする為にキャノン砲で遠くのアイドルアバターを撃破していく。

「情報社会が生み出した弊害がネット炎上勢だと言うのならば――!」

 周囲の野次馬の一部がフーリガン化し、超有名アイドルの夢小説勢を援護しようとした所、それらをARスタンブレードで動きを止めていくのは、私服姿の明石春だった。

その明石に呼応するかのように、一部のランカー勢もフーリガンを抑えるのに協力。芸能事務所から報酬を受け取っているフラッシュモブも参戦するが、それらを駆逐しているのは別の人物である。

「私たちは事件を煽るような勢力も許さない! アキバガーディアンは、命を狙う様な勢力の横暴も許さない!」

 フラッシュモブを駆逐しているのは、アキバガーディアンの別任務でメイド服に着替えていた信濃リンだった。



 同日午後2時45分、山口の探していた黒幕が遂に姿を見せた。

「こちらの対抗手段でさえも、全てふさぐとは。君達はリアルチートか?」

 若手社長に似たような服装だが、こちらはドラゴンの覆面をしているという違いがある。

「あなたはどこの勢力ですか?」

 大淀が質問をするが、それに答えるような気配はない。そして、次の瞬間には何かを言おうと動き出すのだが……。

「偽の勢力は言わせない。あなたは、自分達の都合よくコンテンツを望んでいる。それを実現させる為、ネット炎上勢や夢小説勢等を利用した」

 ドラゴンの覆面の前に姿を見せたのは、黒いエクスシアとも言えるようなデザインのARアーマーとビームチェーンソー型のARガジェット――。

「貴様――加賀ミヅキか?」

「そうだとしたら? 既に若手社長はアキバガーディアンが逮捕済み、あなたの切り札もアガートラームの前には無力――勝ち目はない」

「アガートラームは外部ツールやチートにのみ力を発揮する――いわゆるカウンタープログラム。しかし、このガジェットがチートでないとしたら?」

 ドラゴンの覆面の余裕、それは彼の持っているスピアタイプのガジェットにあった。これは、出回っている違法パーツや外部ツールが使われていない為、アガートラームでは撃破出来ないのだ。



 同日午後2時50分、ドラゴンの覆面に対し、万策が尽きたというランカー勢。抵抗はするものの、彼のARガジェットが外部ツールや違法パーツでなければ、ガイドライン違反者用のプログラムも使えない。

「所詮、ランカー勢もこの程度か。所詮はゲーマーに過ぎないお前達が、プロの格闘家に勝てると――」

 ドラゴンの覆面、その正体はプロの格闘家だった。それでは、体力に差が出るのも無理はない。

運動能力がなくてもARゲームでは特に問題視されない――それが仇になった形だ。

「これは、あくまでもARゲームだ! 今、ようやく分かった様な気がする。お前は連敗記録を作った現実から逃げる為、ARゲームでストレスを発散させようとしている」

「そんなハッタリ、通じる物か」

 山口の一言を聞き、ドラゴンの覆面が少し動揺をする。どうやら、図星らしい。そして、山口の方もSOFに関して考えている事があったのだが、今は2足の草鞋を履いてプレイできる程の余裕はない事も悟った。

「ARゲームを楽しむと言う事、それはゲーム内に炎上するような争いごとを持ちこまないことだ!」

「ならば、どうやって敗北の悔しさを晴らせばいい! 弱い相手を倒してストレス解消するのが何が悪い!」

 山口の正論に対し、ドラゴンの覆面は反抗する。どうしても、やる気でいるらしい。

「そういう、初心者狩りをするようなプレイヤーがいるのか!」

 山口の怒りは頂点に達しようとしていたが、それを抑えて山口はシールドビットを放つ。そのスピードはゴッドランカーシステムなしでも、それに匹敵する速さだ。

シールドビットは的確にドラゴンの覆面に命中、最終的には彼の覆面を破壊する程のダメージを与えた。

「山口飛龍――その名を騙ったのが、仇になったのか」

 ドラゴンの覆面は気絶する前に、意味深な一言を残した。これが何を意味するのか、山口には分からない。

「山口飛龍、山口は、あの人物の名字でもある。鬼の――」

 ビスマルクは何かに気付き、それを山口の目の前で言おうとした。しかし、それを無言で止めたのは南雲だったのである。



 同日午後3時、一連の事件はドラゴンの覆面をした人物が考案した作戦と言う事で解決する流れになった。

彼の体力はプロ格闘家に匹敵するのだが、素顔を見たアキバガーディアンのメンバーは違うの1点張り。

「プロ格闘家と言うのも、格闘技界を潰そうと言うデマかもしれない」

 明石は素顔を見た上で結論を述べるが、それが正しいかは分からない。むしろ、明石にとってはどうでもよくなっている。

「結局、こうした事件が起きないようにする為に規制法案を提案した方が――」

 信濃が予想外の話を切り出した。こうした事件が、後に大規模がデモに発展し、そこから流血のシナリオになったとしたら?

「それだけは、止めた方がいいわ。規制をしたとしても、それをすり抜けて第2、第3の勢力が力をつけたら、それこそ大災害を引き起こす」

 それを止めた人物、それは以外にも大淀である。仮に超有名アイドルを規制したとしても、それをすり抜けて同じような事が起こらないとは限らない。

「一定のルールを作成し、それに従ったコンテンツを流通させるのは構わない。しかし、過剰な規制はコンテンツを悪用するような勢力を取り締まれたとしても、そこから生まれたコンテンツが日本に――」

 大淀は過剰な規制法案はビジネスチャンス的な部分でも不利になり、結局は日本の為にもならないと考えていた。

超有名アイドル投資家の様な勢力を何とかして排除するのは必要だが、それに他のコンテンツが巻き添えを食らうのはナンセンスとも思っている。

「アカシックレコードは、時に人を救う事はあるが、人を傷つける事もある。それを改めて考えさせられる事になった」

 南雲は、遠目から一連の流れを見ていた。そして、アカシックレコードは人を救う技術を提供する事がある一方、軍事に利用されかねない側面がある。それを南雲は再認識した。

「だからと言って、ARゲームが即座に大規模なデモを引き起こすという風評被害は起こらないが――」

 最も心配だったのは、一連の事件後の動き――事件後の動向でもあった。

周囲にアキバガーディアンがいてデモの誘発を防いだようだが、これをつぶやきサイトのつぶやきで知った人物が拡散する状況は予想出来ている。



 同日午後3時30分、ワイドショー番組は一連の事件で持ちきりと思われたが、別のニュースを取り上げていたのだ。

『2015年の年間CD売り上げに不正があったとして、ランキングの無効と順位の入れ替えを――』

 別のニュースとは、若手社長を逮捕した事で判明した詐欺事件で得た莫大な金の使われ方である。

その使われ方とは、超有名アイドルのCDを投資目的で購入していた事だった。

そして、CDランキングを賭けの対象にしている闇カジノに――という方法で無限の利益を得る。

ネット上では、この行為に関してチートであると即座に拡散、気が付くと海外の日本大使館に抗議が相次いだという。



 同刻、事件現場ではテレビや雑誌のマスコミも集まっていたのだが、それを一斉に撤収させたのは――。

「申し訳ありませんが、この事件はマスコミによって超有名アイドルの宣伝に利用される可能性がある為、お引き取りをお願いします」

 夕張の一言で、何かを悟ったマスコミが一言もしゃべることなく撤収し、それに続くようにいくつかのテレビ局が撤収した。

アニメがメインの某テレビ局は奏歌市への取材は指示ていない為、ここだけが平常運転になっていたのである。

その為、テレビ視聴率の結果がネット予想の通りだったのが判明するのは、数日後のことだ。



 8月7日午前10時、とあるゲームセンター。そこではDJイナズマが仕切り直しの十段挑戦を行っていた。

本来であれば、ARゲームの使用出来るフリーフィールドなどで行うべきだが、現在はアキバガーディアンが現場検証を行っていて一部エリアが閉鎖されている。

「4曲目、辿り着いた」

 3曲目までは数日前のミュージックオブスパーダで覚えており、その経験が生かされていた。何故、腕が動いたのかは彼にも分からない。

【コンフリクト】

 4曲目の曲タイトルを見て、イナズマは目が点になっていた。確か、コンフリクトが意味するのは――。

曲に関してはトランス系だが浮き沈みの激しい曲調、歌詞も存在するが『3倍アイスクリーム』のような空耳はない。

作りとしては音楽ゲーム向きのJ-POPにはないような曲超と言える。それに加え、ムービーの方も作り込みが凄く、そのクオリティは映画クラスと言ってもいい。

譜面の方は、上から下にノーツが落ちてくる系統だが、さりげなくロングノーツと言う鍵盤を押し続けるような物も確認出来た。

しかし、発狂譜面の様な物が降ってこようと、これをクリアしなければ十段合格とは言えない。

イナズマを含め、十段に挑戦したプレイヤーにとって、この曲は壁だったのだ。



 ――十段に破れ去ったプレイヤーの為にも、クリアしなければいけない――



 イナズマは、そう考えていた。この十段、公式では仕様と言う事で処理されており、十段を飛ばして皆伝を合格する者もいた。

それ位に、このゲームにおける十段はクリア不能の十段と言われていたのだ。

あくまでも、このバージョンだけであり、他のバージョンの十段は、ここまで難しくはない。

「これを抜ければ――」

 思わずプレイしているイナズマも口に出す程、終盤に振ってくるノーツの大雨と言える譜面……一歩間違えれば、ここで閉店もあり得た。

しかし、彼は最後まであきらめなかった。その目つきは、発狂譜面を何としてもクリアしようと言う執念さえも感じる。



 そして、リザルト画面表示――。そこには十段合格の文字が表示されていた。

総合スコアは100%とは言えないが、不正手段等を使わない正攻法の合格は――彼を含めても少数である。

そのリザルトが表示されると、周囲にいたギャラリーから拍手が鳴り響いた。気が付くと、その数は数十人に。

さすがにゲーセンの収容人数を超えるようなギャラリーがいた訳ではないが、一部で以前の挑戦を見ていた人物もいたようだ。

「十段合格おめでとう。君の覚悟、見せてもらったよ」

 声をかけてきたのは、以外にも山口だった。コンフリクトの作曲者は自分ではないが、今回のプレイを見て何か思う所があったらしい。

「SOF、頑張ってください」

 イナズマの一言、それは山口にとってもサプライズと言ってもいい。それ位に唐突な物だったのだ。



 8月7日午後1時、大和杏は私服と言えるか微妙な服装でゲーセンに姿を見せた。

「ここにはARゲームがあるみたいだな」

 大和が周囲の機種を見回すと、見覚えのある様な機種が複数存在する。

このゲーセンがある場所、それは竹ノ塚駅近辺。つまり、草加市ではなく足立区だった。

「ARゲーム自体は日本全国に広まっている。その傾向は数年前から存在していた」

 大和と一緒にいる人物は、インナースーツにARゲーム用のバイザーという異色の外見をしている。

彼女に関して言及するのは大和の方も、鏡を見ているような気分になる為かツッコミを入れない。

「明石春、お前はARゲーム――コンテンツ業界に何を見たと言うのか」

 大和の隣にいた人物、それは明石春である。アキバガーディアンの方も落ち着いたため、今回は休みを取っているようだ。

「何かを直接見た訳ではない。アカシックレコードの未来も――マスコミやネットで悪目立ちをするような勢力に利用され、やがては炎上する」

「そこまで悲観的になるような物か?」

「投資詐欺や振り込め詐欺に悪用されそうな方法がネットに流出し、それを悪用すれば小学生でも億万長者になれると言うキャッチコピーと共に絶賛炎上中だ」

「投資詐欺と超有名アイドル商法に関連性があると?」

 立ち話も……と言う事で、ゲーセン内に併設されたフードコートで食事をする事にした。

「相変わらずのちくわ風パフェか?」

 明石は大和が持ってきた初めて見るパフェに対し、驚きの反応を見せる。ちくわは間違っていないが、良く見るとチョコレートである。

「商品名は違うが――そう言われる事は多い。ネット上でも、似たようなパフェは実在するらしい」

 大和の方は、黙々とパフェの方を食べ始める。明石の方はポテチラーメンとコーラの組み合わせで、大和の方も吹きだしかける程に衝撃だった。

「食べ物の方は置いておいて、本題に入らないか?」

 切り出したのは明石だった。その為か、ポテチラーメンには手を付けていない。別々になっていたポテトをラーメンに投下しているのだが……。



 改めて、大和と明石は情報交換をする事になった。アガートラームから引き出した情報と超有名アイドルの芸能事務所関係の動きを交換するらしい。

「週刊誌が報道している物は、大体が一部の内容を脚色し、売り上げが上がるように細工した物だろう。ネット上で見かけるクローン系二次創作SSよりも劣化しているような記事に、金を払うとは思えない」

「脚色しているかは不明の一方で、一部マスコミが偽情報を鵜呑みにしてスクープとして報道仕様と言う動きの方が危険だ」

「それが、フィクションとノンフィクションの区別がつかなくなる世界――アカシックレコードでも懸念されている、架空と現実の見分けがつかなくなる事象――」

「アキバガーディアンは悲観的な情報を拡散し、世間の同情を得ようと言う事か?」

「それはアガートラームを持っている大和杏、そちらにも該当するのでは?」

 話の方は色々な意味でも平行線だが、そこから炎上するような気配はない。お互いに同じ事件を繰り返すことは不利益と判断しているのだろう。

「外部ツールやチート技術は新しいゲームが出続ける限り、品を変えて広がるのは目に見えている。だからこそ、そうした物に対しての対策が必要と政府は考えるだろう」

「さすがに国会が経済発展の為に外部ツールやチートを推奨するとは思えない。そうした世界は、Web小説の異世界転生系だけにして欲しい物だ」

 話が決着した辺り、大和はさりげなくポテチラーメンを頼もうと思ったが、値段的な部分で断念をする事になった。

「これで800円取るのか?」

 大和の表情も若干ひきつっているように見えるが、ちくわ風パフェも値段としては似たような物なので、節約と言う意味もあるのかもしれない。



 同日午後2時、大和と明石はゲーセンで色々なゲームをプレイする事にした。音楽ゲーム、格闘ゲーム、それ以外にもデジタルカードゲーム等……。

「ARゲームと言っても、ARガジェットを使わない物もあるのか」

「全てのARゲームが自前のガジェットを必須だとは限らない」

「百聞は一見にしかず――と言う事か」

 明石はARガジェットを使う作品しか見覚えがなく、使わない系統の簡易型等は名称を知っていても現物を見るのは初めてだった。

「ARガジェットを使わない物も、超有名アイドル騒動などが原因で風評被害を受けた事がある」

「様々なゲーム機種があるのに、それをまとめて1機種の名称で呼ぶのと同じ現象か」

「知らない人間からすれば、ARゲームと言うとガジェットを使用する機種も使用しない機種も同じに見えるのだろう」

「アキバガーディアンでも一部ジャンルに関して、同じように認識している人間がいる。結局、市民権が得られていないコンテンツは、何処も同じなのだろう」

 結局、ARゲームも市民権が完全に得られていないと改めて痛感する事になった2人だった。

「私は……アガートラームの意思や運命等に影響を受けずに、ARゲームを極めようと思う」

 大和は拳を握って宣言する。今まではアガートラームに依存し、アカシックレコードに引きずられる傾向になったが、今度は自分の意思でARゲームを極めてみるのも悪くない、そう考えていた。

「こっちとしては、コンテンツの正常流通を阻害する存在を正していく――と言うべきか。間違ったコンテンツ流通は、そのコンテンツに対しての間違った認識を植えつけてしまう。炎上商法のような存在を行わせない――それが実現できるように約束する」

 アキバガーディアンでも根絶を宣言したり、中には犯罪に直結するような勢力は法律で規制すべきという勢力もいた。

そうした力技のゴリ押しでは、ARガジェットのガイドラインで禁止している軍事利用に直結する可能性が否定できない。

明石は今までの事件、過去に見てきた物を生かすという意味でも、正しい意味でのコンテンツ流通を阻害する炎上商法等を行わない体制作りを急ぐ事に関して大和に約束した。



 8月8日午前10時、超有名アイドルに関する錯綜した事件、いわゆる投資詐欺事件に関しての全貌が明らかになった。

『速報です。アイドルグループ――の支配人が投資詐欺を主導したとして緊急逮捕されました』

 テレビには、支配人の逮捕されるシーンが流れる訳ではなく、遠方からの秋葉原にある劇場を映し出している。

そこにマスコミが詰めかけ、更には警察も出動する羽目になっていた。余談だが、アキバガーディアンは非関与らしい。

『緊急逮捕されたのは――容疑者。警察によると、ネット上に拡散していた所属アイドルのCDを投資として購入すれば、100倍の利益が出ると――』

 ネット上で拡散し、小学生も真似をするような詐欺の方法――それは、超有名アイドルのCDを購入し、その特典をオークションサイトに転売すると言う単純明快な物。

だからこそ、ネット上で大量に拡散すると同時に、被害者を大量に生み出す結果となったのかもしれない。

こうしたコンテンツ流通を政府が推奨しているという嘘が出回り、それに対してネットが炎上する等の事件も起きたようだが、その当時に大きく報道される事はなかった。

逮捕されたのがアイドルグループの劇場支配人であり、絶対的な力がある人物と言う事もあるのだろう。

こうしたニュースを報道しないようにテレビ局へ圧力をかけるのは容易だった。この辺りは即座には判明しない為、全貌解明には時間がかかる。

今回の劇場支配人逮捕、これに関しては若手社長が超有名アイドルを利用した振り込め詐欺グループの主犯格だったというのも理由の一つだ。

しかし、このアイドルグループの知名度は非常に高く、国民の反発も避けられないという事もあって具体名を出せない大人の事情もあった。

これが即座に変える為には、このアイドルグループに関する報道規制が政府による物だったのかを聞き出す事にある。



 同日午前11時、メビウス提督が姿を見せたのは秋葉原ではなく北千住にある警察署である。

何故に北千住なのかと言うと、秋葉原で警察を動かすとアキバガーディアンがうるさいから――だそうだ。

「ひとつだけ確認したい事がある」

 メビウス提督が姿を見せたのは、囚人を捉えているような牢屋ではない。応接間みたいな場所である。

「政府与党が超有名アイドルに税制優遇し、コンテンツ産業で唯一無二の存在になるように主導していたというのは嘘――で間違いないな」

 彼の口方出たのは意外な言葉だ。普通であれば、ここは嘘ではなく真実なのか確認する所のはずだから。

「支配人によると、政治家との関係はあったようですが……癒着などは確認できないようです。押収した書類を詳しく見ないと、具体的な回答は無理ですが」

 メビウス提督の前にいた警察官の男性は、断言も出来ないような少し弱気な口調で答える。しかし、それでメビウス提督が激怒するようなことはなかった。

これに関しては、警察サイドも安堵しているようだが……真相の究明には時間がかかるのが現状だ。

一連の事件が『超有名アイドルの仕業』というネットスラングで決着をつけられれば、というネットユーザーもいるかもしれない。

しかし、こうした事件は慎重に取り扱わなければ、アフィリエイト系まとめサイト等が自分達の利益を出す為に悪用するのは確定的に明らかだ。



 同日午前12時、メビウス提督はアキバガーディアンの北千住支部ではなく、秋葉原の本部へ顔を出した。

「メビウス提督――資料は見せてもらった。超有名アイドルでもない、夢小説でもなければ、フジョシでもない勢力か……」

 会議室で書類の見定めをしているのは、アキバガーディアンの支配人と追われる若い男性だ。

彼は元箱根の山の神と言われていたのだが……今はアニメやゲームに興味があった事もあり、アキバガーディアンの指揮を担当している。

実際に指揮と言っても、そんなに大層な事はしていないのだが、下手な事を言うと減給もあり得るので止めておく。

「こちらとしては、コンテンツ正常化の為にも悪目立ちの勢力等を一掃したいのですが。それも、政府が規制法案を出す方向とは別の手段で」

 メビウス提督が提出した書類、それは新たなARゲームに関する企画書だった。

その中には政府とは隔離した独立機関を作り、そこでフーリガン化したファン等を取り締まると言う物らしい。

これを実現させれば、悪質なファンの取り締まりが大規模な破壊行為等と思われない。これらも全てARゲームのプレイ配信と認識させる事が出来る。

「しかし、これも下手をすればゲーム脳等の問題を掘り返す事になる。こちらとしては、そういう展開はご免だが」

 山の神は色々と悩みを抱えている。各種コンテンツのファンによる騒動が、いわゆる暴力団の抗争にとって代わるような物――と認識されるのではないか、と。

「ゲーム脳等の問題は、政府にも説明責任等が生じるでしょう。さまざまな誤解が一連の動きを止めてしまい、流血のシナリオを生み出すのは避けたいのです」

 メビウス提督は若干本できある。彼もARゲームが人の命を奪う様な凶器であってはいけないと考えている人物だからだ。

「こちらとしても流血を伴う様な事件に発展し、海外から日本のコンテンツに対する風評被害が出るのは――」

 山の神が即決しようと考えていた所で、会議室にノックなしで姿を見せたのはメイド服姿の木曾あやねだった。

木曾の方はメビウス提督の案に反対する為に姿を見せた訳ではなく、別の用件で用があったらしい。



 10分後、メビウス提督が席を外し、今度は木曾が山の神に直訴する。

「過去にあった事件、それを踏まえればコンテンツ流通にグレーゾーンがあったのは明白です。我々としては、グレーゾーンを認めるのではなく、ガイドラインを更に――」

 木曾に関しては山の神に面会を希望していた。彼女はアキバガーディアンではなく、フリーと言ってもいい。夕張あすかの様にキサラギ等に所属してはいない。

「君の言いたい事は分かる。コンテンツ業界の歪み、それを正す必要性があると」

「その通りです!」

「確かに急務なのは間違いないが、アキバガーディアンの人員不足は知っているだろう?」

「ARパルクール、それ以外にも複数のゲームに調査員を派遣、更には秋葉原の治安維持担当――他にも複数ありますね」

「そう言う事だ。他の勢力も取り込めれば、実現性は増すだろう」

「残念ですが、キサラギも別の会社も目的が同じでも手段が違います。それに、利益を欲しがるようなイナゴ組織もありますので――」

「だから、我々アキバガーディアンだけで行うと?」

「さすがにネコの手を借りたいのは知っています。なので、こちらもロハで行動して欲しいとは言いません」

 2人の話は続き、木曾がある書類を山の神に提出する。書類と言ってもタブレット端末であり、紙の書類ではない。

「なるほど。遊戯都市奏歌の力を借りるのか」

「それ以外にもARパルクールの提督達も話が分かるようですので、そうした勢力の力を借りるのです」

 最終的に、木曾の計画はアキバガーディアン主導ではなく、複数組織からなる集合体で実行される事になった。



 同日午後1時、木曾はゲーセン近くのラーメン店で遅い昼食を取っていた。彼女の目の前には、何故かポテチラーメンがある。

「あの計画が始動したとしても、現実化するには時間がかかる。今は超有名アイドル勢が下手に暴れて、炎上騒動を起こさなければ――」

 木曾は色々と愚痴をこぼすのだが、それを素直に聞くような客が存在するとは思えない。

それに加え、木曾のメイド服姿を見てメイドカフェやその手の風俗関係と思う人物もいるだろう。その為か、木曾とは距離を取っているお客が多かった。

「どちらにしても、ARゲームが市民権を取る事があれば、こういう状況も減る可能性は増えるかもしれない、か」

 考えていても仕方がない。木曾はARゲームが市民権を勝ち取り、変な誤解を受けない環境を作ることが重要と思った。



 8月8日午後1時15分、秋葉原でメイド服姿の木曾あやねを目撃したのは、こちらも人の事が言えない恰好をしている人物だった。

「敢えて、声はかけないでおきましょうか」

 インナースーツに巨乳、それに色々な意味でも周囲の目線を釘付けにしていたのは夕張あすかである。

彼女が秋葉原へ立ち寄ったのには、一つの理由がある。それは、ある建造物を見る為だ。中に入る訳ではなく、単純な見学とも取れる程の。

夕張は、周囲の目線を気にせずに目的地へ向かう。それに対し、アキバガーディアンが彼女を捕まえないのか……と考える通行人もいた。

秋葉原の治安を守るのであれば、露出度の高いコスプレをしている彼女を捕まえるのが……という認識でいるようだ。

しかし、彼女が暴走行為をするような事がない為、アキバガーディアンも様子見をしているのが正解だろうか。

徒歩で5分弱、夕張の目の前には綺麗と言うには微妙な気配のするゲームセンターが見える。

「このゲーセンで、ある事件が起きたことでアキバガーディアンが生まれたのは――別の世界線での話」

 夕張はゲーセンに入ることなく、そのまま立ち去ろうとした。音ゲーの遠征勢や聖地巡礼等でゲーセンに訪れる客は店内に入るのに……である。



 夕張は本来であればキサラギと言う組織の指示で超有名アイドルの駆逐という任務を与えられていた。

しかし、それがどれだけ愚かだったのか――夕張はネットのつぶやきまとめ等で知ったのである。

最終的には、1人が抵抗したとしても大多数によって黙殺されると判断。彼女は途中で超有名アイドルの駆逐を中止した。

結果的には若手社長が逮捕された事で一連の事件も真相の一部が暴かれ、それが超有名アイドルにとっては致命傷となる。

「そう言えば、例のFPSゲームにおけるタイアップも白紙になったと、ゲーセンの張り紙にあったような」

 先ほど立ち寄ったゲーセンの店頭に貼られていたお知らせには、あるFPSで行われる予定だった超有名アイドルのタイアップイベントが白紙になったと書かれていた。

理由は明記されていなかったものの、ネット上ではコラボ予定だったアイドルの逮捕、芸能事務所で不祥事と言った物が言及されている。

「熱しやすくも冷めやすい。この性格を改善しないと、何かに打ち込む事も不可能なのかな?」

「それはない。世の中に絶対と言う言葉が信用できないように、不可能と言う物は減りつつある。ただ一つの例外を除いて」

 夕張の一言に対し、回答した人物――それはDJイナズマだった。



 午後1時30分、ゲーセンの2件となりのコーヒーショップ、そこで夕張とイナズマはコーヒーを片手に雑談をしていた。

テーブルには、パンケーキとドーナツ、それにチョコ焼きが置かれているが、手を付けているのはチョコ焼きのみである。

「技術が発展していく内に、不可能と呼ばれていたことが可能になりつつある。それでも不可能な事もあるが――ファンタジーと呼ばれる分野の世界だ」

「さすがに、そこまでは実現する事はないでしょう? 超有名アイドルが手にしようとした賢者の石も、元々はファンタジーの世界にある存在と聞いている」

「ファンタジーの概念も実現させようと動いているケースは存在するが、仮に実現すれば世界崩壊という可能性もある」

「世界崩壊と言われても実感は沸かないわね。むしろ、日本国内で暴力団の抗争に代表されるような物も一斉摘発され、さまざまな物が規制された結果――」

「そこまでにしておこう。この話は脱線をすると、とんでもない事になりかねない」

 2人で話をしていたが、ファンタジーの話題から別の流れになる可能性がある為、イナズマの方が話を止めた。

「君を呼び止めたのは、これを見て欲しい為だ」

 イナズマがタブレット端末で表示しているサイト、それはアカシックレコードを扱っているサイトだった。

そこには、アカシックレコードの用語に関して解説が書かれているのだが――。

「キサラギが――消えた?」

 夕張が所属していたと思われているキサラギが記載されていなかったのである。

これが意味するのは、キサラギがアカシックレコードに最初からなかったという可能性だった。

「厳密に言えば、キサラギという企業は実在する。しかし、アカシックレコードからは記述が消えた」

「その理由を聞きたい――と言う事?」

「理由などいくらでもある。企業からのクレームで削除、事実誤認を招く、パロディが過ぎる、商標権を侵害する――消された理由など、いくらでも推測出来るだろう」

「そこまで知っているのに、どうして引きとめたの?」

 夕張も引きとめた理由を知りたかった。あの時の回答は……それも知りたかったが。

「引きとめた理由は、こちらの写真にある」

 タブレット端末を上手く操作する仕草は、何かで覚えたのだろうか。夕張が関心する中、イナズマはサイト内に存在する画像の載っているページを表示させた。

「それは、ARパルクール? ちょっと違うわね。一体、これは何なの?」

「武装楽器と言われているが、あくまでも仮の商品名だろう。商標登録がされていない以上は、フェイクと言う可能性も大きい」

 イナズマも画像の詳細は語らなかったが、ARゲームにも新機種が出ている事を知らせたかったのだろう。

そして、それに関しての考えを夕張から聞きたかったのかもしれない。



 午後2時、コーヒーショップを出た2人はゲーセンの方へと向かう事になった。先ほど、夕張が入店しなかった店である。

「自分は超有名アイドルを駆逐すれば、悪質な商法が全て規制されると信じて疑わなかったのかもしれない」

 夕張はイナズマに対し、そう語る。それに対する答えをイナズマは無言で回答を拒否しているようにも見えた。

「結局、これって超有名アイドルに縛られていた事なのかもしれない。何処かの『全て妖怪のせい』とか――そうしたレベルで超有名アイドルを憎んでいたのかも」

「超有名アイドルでも、そこまでの現象になれば――それこそ神の力と言われるだろう。人間が神の称号を得ることは不可能なのかもしれない」

 イナズマは人間が神と呼ばれる為、違法な手段やチート行為、それこそ犯罪に手を染めてでも『神』と呼ばれる事に対して快感を覚える人間――そうした犯罪者の事例をいくつも見ていた。

だからこそ、イナズマは超有名アイドルが神ではなくてただの人間であり、神にされたのはアイドル投資家や一部の悪目立ちするファンの存在があってこそ――それを訴えたかった。

「夕張あすか、これだけは言っておく。超有名アイドルを神として信じるのは別に構わない。しかし、それを周囲に拡散し、世界規模で超有名アイドルを巡っての大戦が起こるとしたら、それは自分達が止めなくてはいないだろう」

 イナズマの一言、それは今の夕張には分からないような専門用語だらけなものではないが、理解に少し苦しむような言い回しである。

「自分も超有名アイドルが偽物の神である事は分かる。だからこそ――」

 夕張は何かの続きを言おうと思ったが、途中で止めてゲーセンへと入店する。イナズマの方も、それに続くように入店した。




 8月10日午前10時、アップされていた動画に関する話題がネット上でも取り上げられる中、様々な動きが別の分野であった。

【違法なアイドル投資家が逮捕されたらしい。なんでも、CDを購入する資金を有名テーマパークのチケットの転売で得た利益で――】

【そうした話題は、アカシックレコードの中のみ……フィクションの世界じゃないのか?】

【ここはアカシックレコードの実験場ではない。むしろ、3次元アイドルに関する規制は歓迎すべき物のはずだ】

【彼らはネット炎上勢やまとめサイト管理人、その他の悪乗りする勢力を利用し、超有名アイドルコンテンツで世界を掌握しようとした】

【それに利用されたのがアカシックレコードだと聞く。あの中には――】

 一時期はパンドラの箱とも言われたアカシックレコード、その中身を知ったことで混乱するネット住民が存在する。

しかし、こうした動きは一部コンテンツ勢を潰す為の自作自演であると判明したのは……わずか5分後だった。



 同日午前10時5分、一連のまとめに関してアキバガーディアンに通報した人物がいた。

この人物のおかげで、デマを流してコンテンツ流通を妨害する勢力を発見出来たのは大きい。

アキバガーディアンや一部のネット浄化を望む組織が共同で違法情報の取り締まりシステムを導入した結果、様々な事件の背景には共通する何かがあった。

単純明快に説明すれば、ライバル潰しである。彼らは自分達が儲けを得られる勢力であれば、儲けが少ない勢力を切り捨て、ネット炎上で再起不可能にすると言う物である。

「コンテンツ流通を阻害する勢力の正体が、まさか転売屋とは……灯台もと暗しというべきか」

 草加市内のゲーセンでコーヒーを飲みながらスマホをチェックしていたのは、大淀はるかである。

彼女は、アキバガーディアンを全面的に信用した訳ではない。

その一方で、超有名アイドルに対して徹底抗戦が可能な組織がなかった――という事情もある。やむ得ず、アキバガーディアンに協力要請しているのは、この為だ。

「結局、アカシックレコードに光と闇が存在し、そのどちらか片方が消えたとしてもアカシックレコードは成立しない。まるで、Ⅰチームでは野球が出来ないのと同じように」

 大淀の近況としては、アキバガーディアンへの違法情報の通報だけではなく、独自にアカシックレコードの研究を始めている個所だろう。

「あの時は私も周囲が見えない中で、あの発言を周囲に拡散し――最終的には第事件となってしまった」

 未だに自分の発言がネット炎上に繋がるような事件を生み出し、ランカー事変が起こった事を後悔している。

起きてしまった事を変えることは出来ない。ループ魔法や時間のリセットが不可能なように、都合よく事件をなかった事にはできないのである。

アカシックレコードにも【都合よく出来事を変えることは不可能だろう】と言う趣旨の書き込みが存在し、それがタイムマシン等で時間を書きかえることが不可能であると断言しているのだが……。

「この出来事をなかった事には出来ない。逆に、それを反省点として他の世界に生かしてもらう為にメッセージを伝えることは、可能かもしれない」

 大淀はアカシックレコードに掲載されている小説を見て、それが別の世界から発信されているのではないか……と考えるようになった。



 8月9日、例の動画がアップされる前の話。近所のゲーセンへ行こうとしていた私服姿の信濃リンは、ある物を発見する。

「あれは、もしかして……」

 ある物の正体、それは新たな音楽ゲームの筺体だった。筺体の形状からすると、モニター型に見えるが、遠目からでは詳しい事は分からない。

これは別所のゲーセンへ運び出す前の物らしいが、草加市経由だとするとARゲームの可能性は高い。



 同日午前10時30分、別のゲーセンで何かを待っていたのは長門未来。こちらも私服姿で、インナースーツを着込んでいる気配はない。

「遅い――何かあったのか?」

 長門が待っていた者、それは新型の音楽ゲームである。この機種は7月下旬には入荷しているのだが、このゲーセンでは8月と告知されていた。

その音楽ゲームは、上から下にノーツが降ってくるタイプではなく、いわゆるタブレット画面をタッチして演奏するタイプの物。

タッチする画面がAR画像化した物であれば、既に稼働はしているのだが……。長門が待っているのは物理的な画面をタッチするタイプだ。

「筺体を乗せた車が立ち往生?」

 電話で問い合わせをしていると思われる男性店員の声が聞こえた。どうやら、何かのトラブルで入荷が遅れているらしい。



 同日午前10時45分、信濃はトラックの後を尾行していたのだが、途中で見覚えのあるようなコースをたどった事に困惑を隠せなかった。

「アレは一体、何だと言うのだ?」

 トラックの運転手も目の前の光景には驚きを隠せない。何と、忍者と思われる集団がトラックを襲撃してきたのだ。

輸送しているのは現金や貴金属の類であればであれば強盗だと即座に判断出来るのだが、音楽ゲームの筺体を強奪する理由が分からない。

転売に回すとしても筺体のシリアルナンバーなどで見破られてしまう。それに、ARゲームの筺体に関してはブラックボックスの流出防止のために、一部で解体不可の部分もある。

運転手もゲームの筺体をゲーセンに輸送するだけとしか聞いていない為、襲撃される理由が分からないのが現状だろう。

「何とか出来ればいいけど――」

 長門はARガジェットを取り出そうとしたが、護身用の武器として威嚇使用出来るガジェットではない為、状況を見守るしかなかった。

威嚇として使用するとしても、ガイドライン違反ではないが厳しい処分が出る事もある。ARガジェットの運用に関しては、ここ最近になって細かい部分に調整が入ったばかりだ。

それを踏まえると、下手に事態を大きくすることはネット炎上勢にネタを提供するような物であり、それだけは避けたい想いがあった。



 その時だった。見覚えのあるような青いARアーマー、ソード型ARガジェット――。姿を見せたのは、ネット上でも都市伝説が騒がれているエクスシアだったのである。

アーマーの形状は、木曾あやねがコスプレしていた物とは違い、一部でネット炎上勢がネタとして利用する為に作った粗悪品とも全く違う。

「エクスシアが来るなんて――話が違うぞ!」

「名前が似ているだけのエクシアではないのか?」

「奴は確かに、我々が消滅させたはず」

 忍者達の話を聞く限り、エクスシアが来る事は想定外の様だが――何か引っかかる部分もある。

「お前達はアカシックレコードについて知り過ぎた。それをネット上に拡散させ、日本を混乱させる事は騒乱罪に値する!」

 エクスシアの口調を聞き、違和感を感じただけではなく……彼が騒乱罪という単語を使った事にも疑問があった。

「アカシックレコード、あれこそ日本にとって金山に近い存在だ! そこから取り出した技術を海外に売り込めば、億万長者にもなれる!」

「特許だけでも1京円を年間で得られるような物もあり、それら全てを掌握すれば超有名アイドルの推しアイドルを永久不変の存在にも出来るのだ」

「お前達の言う世界も、同じようなループを繰り返すのならば、貴様にも我々の行動を否定する資格はない!」

 忍者たちの話を聞き、エクスシアの方は唐突に黙り込んだ。言い返せないのか、それとも図星なのか――。

しかし、次の瞬間にはエクスシアのアーマーが紫色に近いカラーリングに変化する。これを見た忍者の一人は、何も言う事なく撤退をしてしまった。

「まさか、そのシステムは――」

 別の忍者もエクスシアの起動したシステムに関して何かを知っているようだが、エクスシアの超高速スピードに翻弄され、気絶をしてしまう。

気絶と言っても、厳密にはARガジェットによるスタンシステムが起動し、動けなくなっただけのようだ。

近くにいた複数の忍者もエクスシアに集団で襲いかかるのだが、それらも全て回避されてしまう。その動きは、一言では表現できない程のキレのある動きである。

「アカシックレコードを金づると思っているような連中には、あのビッグデータを触れることさえ認める訳にはいかない」

 エクスシアは、何かを確認してから撤退する。トラック運転手もお礼を言おうとしたらいなくなってしまった為、その行動には色々と疑問があるようだが。



 同日午前10時55分、信濃は目的地のゲーセンに到着する。その頃には先ほどのトラックも搬入口辺りで止まっており、ここへ向かう予定だった事を物語る。

「結局、エクスシアは何を狙っていたのか」

 信濃はエクスシアの狙いに関して気になっていたが、長門が途中で姿を見せたことでどうでもよくなってくる。



 同日午前11時10分、先ほどのトラックに積まれていた音楽ゲームがセッティング中となっていた。

「見る限りでは、新作ではないように見えるけど」

 準備中の様子を見ていた信濃は、自分には興味のない機種と言う事でスルーしようとしていた。

「あれはARゲームとは違った別の音楽ゲーム。丁度、ロケテストを行う所で襲撃されたのかもしれない」

 長門の一言を聞き、信濃は何処で情報を仕入れたのか驚いているようでもある。

この反応を見せた信濃に対し、長門はゲーセンの店員経由で話を聞いた事を説明し、その説明で信濃は一応納得した。

「ロケテストって言うけど、今になって音楽ゲームのロケテを――」

「ARゲームのシステムを使用したリズムゲームは成長途中かもしれない。だからこそ、ARゲームではない方も需要がある」

「そう言う物なのかな?」

「新しい物ばかりが流行するとは限らない。別の音楽ゲームがブレイクする事も否定できないわ」

 2人の会話は続く。その中で、ARゲームが成長途中であり、まだまだARを使用しない音楽ゲームにもチャンスはある、と長門は言う。

「私の目標は、最終的にRMTや外部ツール、違法な転売を利用するようなプレイヤーが現れないような音楽ゲーム環境が出来れば――」

 別ジャンルで問題視される現実のお金でオンラインゲームのアイテムを取引するRMT、それ以外にも外部ツールや転売屋等を規制する事が長門の最終目標でもある。

「私も悪質プレイヤーを排除する事には賛成よ。それでも、政治がそこに絡むのだけは――歓迎したくない」

 信濃も悪質プレイヤーの排除に関する箇所は長門と同じ。しかし、政治的な駆け引きや軍事利用の部分は、自分の関与する所ではない。



 時間を8月10日に戻す。例の動画を巡っての動きは、超有名アイドル投資家の残党等をおびき寄せる餌という見方もされていた。

しかし、それとは別の見方をする勢力も存在する。それは……。

「このやり方は若干強引な部分も存在しているが――この動画の狙いは何だ?」

 草加市内の運営本部で動画を見ていたのは、南雲蒼龍である。何故、この動画を流したのか。南雲は、そこに疑問を持っていた。


 動画の内容は、9日に起こったエクスシアに関係した事件である。そのデザインは南雲が以前に遭遇した西雲提督と名乗るエクスシアと酷似していた。

しかし、西雲提督が実在したかと言われると疑問に残る部分があり、この提督に関しては偽者説もある。

ネット上では西雲提督がアカシックレコードで公開した動画と、今回のエクスシアは同一人物ではないという見解が出ているのだが……。

「この人物が誰なのか、探りを入れるべきか。それとも、あえて放置とすべきか」

 使用しているARガジェットもFPSやシューティングゲームで使用する物であり、ミュージックオブスパーダには適応していない。

そうした関係もあって、南雲はエクスシアに関してはスルーを決め込もうとしていたのだが……。

「あの戦闘スタイルは、もしかすると――?」

 南雲はふと思った。あの時の西雲提督はトリックを使って写しだしたCGなのではないか、と。



 同じ動画を別の場所で見ていたのは、楽曲の制作に苦戦している山口飛龍だった。

ミュージックオブスパーダを一時休止し、それから休止を撤回するような流れで若手社長の一件に関わった。

その結果、ミュージックオブスパーダの知名度は上がったかもしれない。

しかし、超有名アイドル投資家に代表されるような『なんちゃって』ファンが増えたと錯覚していた。

作品愛を感じず、転売利益を上げる為だけの商品、ストレス発散や自己満足等の目的でネット炎上させる為のネタ――そう言った風にしか考えていないファンも少なからずいる。

それに加えて、最近目立ち始めた有名プレイヤー同士のBL夢小説の目撃例も出始めた。

夢小説の中でも3次元アイドルや芸能人、更には実況者を題材とした物も存在し、こうした作品に対してはARゲーム運営サイドもどのような対応をすればいいのか悩んでいた。

「あの時、本当に休止を撤回してもよかったのか――」

 今でも悩む事がある。トップランカーになった段階で飽きた訳ではない。休止を決めた理由はSOFのはずだ。

「本当に――これで良かったのか? 単純にSOFを理由にしてARゲームと関わるのを止めようとしているのか?」

 山口は苦悩する。それは、超有名アイドル投資家事件等で止めようと思った時期とにしているのだが……あの時とは事情が違う。

「これが、コンテンツの巨大化が影響している案件と言う事なのか?」

 市場が大型化すると、規模の大小に問わずトラブルがつきものである。新規ユーザーを取り込むと言う事は、それだけリスクを伴う事も意味する。

アカシックレコードでもコンテンツ市場が拡大すれば、それだけトラブルが発生する確率もあがると記載されていた。

それらの意見も取り入れ、正しい方向へコンテンツ業界を導く者、それは特定のコンテンツがディストピア的に支配してよい物ではない――とも書かれていた。



 同日午後1時、南雲は気分転換に事務所近辺のCDショップへ足を運ぶ。自分の楽曲が収録されたCDが売っている訳ではないが、市場調査は必要だろう。

南雲が見ているコーナーはゲームミュージックを取り扱っているスペースだが、置かれているCDにはジャンルの偏りが存在している。

それも、子供向けのゲーム作品の主題歌CD、有名RPGのサントラ等……どう考えてもCDランキングで売れているような作品しかない。

音楽ゲームのサントラ自体は中古CDショップへ行けばあるのだが、大抵はCDの定価よりも高いプレミア価格での取引が多い。

南雲も価格事情は知らないので、この話を加賀ミヅキから聞いた時には驚いた物である。

「超有名アイドルのスペースは、相変わらずか」

 普通のCDショップでも超有名アイドルは売れ筋商品の為、大きく宣伝している事が多い。

しかし、ここは遊戯都市である。ARゲームガイドラインの事情もあって、大きく宣伝する事は出来ないようになっている。

これには超有名アイドルのCDばかりが売れている為、税制優遇等の待遇を受けているのでは――と疑われた為だ。

それ以外にも特定の芸能事務所に所属しているアーティストのCDを大きく宣伝できないのだが、これに対してある芸能事務所がクレームを出したと言う。

その時は有名なレコード大賞で大賞に選ばれたアーティストなのだが、このグループは超有名アイドルの所属している事務所とは違うグループである。

ネット上でもレコード大賞に出来レース疑惑があった一方で――アカシックレコードでもこの芸能事務所に関する黒い霧と言われそうな疑惑を持っているような記事が存在していた。

【やはり、アカシックレコードか?】

【この週刊誌自体が、特定の芸能人をピンポイントで取材しても利益が出ないと判断したのか】

【その結果、この週刊誌はアカシックレコードで都合のよい記事をピックアップし、あたかも超有名アイドルが神アイドルであるかのような記事を書くようになった】

【それでは超有名アイドルを題材にした二次創作SSではないのか?】

【やっている事は実況者やARゲームプレイヤーを題材にして夢小説を書いている勢力と変わりない】

 南雲は、過去に目撃したつぶやきのログを思い出していた。炎上商法や超有名アイドル商法の様なメーカーだけが儲かればいいシステムは徹底的に排除すべきだ――と。

市場調査も不発で終わった訳ではないが、あまり収穫がない結果となった。店を出てからARガジェットに着信が入っている事に気付く。

「店内ではARガジェット専用のジャミングが展開されていたのか――?」

 その内容を見た南雲は驚きの声を上げようとしたが、口を押さえて周囲の客に聞こえないようにする。

「SOFのレギュレーション変更だと――」

 送られて来たメッセージの内容、それはSOFのレギュレーション変更だった。このタイミングで変更すると言う事は、相当なルール変更なのかと考えるのだが、変更されているのは意外な個所だった。

《今回のエントリー楽曲は、イベント専用のオリジナル楽曲に限定する。ただし、二次創作が認められている作品は従来通りとする》

 このレギュレーション自体は元々からあったのだが、明言されていなかった。それは、同人ゲームの楽曲アレンジ等も原作者の許可している作品であれば投稿が可能だったからだ。

今回の明文化によって、無許可の二次創作楽曲が出回らないようにするという対策に比重を置かなくてもよくなったのである。

これに関しては南雲も歓迎をする一方で、別の狙いを踏まえてのルール変更とも考えていた。

「まさか、同人ゲームのオリジナル楽曲が本家作品に来るようになった事、それを考えての対応なのか?」

 南雲が考えていた事、それは別の同人音楽ゲームで、オリジナル楽曲が本家や別メーカーの音楽ゲームに収録されている事もあり、そうした流れを踏まえて――。

「どちらにしても、自分にとっては影響がない範囲だが……警戒の必要性はあるだろう」

 南雲は影響がないルール変更と思うのだが、これを大きな変更と考える作曲家もいるかもしれない。

こうした流れがミュージックオブスパーダでも発生し、一連の事件を生み出したとしたら――今の南雲には、そこまで頭が回らない状態だった。

逆に、今回のレギュレーション変更に対して何か大きな事件が起こる予感がする――と考えたのは山口である。

「二次創作楽曲で参加していたプレイヤーに対し、完全一次創作を求める動き――これが悪い話とは思いたくないが、二次創作がメインの小説サイトで同じ事をすれば炎上騒ぎになるだろう」

 この懸念は一部エリアで現実の物となっており、それが今回の忍者騒動につながっていた事は、山口も気づいていない。



 8月12日午前10時、例の動画を受けての情報拡散レベルは常軌を疑う物だった。

その原因は超有名アイドル投資家残党とも言われているが、実際は別勢力が偽装しているのではないか……という話もある。

「超有名アイドル投資家と同じような手口を使っていて、騙されそうになったが――」

 何時ものゲーセンとは違い、鉄血のビスマルクがARガジェットフル装備で訪れた場所、それは竹ノ塚駅近くのARサバイバルゲーム施設だった。

この施設は8月10日にはオープンしていたのだが、一連の忍者騒動もあってオープン日に客が少なかったというのもある。

その理由は忍者の衣装がここで販売予定のARアーマーに類似していた事だ。風評被害もここまで来ると、営業妨害レベルになってくるだろう。

こうした現状を踏まえ、アキバガーディアンでは風評被害防止対策を展開しようとしたのだが、それも山口飛龍や他のランカー勢の行動で水の泡に。

その方法がクーデターと言われても仕方がない物というのも――理由の一つだろう。

超有名アイドルが無双を続けるようであれば、クーデターまがいの行動でも炎上する事はなかったかもしれない。

この辺りのARゲームを取り巻く環境の変化は、ビスマルクの想定していたことでもある。

「しかし、あの連中が行おうとしている事はネットを興味本位で炎上させようと言う――あってはならない考えで動いている」

 ビスマルクの懸念、それは忍者軍団がネット炎上を行っている理由だ。

大義名分や反政府勢力の様な目的もない、単純に『炎上させて、驚く姿をみたい』的な幼稚な物であり、ビスマルクにとっても許容できる物ではない。



 同日午前10時30分、ビスマルクがFPSのソロプレイで感覚を取り戻している頃、そのタイミングを見計らうかのように乱入者が現れる。

人数や規模は例の忍者軍団と酷似しているが、戦隊物のスーツを思わせるデザインであり、あの時の忍者軍団とは違う便乗勢力の可能性が高い。

「人数は30人と少し――私を狙うには足りないと思うけど?」

 ビスマルクの方はレールガンタイプのARガジェットを用意したコンテナから取り出し、それとは別にアサルトライフルも用意していた。

「我々を以前に失敗した連中と一緒にしない方がいい」

 どうやら、向こうも忍者軍団の件は把握済みらしい。あの時は相手がエクスシアという事もあり、相手の不幸を呪うレベルに感じる場合もあるかもしれない。

それでも忍者軍団はエクスシアや山口飛龍の様なランカークラスでなければ勝ち目があると考え、ビスマルクを襲撃したと思われる。

しかし、その考えも甘すぎたと言わざるを得ない出来事を、彼らは5分の間に――。



 午前10時31分、忍者軍団が襲撃したと同時にビスマルクはレールガンを構え、最初に襲撃してきた3名を叩き落とす。

「馬鹿な! あのサイズのレールガンは重さがかなりあると聞く。あれを高速で振り回すのは不可能だ!」

 黄色の忍者が驚きの声を上げる。ARFPSでは武器に重量設定があり、重量オーバーになるとペナルティが発生するシステムになっている。

それでもビスマルクがレールガンを高速で振り回す姿が想像できないと言う――あれこそ外部ツールと言いがかりを付ける忍者もいるほどだ。

「ARFPSでは確かに重量オーバーによるペナルティは存在する。しかし、今の段階でプレイしているゲームが違うとしたら――」

 ビスマルクの不敵な笑み、それは忍者軍団にはバイザーごしと言う事もあって表情を確認できない。

しかし、この一言は忍者軍団の気力を削ぐ事に成功し、一部メンバーは撤退をするほどだ。



 午前10時32分、忍者軍団の影分身に対し、ビスマルクはレールガンを投げ捨てずに別の武器へと変化させた。その武器とは、スナイパーライフルである。

この高速武器変更も忍者軍団には外部ツールに見える。自分達の影分身はスキルだが、向こうはチートなのではないか……と。

それでもビスマルクは無言で次々と忍者軍団を無力化していく。この様子はインターネットを通じて中継されており、アキバガーディアン等にも知られる事となった。

しかし、これを配信しているのはビスマルクの意思ではない。別の第三者が配信を行っているのだ。

「まさか――こういう事になっているとは思うまい」

 黒い忍者の持っているARガジェット、それは何とミュージックオブスパーダと類似したシステムを導入した対戦型リズムゲームで使用される物であり――。

「こちらとしても、新型ガジェットのアピールをする必要性がある。それに、あの忍者軍団のクライアントが夢小説勢の情報を探っていた以上は……」

 このシステムには実況機能や動画配信機能もあり、そのシステムが起動するかのテストも兼ねていたのだ。

忍者軍団は新型ガジェットの提供を受けた際、これがロケテストであることを告げていない。単純にモニターをやって欲しいと言っただけ。

黒い忍者が戦闘に加わる様子はなく、安全なエリアで動画配信機能の確認を行っているが……ビスマルクもこの行動に関しては把握しているようでもあった。



 午前10時33分、忍者軍団も赤、緑、ピンク、金色、銀色等の一部メンバーだけとなり、ビスマルクの方もアサルトライフル、ミサイルランチャー、ロケットランチャー等が弾切れ状態に。

「お前は、一体何の為に戦う!」

 赤い忍者がARカタナで切りかかるが、それを寸前の所で展開したガンブレードで弾き飛ばす。そのガンブレードを目撃した金色の忍者は声が出なくなった。

「ARゲームに目的を持つのが悪いとは言わない! しかし、ARゲームをネット論争や争いのフィールドとして悪用するのを認める訳には……」

 赤い忍者の後に緑、ピンクの連携攻撃が入るのだが、それもあっさりガンブレードで弾き飛ばす。そして、銀色の忍者もガンブレードのデザインに見覚えがあるらしく、ビスマルクに攻撃を加えることはなかった。

「相手が悪すぎる! あの剣はアガートラームだ」

 銀色の忍者が叫び、その場から逃げようとするのだが、それを阻止したのは赤い忍者の影分身である。一体、どういう事なのか?

「アガートラームは大和杏の持っている物だけだ。あのアガートラームは別のアカシックレコードを参考にした模造品に過ぎない」

 あくまでも赤い忍者はビスマルクの呼びだしたアガートラームが偽物と考え、抵抗を続けるのだが――。



 午前10時34分、忍者軍団はビスマルクの放ったアガートラームの一閃で気絶したのである。

ある意味でもチートと思われがちだが、アガートラームは基本的に外部ツールやチートを使用しているプレイヤーにしか威力を発揮しない。

「チートガジェットを敢えて使用したのには、別の理由があると考えるが――この方法はフェアとは言えない。こういう手段は影の支配者等のポジションが使う手段だ」

 ビスマルクは別の場所で観戦していると思われる黒い忍者の方角を向き、彼に向けて一言放つ。



 午前10時35分、黒い忍者がビスマルクの前に姿を表す。しかし、黒い忍者と言うにはARアーマーや細部がパッチワークを連想させる。

「確かにフェアではない。それに強行手段である事も否定はしないが――それでも、ARゲームに忍び寄る闇を暴く為には、こうするしかなかった」

 忍び寄る闇――と言ったのと同時に黒い忍者は忍装束を脱ぎ捨て、その正体を見てビスマルクは予想が的中と言わんばかりの表情をする。

「エクスシア――西雲提督と言うべきか、あるいは――」

 ビスマルクは既にエクスシアが西雲提督ではないと見破っているようでもあった。南雲蒼龍もエクスシアの正体には気になる箇所があったのだが。

「ビスマルク、お前もバウンティハンターでチート勢の根絶をやっていたのであれば、あの現状を分かるはずだ」

「確かにARゲームにも投資詐欺や違法ビジネス、グレーゾーンに当てはまるような手段で無限の利益を得る事が出来る箇所がある。しかし、だからと言って急ぐ必要性があるのか?」

「そうしなければ、現在も発生している様々なシステムの欠陥、脆弱性を利用した犯罪が永遠に続くだろう。超有名アイドルコンテンツを全世界に拡散しようと言う数名の投資家による理想の世界を実現させてしまう……」

「システムの欠陥は緊急性を必要としない物は、ユーザーの意見を踏まえた上で直せばいい! 指摘をするチャンスもお前は全て否定するのか――加賀ミヅキ!」

 2人のやり取りは周囲が理解できないような次元の会話になり、更には目の前にいるエクスシアの正体が加賀ミヅキだとビスマルクは叫ぶ。



 午前10時40分、様々なやりとりをしていく中、加賀に装着されていたエクスシアのアーマーが変化、更なる重装アーマーに形状を変えた。

『やはり、この超有名アイドル支配のディストピア自体がイレギュラーだった』

 加賀の表情が若干異なり、エクスシアのアカシックレコードに支配されているようにも見える。

「アカシックレコード――その正体は、コンテンツ流通で全てを掌握しようと言う事業者が生み出した没案と言う事か。これこそ、茶番と言う以外に何があるのか」

 ビスマルクは史上最大の茶番とはき捨てる存在、それはアイドル投資家よりも闇と言える勢力――無限の利益を得ようとする大手会社の影だった。



 8月12日午前10時45分、鉄血のビスマルクはエクスシアと戦闘状態になっていた。

そのエクスシアの正体は加賀ミヅキ――とビスマルクは考えている。彼女が影で全てを操っていたとは考えにくいのだが……。

『超有名アイドルのような炎上商法を誘発するような物は、反超有名アイドルを生み出す可能性がある』

「だからと言って、反対派を全て賛成派に回ればコンテンツ流通が正常化する訳ではないだろう!」

『人間が生み出した物である以上、賛成派と反対派が出てくるのは避けられない。しかし、それでも少数派を抑え込めれば――コンテンツ流通は正常化する!』

「そう言う考え方の人間がいるからこそ、コンテンツ流通で異常な行動がピックアップされ、それが炎上商法に利用される。それこそ無意味な繰り返しとは思わないのか!」

『超有名アイドルがコンテンツ支配をする事が無意味だと言うのか? 視聴率の数字に惑わされないコンテンツ自体が既に――』

 エクスシアが発言している途中で何者かがスナイパーライフルを放ったらしく、それが加賀と思われた人物の顔にノイズを発生させた。

「ARシステム特有の画像ノイズ? 一体、どういう事だ」

 画像ノイズを確認したビスマルクは、目の前にいる加賀と思われた人物が偽者と言う事に対し、激しい怒りを覚えた。ビスマルクは滅多な事では感情を表に出すことはないのだが……。



 同日午前10時47分、AR画像ノイズが修正され、加賀と思われた顔が別のARアーマーへと変化した。

先ほどの変化とは異なり、元々のフレームに別のCGを重ねたような仕様でアーマーデザインが変わって行くのである。

この状況に関してビスマルクは困惑する。一体、自分は何と戦っていたのか?

「こちらの計画さえも台無しになるとは――図ったな、バウンティハンター……」

 その正体は、アキバガーディアンの超有名アイドル推進派とも言える人物だった。彼に関してはガーディアンの管理人である隼鷹も注視していた程。

しかし、彼の顔はARバイザーを被っている為に全く見えない。それが別人だと錯覚させた可能性がある。

それ以上に彼が使用していたARガジェット、そこにヒミツがあるのかもしれないのだが……。



 同日午前10時49分、彼が振り向いた方角にいた人物――それはビスマルクも驚愕する人物だった。

「加賀ミヅキ――本物なのか?」

「自分のなりすましがいるという話を南雲から聞き、探っていた結果が――超有名アイドル推進派だったとは」

 そこにいたのは、新型レールガンを構えていた加賀ミヅキの本物。

装備しているARギアはバウンティハンター当時とは違うのだが、他のアカシックレコードを流用したようなデザインでもない。

「超有名アイドルコンテンツ、それが日本に唯一残された経済再生の鍵だと言うのに、それを捨てろと言うのか?」

「炎上商法と言われようが、それがきっかけで売れた以上は、それに依存して経済を立て直す方が最優先すべきこと」

「ARゲームも、過去に黒歴史があったからこそ、今の繁栄があるのではないのか?」

「その黒歴史を肯定している以上、お前達に超有名アイドル商法を否定する権利はない!」

 彼は加賀に向かって、超有名アイドルの重要性を語る。しかし、その煽りとも言えるような発言にも加賀は耳を貸す気配はない。

そして、加賀は再びレールガンの引き金を引き、今度は彼のARガジェットに繋がっているエネルギーパイプに命中、太陽光を含めたエネルギー供給を止めた。

「ARガジェットの太陽光システムを知っているか――だが!」

 彼はエネルギーパイプが破壊された程度では怯まない。それどころか、他のARガジェットを展開し、総攻撃を開始したのである。



 同日午前10時50分、このエリアに未確認勢力が来ると言うメッセージが表示される。

「こちらの増援だ。これで、お前達のようなコンテンツ流通の改革派を潰せば――」

 彼の方は自分達の増援が来たと考え、慢心をしていた。

「万事休すか――」

 加賀の方は未確認勢力が自分達とは違う勢力だと確認し、降伏もやむ得ないと考えている。

「本来であれば版権作品のファンアートや二次創作、それをランキングに載りたいという理由だけで自分で書いたという理由だけでオリジナルとしてイラスト投稿サイト等へ投稿する――そんな悪目立ち勢力のテンプレ連中に、遅れをとると言うのか!」

 ビスマルクは、無予告の増援として姿を見せた便乗勢力等に対し、徹底抗戦を続ける。しかし、このような事を続けても泥仕合になるだけだ。



 同日10時52分、未確認勢力と認識された増援が姿を見せた。そして、ここでシステムの強制変更が何故か行われた。

《今回のマッチングにおいて、不正挙動を確認しました。ARゲームのジャンルを変更し、再起動をします》

 このメッセージを見て驚いたのは、アキバガーディアンの人物だ。無言ではあるものの、この再起動は想定外と考えている。

「このタイミングで再起動? 一体、誰が――」

 加賀はシステムの再起動理由に関してある程度の予測は出来ているのだが、確信するには早計だった。

「再起動がかかると言う事は……仕切り直しと言う事か」

 ビスマルクの方は逆に仕切り直しを行う事に関して、さほど不利とは考えていない。ぶっちゃければ、これは逆転のチャンスとも言える。



 同日10時55分、システムの再起動が終了し、ARゲームのジャンルも先ほどまではバトル型リズムゲームだったのが、サバイバルバトルに変化した。

「またしてもジャンル変更だと? こちらのARガジェットは未完成だと言うのに――」

 何かを言おうとした矢先、音速とも言えるような巨大ナックルの一撃がボディに直撃する。その一撃によって、ARガジェットは機能を停止した。

「超有名アイドル商法や炎上商法を正義と断言するような投資家は、ソーシャルゲームでチートを罪悪感なしで使うプレイヤーと同じ物を感じるが――」

 この声を聞いたアキバガーディアンは、驚きの声を上げようとするのだが……バイザーのシステム故障で音声変換システムが動かない。

それに加え、バイザーのフェイスオープンも強制的に行われ、その顔が目の前にいる人物に晒される事になった。

「大和杏――チートを絶対悪として憎む理由は、何だ?」

「チートなんて使われたら、イースポーツ化なんて夢の話になってしまう。だからこそ、不正ツールやそうした手段を封印や規制をする事で、よりフェアな環境でゲームが出来るようにする」

「イースポーツも――マッチポンプの舞台にされると知っているのか? そこに大量の資金が流通する事、その意味を理解しているのか?」

「理解しているからこそ、私はイースポーツ化を推進しようとした。そして、ギャンブル依存の様な問題をクリアした形で、イースポーツ化を進めようと考えた」

 大和杏の目には、涙が流れている。大和のARガジェットはアガートラームのみ――素顔もはっきり分かる状態だ。

「お前は――ゲームで金儲けを考えているのか? 実況者や動画タレント、歌い手等の――」

 アキバガーディアンは、何かを言おうとも考えていたのだが、そこで気絶する。結局、大和は彼の顔を確認する事はなかった。

「ゲームでお金儲け――ね。そう言う風に認識している限り、私の真意は分かるはずもない」

 大和はゲームがお金儲けの為に利用される部分に関して、否定も肯定をしなかった。

しかし、そうした損得勘定と言う物で見ている限り――彼女の真の目的にはたどり着けない。

大和は今回の一件で、ARゲームをイースポーツ化するにはハードルが存在する事を知った。それを踏まえ、この話は白紙に戻す必要性があると考える。



 8月14日、ARゲームのイースポーツ化に関しては環境の整備が必要と言う結論に達し、差し戻しと言う事になった。

事実上の白紙撤回に近いのかもしれないが、ARゲーム用の専門ライセンスと紐付けする形で賞金制度を導入する事に関しては、否定をしなかったという。

ARゲーム全てが賞金制度を導入すれば、青少年育成に影響が出る……と考えた上での動きかもしれない。



 8月16日、遊戯都市奏歌では新たなARゲームのロケテストが行われていた。

このARゲームは一部で言われていたARパルクールにも酷似しているが……。

「遊戯都市出身以外のARゲームが、ここで稼働する事になるとは」

 谷塚駅近辺でロケテストの様子を見ていたのは、南雲蒼龍だった。気分転換と言う意味でロケテストに参加している。

その他にも、見覚えのある顔がARパルクールのロケテストには参加しており、その中には山口飛龍の姿もあった。

「これが、ARゲームなのか?」

 ARパルクールは特定のコースを持たず、市街地や商店街等でもコースに出来ると言う話だ。

しかし、そのような危険を伴う様なARゲームを遊戯都市奏歌が導入するとは思えない。

それらを踏まえ、山口はロボットにも近いARガジェットを見て驚いていた。全長は2メートル位と言う事もあり、ロボと言うよりはバウンティハンターの様なパワードスーツに近いが。

「ARゲームは、日々進化し続ける。それも、こちらの想像を上回る程に」

 山口の隣に姿を見せたのは、大和だった。手にはドーナツを持っており、買い食いに近い……と思ったが、袋からは出していない。

出せない理由は、ARガジェットが精密機械と言う事でゴミなどを散らかされると困ると言う部分もあるのだろう。それは、ミュージックオブスパーダなども一緒だ。

「ARゲームには多くの可能性があると言う事ですか?」

 山口は大和に質問をする。それに対し、質問に答えたのは大和ではなく……。

「ARゲームは進化を続けている。それこそ、他のジャンルに無意味な繰り返しをさせないように促す役割を持っている程に」

 ロケテストに姿を見せたのは、改造軍服姿のビスマルクだった。そして、山口の質問にも答える。

「無意味な繰り返し、ですか」

「ソーシャルゲームでのコンプガチャ問題、エンブレムのトレス問題、超有名アイドル商法――そうした問題は、ARゲームにも存在した。それが、無意味な繰り返しだった」

「コンプガチャの問題は知っていますが、それ程に大きな問題だったのですか?」

「特定ファン層のみに特化させたゲームだけを提供した結果、新規ファンが獲得できなくなる事があった。フジョシ勢力や夢小説をイメージすれば分かるか」

「もしかして、繰り返しって――」

「それ以上は言及しなくても、プレイヤーたちには嫌という程に分かっている。特定勢力の悪目立ち等が原因で公式が暴走し、そのファン層だけの作品にしてしまう。それがARゲームにおける黒歴史――」

 ビスマルクの言うARゲームにおける黒歴史、それは俗に言う実在プレイヤーを題材にした夢小説が展開される事件を意味していたのだが――その真相に山口が言及する事はなかったと言う。



 そして、遊戯都市奏歌は新たな一歩を踏み出し、ARゲーム技術の更なる発展を願う為の都市として、テレビや雑誌で注目される事になる。

こうした動きが目立つようになったのは、西暦2018年9月の事である。

ARゲームには残された課題もあり、こうした課題を解決させていくには各方面の意見を取り入れる事が重要と考えた。

後にスパーダ事変と呼ばれる事になった事件は、世界線上のアカシックレコードにも刻まれる事になり、そこからさまざまな問題も浮上するだろう。

その真相が別の世界に伝わる事はなかったか――そう言われると、否定も肯定も出来ない。

この問題が抱える根幹にあるもの、それはコンテンツ業界全体で考えていくべき課題でもあるのだから。

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