青春的部活動2
人生には覚悟を決めなきゃいけない時がある。直感で感じた、それは間違いなく今だ。なんの覚悟かって?そりゃもちろん死の覚悟。
「もー、蒼真は大袈裟だなぁ。今日のメニューは軽い方だったろ?」
遼は余裕げのある笑みを浮かべ、マネージャーから受け取ったスポーツドリンクをぐいっと飲み干す。
うるせえ黙れ…こちとらお前みたいに心肺が鍛えられてねえんだよ、もっと心配しろ心配。
と、文句を垂れる気力すら無く、俺はアスファルトに突っ伏しいつまでも整わない呼吸を整えようと足掻く。
本日のメニューは150のアクセラレーションに彩りと地獄を添えて。
どこぞの一方通行さんでは無く、前を走る相手について行きつつ150m走り抜けるというなんとも形容し難いメニューなのである。OK、無理。
うつ伏せはしんどいので仰向けになるもしんどい横になってもしんどい何だこれ、やっぱ俺死ぬじゃん。
どうにか肺を落ち付けようと押さえつける様に深く深呼吸をすると、全身がチクチクと痛む謎の現象に見舞われる。
「あと5分で整地だからなー」
遼の言葉に返事することもできず、俺はただ弱々しく右手を上げるのが精一杯だった。
***
整地、軽いミーティング、挨拶が終わる頃にはようやく全身の怠さは消えた。
それとともに達成感が満ち満ちてゆく、この感覚がなんとも言えない快楽物質を生み出しているとしか思えない。うむ、俺はMなのかもしれないな。
部室の椅子にどかっと座り特大のため息を一つ。目を瞑ると手足がだらんとたれ、まるで魂が抜けた屍と化してしまう。ま、いつもの事だ。
「王様かっ」
遼が突っ込みを入れると周りも呼応し往々に笑う。
「こんなだらけた王はいねーよ、信用に足らん。」
その余裕さが癪に触るが一応反応はしてやろう。
何で全く疲れた表情見せねぇんだよ…俺と同じメニューどころか更に追加で走ってるってのに。
つくづく人間は平等では無いな、天は二物を与えずと言うがあれは嘘だ、でまかせだ。何故なら完璧な人間が目の前に、現実に、いるんだもの。いや、一層の事幻の方が幾らか気が楽だったかもしれない。
近づく程に、良く知る程に、まじまじと見せつけられる完璧。何でも卒なくこなし、苦の表情を見せない、それでいて彼を僻む者はおらず、おまけに眉目秀麗と来たもんだ。
きっと遼はこれまでも、そしてこれからも完璧であり続けるんだろう。
…違うな、これは俺の願望だ、理想だ。
あいつが完璧だから俺はただそれに甘えているだけだ。俺は遼みたいに何でも出来ないと言い聞かせて、逃げているだけだ。
ダメだ、これ以上考えるのはよそう、疲れが余計に酷くなってしまった。
「…おい、どこに行くのかな?」
ちらと目を開けるとソロソロと忍び足で部室から去ろうとする遼が映る。
「やだなぁ、ちょいトイレ行くだけじゃんか。なに、もしかして連れション?」
相変わらずその表情には余裕げがあったが、何故か目が逸れていた、何故でしょうね。
なんで小便するのにソロソロ行く必要があるんですかね、うんこならまだしも。うんこマンならぬおしっこマン呼びされるのが怖いのかな?いやいや。
「連れマックな。まぁついでに連れションも行ってやる。」
俺の言葉に遼は観念した様子で苦笑いを浮かべ、置いてくぞと言わんばかりに再び部室の外へと歩き出す。
いや、待ってくれ、まだ完全に回復してないし今ここで立つと確実に足が攣る。
2.3回深呼吸をし、足をちょちょいと揉み、ゆっくりと立ち上がる。
よし、クリアだ。
ボソッとそう呟き遼の後とマックを速足で追う、今日の疲れを飛ばす為に。
あめとおにぎり @zero2869
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