第3話 青春的部活動

健全なる高校生たる者、部活動を行わなくてはならない。


…と言った独裁的校則もとい拘束は我が紅桜高等学校には存在しないが、大抵の者は皆何かしらの部活動に所属している。


この高校は部活動が多種多様なのが売

りの一つで、同好会も含めれば日本で一二を争う数になるはずだ。


実際、偏差値も中の上と一般的な努力をすれば比較的楽に入れる事も相まって部活動目当てで受験する中学生も多いらしい。


地獄の坂を毎日登るハメになったとしても通う魅力がこの高校にはあるのだ。


かく言う俺自身も、陸上競技部なる部活動に参加している。

何をするか、と言う質問は愚問であろう。走るのだ。

ただひたすら、走って走って走るのだ。


砲丸投げや槍投げ、円盤投げと言った投擲競技や、走り幅跳び、三段跳び、高跳び、棒高跳びと言った跳躍競技を纏めてフィールド競技と言うが、それらを専門でできるのは上位の人間だけだ。


言ってしまえば、フィールド競技は部活動にある程度慣れてきて、トラック競技…所謂走る競技が思うように伸びなかったりした時に試しに出たり、枠(試合に出れる人数は競技ごとに決まっている)が余ってるから無理矢理出させられたりする程度のものだ。


勿論それで才能が見つかり専門に転向する人もいるが、そんなのもごく少数だ。


だから、大抵の陸上部員は走る、休憩、走る、休憩の繰り返しを毎日毎日毎日また繰り返す。


文面だけで見ると絶対に入りたくない部活ランキング第一位の不名誉に輝きそうだが、部員の数は運動部でサッカー部、野球部に次いでおり、ハッキリ人気の部活だと言える程魅力が詰まっている事は明白なのだ。


事実この俺も入る前は「ただ走るだけなんてやってられるか」と豪語していた。


しかし遼に誘われ…いや半ば強制的に入らされたのだが…試合の感覚を一度覚えると陸上の虜になってしまっていた。


確かに練習は辛い。心臓的なしんどさももちろんだが、脚の筋肉疲労の相乗効果で更に辛くなる。元々持久力が致命的に欠乏していた俺にはより地獄が鮮明に見えた。


両ふくらはぎが同時に攣った時や、酸欠で頭が真っ白になった時は絶対に辞めてやると思ったりするものだが、練習が終わり家に帰るとそんな辛さはもう忘れてしまっている。


いや寧ろ地獄の苦痛からの開放感と達成感に満ち溢れるまであるな。

そして今日も今日とて変わらず、俺は部活へと向かうべく階段を下る。

地面まであと3段、一気に下りてしm


「わっ!!!!」


突然の大音量が鼓膜に響く、と同時に全身が跳ね、着地のタイミングを失いそのままバランスを崩し地面と熱いキス。

こんな鬼畜な悪戯をする輩は1人しかおらん。


「……おい」


俺は階段の真ん中に立つわざとらしそうに謝る仕草をする遼をうつ伏せのまま睨む


「てへっ☆」


すごーい!君は人を怒らせるが得意なフレンズなんだね!

額に怒りの筋が浮かび、ゆっくりと、低いドスの効いた声色で遼を脅す。


「よし分った、ビッグマックセットのポテトLで手を打ってやろう。訴訟は見逃してやる。」


我ながら寛大なる処置だと自負している。余の心はサハラ砂漠が如き広さなのであるぞ!広いだけで何も無いがな!はははははは…はは…はぁ…


「怒ったと思えば落ち込んだり面白いなぁ蒼真は」


一体誰の所為でこうなったと思ってやがる此奴は。


「どうやらナゲットも付けないといけないらしいな…」


再びふつふつと怒りが込み上がってくる。


「バイト代がたんまり入ったからね、この遼様が奢ってしんぜよう!」


遼は得意げに鼻を鳴らしている。

何が奢ってしんぜようだ、それが被害者に対する態度かってんだ全く。

俺はゆっくりと立ち上がり階段を降りてきた遼に向かって軽いデコピン一発。


「いたっ!」


「これであいこだ。勿論奢るのは当然な」


遼はわざとらしく額をさすりながら参ったといった顔を浮かべている。

その仕草が可笑しくて頬が綻ぶ


「ほら、早く行くぞ。」



今日も今日とて、部活は始まる。

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