第3話

「今日は危なかったよ…声を大にして言いたいが、本当に危なかった!」

「いくら声を大にしても、あの方たちには聞こえないけどね」

「でも、まさかあんなに派手な夫婦喧嘩になるとは思わなかったな」

「物まで飛ぶなんてね。最初はとてもささいなことから喧嘩が始まった筈。本人たちももう理由なんか覚えていないんじゃない?傍らで見ていた私もだけど。吃驚しちゃった、普段あんなに仲が良くて、まさにオシドリ夫婦といったところなのに」

「旦那さまは青筋立てて怒ってるし、奥さまはわんわん泣いているし…」

「しかも、はじめは居間で言い争っていたはずなのに、こちらの台所まで移動して喧嘩の続きをしてるんだもんな。僕まで投げられちゃったら困るなあ、と思ってびくびくしてた」

「私もよ。真っ二つならまだしも、粉々はちょっとねえ」


「…そういえば、僕たち、死ぬってことあるのかな。この五体が砕け散っても意識が残るのか、それとも人間と同じような死なのか、どうなんだろう…」

「そうねえ。まだ死んだことがないから、わからないけど」

「人の死んだのを見た事ある?」

「ううん」

「例の神社の夜店で、籠に僕と一緒に入れられていた茶碗の爺さんがいうことには、彼は前の持ち主が死ぬときに側に居たんだそうだよ。その爺さん、大震災の生き残りだった強者つわものでさ、いろんなことを知ってたんだけど」

「ふうん?」

「その前の持ち主はね、最期はゆっくりと息が弱くなって、呼吸が止まる直前にふうっと顔が赤くなって、それで…」

「穏やかな死が訪れたのね」

「そうやって人は死んで土に帰っていくだろう?いっぽう、僕たちは、もとは土なんだけど、粉々にならない限りは、そのまま土のなかに残るよね、陶片という形になって」

「ずっと土の中は寂しいから、いつか誰かに見つけて欲しいけど…」

「そうそう、市にはね、陶片も売られてたよ。あんなのどうするのかな、と思ったら、買う人もいるんだよね」

「持って帰って、綺麗なはこか何かに入れて愛でてくれるのかしら。だったら、第二の人生みたいでそれも悪くないかも」

「そうだね」

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