SIDE:T

やっちまった、やっちまった。


目的地は駅前の広場。

家からそこまでは15分ちょいといった具合だ。20分前に出れば間に合う。で、5分前行動ということで、その分余裕を持って家を出た。

だが、時計を見ると待ち合わせ時間からすでに10分遅れていた。


なんでやねん、と叫びたい気持ちを抑えながら目的地へと向かう。

この靴がすべていかんのだ。

なんとなく足が痛い気がするし、なれないし、しかも遅れてるのに走れない。誠に遺憾だバカヤロー!


言ったら真っ先に謝らなければ。

……待って、挨拶のほうが先?

わかんねぇよ、もう。

とりあえずいかなければ始まらない。


私が目的地に着くと、目当ての人はいないようだった。

たくさんの人の中で探せてないのかと、見知らぬ人の顔をちらちらと確認するが、何してんだ私はと変な気分になって顔を伏せる。


……まって日付あってる?

私はスマホを取り出し、日付を見る。


スマホを手にして、私は1つ気づいた。

遅れるってなったのに連絡いれてない。

次から気を付けよう。

いやいや気を付けんのは遅れないようにするほうだろうが。


「ふぅ……」


私は落ち着かせるために、小さく深呼吸をした。

とりあえずまだ来ていないらしい。

……もしかしているけど、探せてない?顔判断苦手だし。


いや、でもそれなら向こうから声をかけてくれたっておかしくない。

……まさか、事故にでも!?


「司さん?」


急に呼ばれて、「ハイッ!?」と間抜け声が出た。

「よかった、間違ってないみたいで」と蛍さんが肩で息をしながら言う。


「遅れてすいません。出かける直前にごたごたに巻き込まれまして」

「いえいえ!実は私も10分遅れて来てて……。事故とかじゃなくてよかったです!ほんとに!」


すいません、とまた頭を下げられる。これじゃ話が進まないし、謝り慣れてない私の無様に慌てた姿をさらすことになる。それはいかん。


「行きますか?」

「そうですね、映画館は確かあっちでしたよね?」

「そのはず、です」


蛍さんが歩き出し、私もその横を歩く。

蛍さんの歩く速さはそこまで速くない。たぶん私のほうが速いと思う――この靴でなければ。

つかなにこの靴。足の甲やら小指やらを圧迫してくる。靴なのに、歩きにくさを極めてやがる。


「速いですか?」

「は……いえ、大丈夫です」

「本当に?」


こちらを見て、さらには目線を合わせて、蛍さんがそう言う。威圧感はないけれど、嘘をついてはいけないというか、本当のことを言いたくなる。


「……ちょっとだけ?」

「わかりました」


少し歩く速度が遅くなる。女慣れしてるのか?まじでか。

私、あなたがお付き合いする人第一号ですけど、よかですか?


「そういう靴って歩きにくいんですか?」

「そりゃもう!」


思わずノってしまって、私は委縮する。やらかした。

蛍さんは「やっぱりそうなんですね」と笑ってくれた。めっちゃくちゃ優しいこの人。私にはもったいねーよ。


「はいたことは、男なんでもちろんないんですけど、前々から思ってたんで、つい」

「……はいてみます?投げ捨てたくなりますよ?」

「サイズ的にも合わないし、そんなことしたら司さんにドン引かれるんで、やめときます」


いや、そんなことじゃ嫌いにはなりませんけど。とは言えず。

苦笑いをしてごまかす。

……待って、これ「ドン引きます」って意味にならない?違うからね!?意外と男子たちの悪ノリ好きだからね!?


私たちは世間話をしながら場所に向かった。


本日の目的は映画館。

もちろんそこで映画を見る。


何を見るかって話になったが、とりあえず今話題のめちゃくちゃヒットしてるやつを提案したら、蛍さんも見たことないというのでそれにした。

私ももちろん見たことない。世間的に有名だろうが、私好みじゃなさそうだと思ったからだ。

まぁ、でも好みじゃないってだけで、見れば普通に面白い!と思うだろう。私の性格はそういうものだった。


チケットを買う順番が来た。今時は機械なのね。


「……やっぱり埋まってますね」


座席を決めるための画面を見て、私は「うわぁ」と思わず口についた。


中心はほぼ埋まり、端の方が少しだけ空いている。2人分空いてる場所もなんとかあるけど、すぐ隣に人がいる。窮屈そうだ。


「……次のにします?」


私がそう言うと、蛍さんは機械を操作してくれた。

また画面に席がでる。

ほぼ埋まっている。さっき見たのと同じようにぱらぱらと空いている。


「ここ、とかどうです?」


蛍さんが2つ並んでる席を指差す。

後ろから二列目の右端の2席。

私もそこに目をつけていた。


「そうしますか?」

「いっそ、違うの観ます?」

「えと、私映画に詳しくないので……蛍さんがいればなんでも」


私は曖昧な返事しかできなかった。

待って、これじゃ乗り気じゃないみたいに思われる?なんでもとか禁句?


「……そですか」


めっちゃ素っ気ない言葉が返ってきた。

失敗しましたか。さいですか。


……待って待って。訂正させて。

違うんだって。違くないけど。蛍さんがいればなんでもいいのは本心だけど、そうじゃなくって。


「殺し文句ですね」

「……?なんです?ごめんなさい、聞こえなくて。もっかいお願いします」

「いや、俺も司さんがいればいいんでこれに決めます。異論ないですね?」

「大丈夫です」


さらりと言われて流してしまったが、アレンジされて復唱された気がする。


異論がないっていうのは映画の話ですか?

それとも司さんが云々のところですか?

どっちですか。気にしていいんですか。深読みしていいんですか。


そんな些細な言葉にさえ左右される関係なのだ、私たちは。多分これからも。


居心地は悪くないけどね。

そんなこと、改まった口調で言えやしないけどさ。




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なぜ上手くいかんのだ。 玖柳龍華 @ryuka

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