第2話 真夏の太陽
「あっつー」
部活帰り、友達が当たり前のことを呟く。今年は例年に比べても特に暑さが厳しいようで、毎日熱中症だの干ばつだののニュースが頻繁に流れていて、正直もううんざりしている。もはやセミに文句を言う気力すら起きない。
「それじゃあ私たちこっちだから。また明日ー」
そう言って友達3人は私とは別の方向へと帰って行った。いつもならここでこの異常気象に悪態付いてやるのだが、今日はそんなことどうでもよかった。少し小走りであの場所へと向かう。ちょっとだけドキドキ。小走りがいつの間にかスキップへと変わる。そのまま古めかしい扉を開ける。するとやはり図書館の中にいたのは、カウンターのおじいさんと千秋だけだった。中に入っていくと、千秋が私の方を見るなり、
「どうしたの、楽しそうだね」
どうやら私は、おまけにニヤニヤもしていたらしかった。それよりも千秋の声を初めて聞いた。見た目同様、柔らかで優しく、落ち着いた声。初めて聞いたその声に私は引き込まれそうになり、ドキドキする。もう一度千秋の方を見ると、彼は今日も小説を書いていた。
「ねえ、千秋はいつも何を書いてるの?」
「うーん、小説……いや、僕の憧れの世界かな」
「憧れの世界?私も読んでみたいなー」
そう言って私が近づくと、
「僕以外の人には読ませられないんだ。ごめんな」
千秋はゆっくり首を横に振ってそう言った。私は千秋の書く小説が気になったが、誰にだって言えない秘密の一つや二つ、あっても不思議ではないと思い、諦めることにした。その代わり、謎だらけの千秋についてもっとよく知りたいと思い、とにかくたくさん質問したくなった。
「じゃあさ、千秋はどんな本が好きなの?」
「そうだなあ、小説ならいろいろ読むけど、最近はファンタジーなんかよく読むかな、魔法が使えたりしたら楽しいだろうなって」
そういうのが好きなのか、ちょっと意外かも。でもこの図書館の中なら魔法が使えちゃってもおかしくないな、とつい思ってしまう。
「あとはハッピーエンドの作品が好きかな。本を読んでると登場人物につい感情移入しちゃってさ、みんな幸せになってほしいなって思うんだ」
千秋が恥ずかしそうに笑いながら話す。いつもの優しくて柔らかい笑顔も好きだけど、照れながら笑う表情は新鮮で私まで照れてしまいそうだ。それから私が千秋に質問したり、逆に千秋が私に質問したりしているうちに時は過ぎていった。まだ出会って間もないけど、少しは千秋のことが分かってきた気がする。学校には通っていないようだしまだまだ謎も多いけれど、とても優しいんだということはより強く感じたし、そんな所に私は惹かれていった。
私は毎日千秋のいる桜木図書館へ通った。もうクーラーの効いた涼しい部屋を求めてではなく、千秋に会うのが楽しみで通うようになっていた。千秋はどんな話も楽しそうに聞いていたが、特別私の学校の話や友達の話は好んで聞いた。私にとっては当たり前すぎて気にもとめないような所に彼は感心するので、ついおかしくて笑ってしまう。すると彼は、
「キミは真夏の太陽みたいに笑うね」
とたびたび言いながら一緒に笑うのだった。こうして毎日二人で笑い合い、話をする時間が自分にとってかけがえのないものとなっていた。
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