第23話 帝王対新種グゥル


 ギャーギャーとうるさい大人達を無視し、未だ大量に残っているグゥルの群れと対峙する。

 優奈も応戦しようと言うんだろう、俺の横に並びかけたが……。


「邪魔だ。もう大分疲れてんだろ?」

「っ! わ、私はまだやれるわ!」

「うるせぇ。調子が万全ならまだしも、そんなふらふらした身体で横にいられっと気が散るだろうが。おとなしく見てろ」

「……うん、わかった……」


 相手は紛れもない人喰いの怪物ども。おまけに俺もレイナもグゥル相手じゃ経験に乏しい。万が一があっちゃいけねえし、こんな所でコイツを失うのは惜しい。

 悔しい気持ちはわからんでもねぇが、ここは下がっていてもらう。


 いかにも不服そうな表情を浮かべながらも、優奈は大人達と俺達のちょうど間にある空間にちょこんと座り込んだ。

 当然、そっちにも気は配っておく必要があるな。


 さて。


「レイナ」

「ん」

「ここじゃお前の能力も使いづれぇだろ」

「え、まさかアタシも戦力外!?」

「そこまでは言わねぇが、今は後ろにギャラリーが居る。そっちを守っとけ」

「うー……まぁ、わかったよ」


 レイナには悪いが、これで安心できるってもんだ。

 記念すべきグゥルとの初戦は、敵を倒す事だけに集中してぇからな。


 ちょこんと座り込む優奈の横にちょっと気落ち気味なレイナが並んだ事を確認し、改めてグゥルの群れを睨みつける。


 一人で戦う気か! なんていう大人達のざわめきが聞こえてくるが、んなもん早々にシャットアウトだ。

 対人戦ではまず振るうことのない相棒を構え、俺の能力……〈造物主ワールドエンペラー〉を発動。


「潰れろや!!」

「「ウギィッ!?」」


 グゥルどもを重力で押し潰し、一気に数を減らす。

 何ならこれでカタがつくんじゃねえかと思っていたが、そんなうまい話は無いらしい。小型のグゥルこそ全滅したが、何故か混ざっていた大型のグゥルはピンピンしてやがる。


「ギゴ?」


 ピンピンしてやがるどころか、あれ? なんで皆死んでんの? とでも言いたそうに周囲を見回し、首を傾げている。

 あいつには全くもって効いている様子がない。つまり、それだけ硬いか、あるいは何らかの耐性を持っているか。

 生憎、俺の記憶にある全てのグゥルを思い起こしてみても、奴の情報はない。


「新種の、しかも大型ってか。どっから湧いてきやがったんだよ、てめぇは」

「ギゴゴ」


 ゴリラを彷彿とさせる佇まいの鬼。

 名前を付けるなら、「オーガ」っつーのがピッタリだろう。


 ふぅ、と息を吐き出し、空中に巨大な槍を生成。そしてすぐにそれを射出し、大型グゥル改め“オーガ”にぶち当ててみる。


「ギゴ?」

「……なんだそりゃ」


 齎された何とも嫌な結果に、俺は小さく呟くしかなかった。

 奴の巨体にぶち当たったはずの槍は、しかし傷一つ付ける事なく霧散しちまった。


 まさか、攻撃の無効化能力でも持っていやがるってのか?


「っと!!」


 そして、それまでボーッとしていたオーガは、突然気が狂ったように暴れ出し、眼前に立つ俺めがけて拳を振るってきた。


「ギゴッ、ギゴッ、ギゴッ! ギオオオ!」

「なんだってんだ、いったい」


 これまたゴリラのようにドラミングし、クソうるせぇ叫び声を上げている。

 まさか、仲間の死を理解し、怒っているとでも言うのか? グゥルにそんな概念があるのかどうかは知らねぇけど。


 暴れ狂うオーガの攻撃を避けながら、様々な攻撃を浴びせてみるが、その全てがまったく効いている気配がない。それどころか、意に介してすらいない、といった感じだ。

 ただ、俺を殺す事だけに集中してやがる。


「こいつぁ参ったな。どうやら攻撃の無効化能力を持っていやがると見て間違いなさそうだ。とすると弱点は何なんだ?」


 ふとレイナと優奈に目を遣ってみると、さっきまでは俺が負けるなんて露ほども思っていなかったと見えて、リラックスしきっていた。が、今は押されている俺を心配してくれているようだった。


「ったく、未知の相手っつーのは厄介だぜ」


 能力が効かない事はわかった。ならば、直接攻撃はどうだ?

 繰り出されたオーガのパンチを紙一重で回避し、そのまま懐にダイブ。そして、力の限り大剣型グローリーを振り、奴の胸を斬った。


「ギ……ギオオオオッ!!」

「なるほど」


 手応えあり。

 どうやらこいつが無効化できるのは「グローリーの能力」だけであって、直接攻撃は普通に効くらしい。

 ただ、馬鹿みてぇに硬ぇ事は間違いないし、普通の武器じゃ通用しないのは昔のグゥルと変わらないだろう。当然、普通の銃弾なんざ弾かれて終わりだ。

 結局、俺たちブレイブがグゥルを狩る事に変わりはない。


 オーガの分析を終えた俺は、さっさと奴の首を斬って終わらせることにした。後は死体を実家に送って調べさせりゃいい。

 幸い、そういう事に関しちゃ俺が孕ませた専属メイドに一人、抜きん出た腕を持つ女が居るから何も心配はいらねぇ。


「ギゴッ」

「あばよ」


 少しばかり手間取らせてくれたが、新種グゥル“オーガ”の討伐は完了した。

 後は美央たちに任せてもいいだろう。一応、問題が起きたらすぐに対応できるように準備はしておくが。


 さて。


「……このテレビ局、どうするかねぇ」


 中も外もすっかりホラーハウスと化したこの建物の未来を思い、少しばかり悩んだ。が、まぁ別に知ったこっちゃねえや。


「達人様」

「ご苦労。生存者が他にもいないか、グゥルが残っていないか。そこらの雑務は任せる。俺は優奈とレイナを連れて帰るからよ。フレイヤを置いてきちまったし」

「はい。フレイヤ様は現在、柚葉さんがお相手をしています」

「お、ちょうどいいや。あいつにさっきのグゥルの解剖を頼むつもりだったんだ。じゃ、後は頼んだぜ」

「はい、お任せ下さい」


 ようやく現れた美央に命令を下し、やる事を終えた俺は帰るとする。

 なんとも言えない表情でオーガの死体を睨んでいるレイナの頭を撫で、優奈の調子も一応確認し、声をかける。


「帰るぞ」

「えっ、あっ、う、うん」

「まだグゥルがいるかもしれないじゃない」

「何のために美央が来たと思ってやがる。あいつをはじめとする、ウチのメイドたちならグゥル掃除ぐらいすぐ終わるっつーの」

「アタシ、今回何もしてないような……」

「私もただ待ってただけで……」


 そんなに心配しなくても、気配からして残ってんのは小型だけだ。

 オーガの気配は覚えたし、居ればすぐにわかる。だったら俺がいなくてもどうとでもならぁ。


「何もねぇのが一番さ。まぁ、これからは忙しくなりそうだがな」

「……うん」

「グゥルの再来、かぁ」

「これで終わりって事はねえだろう。次に備えてやるべき事は腐るほどあるぞ」


 続々と現れるメイド隊に抱えられ、運ばれていく大人達を眺めながら、俺はこれから起こるであろう大混乱に頭痛を覚えた。


「あ、そうだ」

「ん? どうしたの、タツト?」

「優奈」

「何?」

「お前、今日は俺の部屋に泊まってけ。聞きたいことが山ほどあるからな」

「「へ!?」」


 俺としては大したことを言ったつもりはないんだが、レイナと優奈にとっては爆弾発言だったらしい。二人ともみるみるうちに顔を赤くし、何やらもじもじし始めた。


 割と結構急いでいるし、さっさとテレポートして連れていくか。


「ま、ままま待ってタツト!」

「なんだようるせぇなぁ」

「その、ユウナも食べちゃうの?」

「ムッツリめ。そういう意味じゃ──」

「た、たたた食べ!? ちょ、ちょっと達人くん! そ、そういうのは、その……」

「お前もムッツリか。いいから行くぞオラ。いい加減ここの空気にも飽きたんだよ」



 なんでこいつらはこんなに脳内真っピンクなんだよ。

 普通に考えてグゥルへの対策のために決まってんだろうが。


 キャーキャー騒ぐ二人にため息を吐きつつ、地味にこちらを窺っていた美央に手で合図し、オーガの死体と二人娘を連れ、俺の部屋へとテレポートした。

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無敗の帝王と勇者達の英雄譚 初音MkIII @ouga1992

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