第22話 帝王とグゥルの再来
美央から報告を受けて三日が経ったが、幸いというべきか、未だグゥルは俺たちの前に姿を現してはいない。もちろん世間でもニュースが流れた様子はない。
だが、なんというか。
そろそろ一山ありそうな予感がするんだよなぁ。
「グゥルの目的が何なのかわからねぇってのが何とも言えねえな」
「んー、たしかにね。人目につかないようにコソコソしてるってーのもまた、グゥルらしからぬ感じで不気味に思うし」
「だな」
とは言え、今日は休日。
スヤスヤと眠っているフレイヤを挟み、レイナと会話を楽しんでいる今ぐらいは、何も起きないで欲しいもんだ。
ふと起き上がり、新聞のテレビ欄を見てみると、優奈が生出演する予定の番組が目に入った。
「優奈の奴も、休日の朝からご苦労なこったな」
「んー? あー、テレビか。何気にユウナって相当多忙だよねぇ」
「生徒会長になったっつー話は芸能界でも話題になってるみたいだしな。そのせいで出番が増えてるんだろ」
「もう半ば芸能人だよね……」
「違いねえ」
時計を見ると、ちょうどその番組が放送される予定の時間になっていた。
せっかくの生放送だし、やっぱリアルタイムで見てやるのが筋ってもんか。
未だ寝室で眠りこけているフレイヤの顔を確認し、レイナと二人で番組を見ることにする。
「あぁん? なんだ、映らねえぞ?」
「あれ、本当だ。ザザザーってなってるね」
「……妙だな」
時計を再び確認するが、確かに時間帯は合っているはず。局も間違いねえ。っつーか深夜ならまだしも、朝っぱらにこの画面になっているのはおかしい。
そして。
ピーンと来た。
「おいおい、まさか……」
「え?」
悪い予感が当たっていない事を祈りながら、大急ぎでスマホを取り、優奈のスマホに電話をかける。
『おかけになった電話番号は、現在電波の届かない所にあるか、電源が──』
「クソがっ! 繋がらねえ!!」
「ど、どうしたの?」
「レイナ! VINEを起動しろ! ブレイブネットでもいい! 優奈が出演する予定だった局が今どうなってるか、情報を探せ!」
「え? う、うん。わかった」
優奈本人には繋がらねえとなると、美央と美和ちゃんを使うしかねえか。確か、二人とも美央の部屋で待機しているはずだ。
「美央、俺だ! 優奈と連絡は取れるか!?」
『達人様? いえ、彼女はテレビ番組に出演予定で……』
「その番組をやる局はどうなってる!?」
『……! い、今確認します!』
「急げッ!! 美和ちゃんにも頼む!」
『畏まりました! お姉様、今達人様からご命令が──』
まずいな。
なかなかにおいしくねえ展開だぞ、こりゃあ。
ちっとばかしのんびりしすぎたか?
「な、なにこれ!?」
「なんだ、レイナ。どうした!?」
「うちの生徒がブレイブネットに画像を載せたみたいなんだけど、ほら!」
「…………やられたっ! やっぱりか!」
レイナのスマホを覗くと、テレビ局が“表面を肉で覆われた巣のような何か”に侵食されている様子が映っていた。
間違いねえ、グゥルだ。
この画像を貼った本人も気が動転しているらしく、無数に付いたコメントに対して支離滅裂なレスを返している。
コラだろ、とかそういう類の呑気なコメントばかりなのが何とも言えねえが、グゥルに先手を打たれた形となった事は間違いない。
「グゥルどもめ、まさかテレビ局を狙ってくるとはな……!」
「あっ、そういう事なの!? そっか、確かにこんなものがテレビ局にへばりつくなんて、グゥルじゃなきゃ有り得ないか……」
「ぐだぐだやってる暇はねえ。フレイヤの事は美央に任せて、俺たちはさっさと優奈を助けに行くぞ!」
「う、うん!」
急いで美央にメールを送り、無事に送信できた事を確認してからレイナの手を取り、グローリーを顕現。
「へ?」
「テレポートするぞ。しっかり掴まってろよ!」
「へ!? ちょっ──」
悪いが説明している暇はねえ。
そして、俺はレイナを連れて、グゥルどもと優奈が待っているであろう、テレビ局へとテレポートした。
◆
「到着っと」
「えっ、ちょっ、えぇっ!? た、タツト! こんな事もできたの!?」
「ああ。って、おいおい。なんつー野次馬の数だよ……。平和ボケした馬鹿どもが」
混乱している様子のレイナには悪いが、構わずさっと周囲を確認。すると、呆れた事に一般人やらマスコミやらで、既に問題のテレビ局前には人集りができていた。
そこで、ブレイブの象徴であるグローリーを見せびらかしながら、野次馬を散らしていく事にする。
「おらおら、退けよ! 死にてぇのか、あぁ!? これは遊びじゃねえんだよ!」
「む、なんだ君……って、まさか! あの有名な、如月達人か!? 君が来るって事はやっぱりアレは──」
「うるせぇ!! とっとと失せろ! 通しやがれボケ共が!!」
またまた呆れた事に、俺の姿を確認したマスコミどもが群がってきた。
まるで餌を見つけたハイエナのようで、ちっとばかしげんなりしちまう。
「国立ブレイブ養成学園第三所属、Aランク一位の如月達人だ! てめぇら邪魔だからとっとと退けってんだよ!」
「お願いです、通してください!」
わらわらと群がる野次馬とマスコミどもをかき分け、なんとかテレビ局の入口にたどり着いた。
実際に見ると、この巣みてぇな物体は相当に大きい事がわかる。
「ちっ、バカギャラリーどもが……。そんなに死にてぇならさっさとグゥルに喰われちまえばいいんだ」
「もう、そんな言い方したらダメだよ? たしかに、邪魔だったけど……」
「まぁいい。とっとと中へ入るぞ」
「う、うん」
しっかりと段取りを踏んでからグゥルの再来を公表し、混乱を最小限に抑えるつもりだったんだが……。少々遅すぎたな。
半ばおとぎ話のような扱いになりかけていたグゥルがいきなり、それもテレビ局なんかに現れたとありゃあ、こうなるのは当然の話だ。
日本人は平和ボケしてっから尚更だろう。
呑気な馬鹿どもに苛立ちつつも、入口を塞ぐ肉塊を叩っ斬り、優奈が居ると思われるテレビ局の中へと侵入。
しかし、そこはまるで別世界だった。
「なんっだ、こりゃあ……」
「アタシの家が襲われた時とは、まるで違う。こんなの初めて見るよ……」
「そうか。となると、やはりグゥルも進化してやがるんだろうなァ……」
生物の中にでも入り込んじまったかのように思えるほどに、気味が悪い。
そこら中が赤い肉壁に覆われ、所々がまるで生き物のように、ドクン、ドクンと脈打っていやがる。
同じブレイブ相手ならまず負ける気はしねえが、グゥルを相手にするのは初めてだ。いくら俺でも油断はできねえ。
最大限に警戒しつつ、優奈や生存者たちの姿を探していく。
すると──。
「キーッ! ウキキーッ!!」
「あぁん?」
「グ、グゥル?」
四つ足で歩くトカゲみてぇな生き物が、わさわさと蠢いているのを発見した。
ただし、トカゲとは違い、何やら横に長い耳らしき物体がついている。
昔読み漁ったグゥル図鑑の中には、こんな奴はいなかったはずだ。
「新種か」
「みたい、だね。アタシの家族を殺したのは、もっとおっきくて……デーモン……悪魔みたいな奴だった。あと、ドラゴンみたいなのも居たよ」
「ふむ」
ぱっと見た印象では、それほど強そうには思えねえ。雑兵だろうか?
まぁ、何にせよ──。
「ぶっ殺しゃぁわかる。コイツらが、強ぇのか弱ぇのかなんてなぁッ!!」
「ウギィ!!」
テレビ局そのものが崩壊しない程度に重力をかけると、奇妙なトカゲ型グゥルはあっという間に潰れて死んだ。
なるほど、弱ぇな。となると雑兵か。
「そういやぁ、美央が見たのは小型だけだったとか言ってたか。っつーことは雑魚しか来てねえのか?」
「それでも、テレビ局をまるまる覆うような巣……っぽいものを作れるんだから、油断はしないでね」
「ああ、わかってる」
青色の血という何とも気持ちわりぃ液体をぶちまけたグゥルの死体を一応回収し、実家にテレポートさせておく。解剖する事で多少は成果があるといいんだが。
「…………」
「んだよ?」
「い、いや。よく平気で触れるなって」
「まぁな」
如月家の、そして人類のためだ。気持ち悪いから触れないよー、なんて言ってられるか。俺は如月の次期当主なんだからな。
その後も警戒しながら進んでいくが、なかなか生存者は見つからない。優奈も、見つからない。
「ちっ。テレビ局ってのは随分と面倒な構造をしてやがんな」
「たしかに」
確か、テロリストとかに占拠された時に備えて複雑な構造になってるとかどうとか、聞いたことがある。だが、今回みてぇにグゥルに襲われたっつー時はただ面倒くせぇだけだな。
たまに現れる例のトカゲ型グゥルを蹴散らし、あえて声を上げてみたりしながら生存者を探すが、やはり見つからない。
だが死体もまだ見ていない以上、早々に見限るわけにもいかねえ。何より優奈をまだ見つけられてねぇんだしな。
そして、ようやくスタジオらしき場所を見つけ、中を覗くと──。
「はぁ……はぁ……。き、キリがないわね……助けはまだ来ないの……?」
「ウキキッ」
「ウッキッキー」
「ギゴゴゴ……」
「「ひ、ひぃぃぃ……!!」」
隅っこで震えながら縮こまっている芸能人やスタッフと思われる人間たちと、彼らを守りながらグゥルの大群と一人で戦っている優奈を、やっと発見した。
問題は、大型のグゥルも混じってやがるって事だ。
ま、何はともあれ。
「行くぞ、レイナ」
「うん。ユウナを、助けよう!」
俺とレイナは頷き合い、グゥルどもの後ろ……入口から、群がるグゥルを吹き飛ばしながら颯爽と登場した。
「……この非常識な現れ方は……」
「よーぉ、優奈ちゃーん。まだ生きてたみてぇだな」
「ユウナ、大丈夫!? すぐに行くからね!」
どれほど戦っていたのかは知らねえが、相当お疲れらしい優奈は、俺たちの顔を見るや否や天使の微笑みを浮かべた。薄らとだが、涙すらも見える気がする。
「待ってたわ、二人とも……」
「「た、助けが来たのか!?」」
「って、たった二人じゃないか!」
「け、警察やプロのブレイブたちは何をやっているの!?」
「しかもあんな子供だぞ!」
「もうダメだぁ……私達は皆あの化け物たちに食われて死ぬんだぁ……」
「「…………」」
あまりにも情けない大人達に、俺とレイナ、そして優奈は、同時にため息を吐いた。それはもう、深く、ふかーく。
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