地獄に新築一戸建てはじめました!!

ちびまるフォイ

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「さぁ見ろ! 念願のマイホームだ!」


ついに完成した新築の家を見て思わずため息が出た。


「すごいわあなた。プールつきの3階建てだなんて!」

「パパすごい!」


「そうだろうそうだろう。一軒家にするなら広くなくっちゃ」


「でもどうして……」


子供は周りを見渡した。


「どうして地獄に新築をつくったの?」


「HAHAHA。それはね、現実世界は土地が鬼のように高いんだ。

 でも地獄なら土地が安いからね。

 こんな豪邸を建てられるのも地獄だからなんだよ」


家の周りには針山地獄やかまゆで地獄が見える。

悪人の悲鳴がこだまして土地が安いのもうなずける。


「でも安心しなさい。この家にはノイズキャンセルと

 偽造窓があるから地獄の風景を見ることはないよ。家に入ってみなさい」


両親にうながされて家に入ると、窓から見える風景は地獄のそれではなく

青空が広がり海が見える絶景が映し出されていた。


さっきまで聞こえていた阿鼻叫喚の声も届かない。


「どうだい? 快適だろう?

 地獄に家を建てたからには、せめて家の中は快適にしないとね」


「ステキよパパ!」

「パパすごいや! 略してパパイヤだね!」


「それちょっと意味わかんない」


家族は平和で不自由のない生活を満喫していた。

地獄に家を建てる物好きなどほかにいないので近隣トラブルもゼロ。

穏やかな日常が続いていた……。


ある日、家に帰ると子供がいないことに気が付いた。


「あなた息子がいないわ!」


「なんだって!? ここは地獄だぞ!? どうして目を離したんだ!

 どんな悪人がいるのかわかったものじゃないのに!!」


2人は家をくまなく探したが見つからない。


「まさか外なんじゃ……」


「地獄に巻き込まれてたら終わりだぞ!!」


両親は血相を変えて外へ探しに向かった。息子はすぐに見つかった。


「それでね、僕のパパったらすごいんだ」


「ははは。それはオニ面白いオニ」


息子は地獄のオニと親しげに話していた。

両親はあわてて息子の手を引いて家に連れ戻した。


「パパ、どうしたの?」


「それはこっちのセリフだ! 地獄の連中と関わるなんて正気か!?

 いったいなにされるかわからないぞ!」


「そうよ。ここは地獄なのよ。みんな悪事にしか興味ないわ」


子供をしかりつけた二人はすぐに対策をすることに。


「あなた……うちの子が狙われたらどうしましょう」


「そんなこと絶対させないさ。バリケードを作ろう。

 地獄の誰もが見ただけで恐れをなしてこなくなるようなものを」


「防犯システムも必要ね」


「ああ、監視カメラに赤外線センサーに圧力探知機を入れよう」


「あなた。もしうちの子がまた外に出ようとしたら?」


「そんなことさせない。内側からも外側からも開かないようにする。

 僕が開けない限り、ネズミ一匹出入りさせないよ」


「これなら安心ね!」


両親は業者を呼んで家に完璧な設備を施した。

もはや家というより要塞で外からも中からも出入りは難しい。


「ははは! できた! できたぞ!

 これなら地獄のどんな奴が来ることはない!!」


「そうね、きっと見ただけですぐに帰るはずよ。

 これで息子も安心して生活できるわ」


両親はひと安心。

もう地獄の住人がよりつくことない。



が、その後、地獄の罪人たちがぞろぞろと家に列をなしていた。


「なんだこれは!? いったいどうなってる!!」


父親は慌てて先導する鬼へ向かって聞いた。


「おい! この罪人たちはなんなんだ!

 どうして我が家の前に列を作ってる!?」





「え? だってここ、新しくできた地獄の設備……

 『監獄地獄』だって聞いたんですけど」


鬼は目を丸くして答えた。

我が家から延びる罪人の列は果てしなく続いていた。


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