#新たな一歩の存在証明
「 出水計」
クラスに勢いよく俺の名前が鳴り響く。しかしその音に反応する者はいない。
「出水計?いないのか?」
もう一度俺の名前が鳴り響いたところで何かに気づいたかのように彼女は教壇から下りる。
数秒後、教室に打撃音が響く。
「入学初日から寝てるバカな奴がいるか」
そこで俺の意識がやっと元に戻る。
「すいませんでした!」
現実世界に引き戻されたその瞬間になにが起こっているのか完璧に理解した俺は即座に謝った。
「お前は後で職員室にこい」
しかし謝罪の結果は当然のような結末を迎える。まさか入学初日から職員室に呼ばれることになるとは。
一応ここで紹介しておこう。 彼女はこのクラス、つまり1年3組の担任の日置麗奈先生だ。
なぜ入学式の出欠を取る段階で彼女の名前を知ってるかというと、彼女は俺の中学ではそこそこな有名人なのである。隣街に残念美人な先生がいるだとかバイクにまたがって高校に出勤しているとんでもない先生がいるだとか、その噂は決して近くはない俺の中学にまで轟いていた。
さて、脳内で担任の紹介をしたところで俺を呼び止める声がした。
まだ知り合いはいないはずだから、初日から職員室に呼び出されたことを見ず知らずのやつに煽られるのか、と思ったが予想外の声の主に俺は言葉を失った。
「計じゃねーか!やっぱそうだ、お前なに入学早々しでかしてるんだよ」
「え、なんでお前が…」
「それはこっちのセリフだよ。なんでわざわざこんな遠い高校に来てるんだよ…」
「ちょっと、いろいろな…」
少しでもごまかそうと試みる。いくら知人とはいえ高校デビューしようと思ったなんて告げるのはバツが悪い。
「なんだそれ…。俺は高校デビューするためにこんな遠い海見高校にきたってわけさ」
そういえばこいつも中学じゃ結構浮いていたっけな…。まさか入学初日から俺と同じようなやつに出くわすなんてな…
「ところで総司、お前まだオタク趣味は続けてるのか?」
こいつの名は曽於総司、中学では超有名人だった。悪い意味で…。その悪名高いエピソードの数々はまた今度話すとしよう。
「おい、計」
「ん?なんだ?」
急に口ごもった総司に対して緊張を覚える俺。
「俺がオタクだったことは誰にもいうな。高校ではお互いの中学時代の話は極力しないようにしよう」
なるほど、と納得。確かに黒歴史ともいえる俺らの中学時代のことが明るみに出れば、高校デビューはおろか、普通の高校生活さえ危ぶまれるからな…。
「わかった。お互い明るい高校生活をおくろうな…」
こうして謎の友情をみせたところで知人0の高校生活はどうやら崩れ去ったが相手が相手だけに心配はなさそうだった。
「ところで計、先生のところに行ったあとにお前に付き合ってほしい場所があるんだけどいいか?」
「なんだよ、初日から怒られに行く俺になんか奢ってくれるのか?」
「そんな甘ったるいことはしてやらないが、知人のよしみとしてもしかしたらお前の高校生活をバラ色にしてくれるかもしれないところに連れてってやるよ。」
何か嫌な予感がしたが特にすることもない俺は二つ返事で了承した。
モテない男と青春命題 鹿屋直哉 @kanoya_naoya
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