第17話

アリアの用意が終わり、アリアの魔法で山の麓にたどり着く。

「山ぁ?」

「ええ。この山の頂上……近くにある竜の巣……の近くにある祠の中にあるわ」

「いちいち間を置くな」

「えへへ」

アリアは足を踏み出す。人の手が加わった道はそれなりにあるものの、既に荒れ、楽とは言えない。

それでもアリアは軽々と進んで行く。

「転移するならその祠の前でもよかったんじゃないか?」

「封印石は魔法を拒むのよ。転移できる範囲の1番近いところがあそこだったの。」

石を登る。

「魔法禁止ってわけじゃないから、安心なさい。弾くのは転移だけなの。」

草を掻き分け、再び道に出る。

「もちろん向けられた魔法は無効化するけど、それ以外は威力が落ちるってだけで。……と。着いたわよ。着いたけど……」

「けど?」

「ドラゴンが入り口塞いでるの」

なるほど顔を覗かせてみれば、人の手の加わった小さな建物の入り口にドラゴンが眠っている。

「どうするの」

「起こしてどいてもらわなきゃ。」

「俺、アマツキみたいな加護ないけど」

「……じゃあ、力づく……」

物騒だな。

アカツキは何も言わずにナイフを抜いた。

「怪我しないようにね。治癒術すごく苦手なの、あたし。」

「ハナから期待してない」

なにそれぇ、ちょっとひどいんじゃないー?というアリアの文句は無視し、ドラゴンへ近づく。

大きさはアカツキを二人ぶんか三人ぶん上に詰んだ程の高さで、横はアカツキ何人分だろうか。さながら岩のようだ。

竜は何度か対峙したことがある。この大きさは、大人だろう。怒らせると怖いだろうが、怒らせないようにこの場を立ち去ってくれる方法は?

竜は頭が良い。脳が大きいからだろうか。

会話はできないものの、理由を理解してくれればあるいは。

などと考えていると竜が目を覚ました。

「ヒェ」

その大きな瞳でアカツキを捉える。

するとすぐさま耳を劈く咆哮を挙げ、同じく大きな腕をアカツキに向かって振り下ろす。

なんとか躱すことはできたものの、衝動でできた窪みはかなり深い。あんなものを食らってはひとたまりもないだろう。確実に死ぬ。

「アカツキ、後ろ!」

アリアの声に咄嗟に上空へ跳ぶ。

ついさっき自分が居たところが太い尻尾で薙ぎ払われる。

「ヒェェ」

竜が翼を広げる。アカツキは咄嗟にその翼を掴み、上に乗る。それに気づいたのか、竜は右へ左へ、アカツキを振り落とそうと暴れる。

「この……やろぉ」

「後ろ!」

捕まるのに必死で背後を見ていなかった。竜は背中にくっつく虫を潰してしまおうと、岩壁へ背中を擦り付けようとしていたのだ。

避けることはできない。ぎゅ、と強く目を瞑るが、衝撃は来なかった。

「あれ?」

「しっかりなさい!石を持ってきたらあとは逃げるだけよ、やりあう必要はないわ!」

見ると、アカツキの背後に薄い光を放つ壁が出現していた。魔法だ。

竜から手を離し、受け身を取って地面に降りる。

竜はこちらを見つけられていないのか、キョロキョロと辺りを探している。

竜の視界に入らないよう注意を払い、祠へ入る。

中は静かだった。

奥へ進むにつれ、壁に絵が現れていく。

何人かの人物の絵。もう何年も経っているのだろうか、絵はどれも古いものだった。

光が一筋、指している場所があった。

その場所へ行くと、件の少女が映し出したものと同じ石があった。

虹色に、美しく輝く石。

手を伸ばし、掴む。

手触りの良いそれが不意に光を放ち、壁を照らす。

『眠…し御子よ』

「……文字?」

『石の封…の元… 永久に』

ところどころ掠れてよく読めない。消えている文字もある。

外から咆哮が聞こえた。怒り狂う叫び。

そうだ、文字を読んでいる暇はない。

アカツキは外へ向かった。

最後の文字を読むことなく、踵を返した。


『此の封印は、魔女キルケのもの也』

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ソルティ @Pastel

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